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1.

 冷たい声の元へ振り向くと――そこには、黒い髪を伸ばし、黒と紫の衣装を纏う――わたしが初めて魔法少女になって、初めてネガエネミー戦った時。目の前の敵を一撃で葬ったあの魔法少女が、こちらを睨み、空に浮かんでいた。


「あれは……冷黒(れいこく)の狩人――!?」


 冷たく突き刺さる声に、最初に反応したのは――八坂さんだった。『冷黒の狩人』――この辺りの魔法少女たちの中で知れ渡っている、その異名。


 一人、ただひたすらにネガエネミーを倒し、コアを集め続けているという魔法少女が、何故ここに?


()()()()()――ですか。冷黒の狩人――黒咲稀癒(くろさき きゆ)さんも、この獲物を狙っていたのでしょうか?

 申し訳ありませんが、そうであれば既に私達で倒してしまいましたので――」


 冷たく、鋭い眼差しを向ける彼女に対して全く動じずに、変わらず丁寧な口調で続ける、氷乃さんの声を遮って――冷たい声が、再び放たれる。


「これだから理解力の無い人間は面倒だわ。……私が()()()『命岐橋』を、よくも壊してくれたわね――そう言っているのよ。分かってくれたかしら?」


「育、てた……? ちょっと、貴方、何を言っているの……!?」


 八坂さんは、その言葉の意味自体は理解できるものの、理解し難いその言葉を受け――震える声で聞き返した。


「――私が一から都市伝説を創り出して、ネガエネミーへ具現化させ、()()()()()()()()、私の願いを成就させる為のエネルギーを育てようとした――そのための命岐橋を貴方達は壊した。私の計画を――邪魔したのよ。覚悟は出来ているわね」


 その言葉を聞いたわたしは、まさかと思った。今まで戦っていた都市伝説が――()()()()()()()()()()()()()()()なんて。


「ありえない……」――そう、思わず声を漏らしてしまう。


 そして、平気な顔で――人を殺そうとした、その魔法少女に――怒りがこみ上げてくる。本来、人々を助けるべき立場である魔法少女が、自らの願いを叶える為だけに、無関係の人を犠牲にするそのやり方に。


「有り得ない? ……自分の価値観だけで、人を推し量るのは良くないわよ」


 黒咲稀癒(くろさき きゆ)――氷乃さんがそう呼んだ魔法少女は、そう言い捨てると、続けて。


「ああ、そうそう。十分に育ったネガエネミーを狩る為に残しておいたコアが余っているんだけど、もう使い道が無くなってしまったわね。だって、貴方達が壊したんだもの。命岐橋を――ふふっ」


 彼女は不敵に笑うと――


「サポポン。『チャージ』――()()()


『はい――.』


 狂ったような笑みを浮かべながら、言い放つ彼女の言葉に――隣のサポポンは、言われるがままに従った。


「ご……五百ですって!? いくら何でも……貴方、本当に死ぬわよ!?」


『死ぬ――どころじゃ、済まねーかもな』


 八坂さんとそのサポポンが、その突拍子のない、無謀とも言える行動に、止めに入る。


 さっき、たったコア一つ分チャージしただけでも能力が向上すると同時、恐ろしさをも感じてしまったその力を――一気に五百も。この力の事をよく知らないわたしでさえ……こんな無茶をして、ただで済むとは思えない。


「アハッ、アハハハッ! 死んでしまう……それも良いかもしれないわね。それと引き換えに、私の計画の邪魔をした貴方達を――グチャグチャに出来るのならッ!」


 そう叫ぶ間にも、みるみるうちに、サポポンが吐き出したコアのエネルギーが彼女の身体に取り込まれていく。


「魔法少女になってから二年間――私はどんな思いでネガエネミーを倒し続けてたと思う? それを赤の他人に勝手に踏み躙られて、我慢できると思う?」


 どこか、悲しみも混ざったような――そんな叫び声を響かせて。


「――魔法少女として? ハハッ、笑わせないで。もちろん()()()()()――この有り余る力で、殺してあげる」


 あのコアのエネルギーを全て取り込めば最後、手遅れになるだろう。それを止めようと躍起になる八坂さんだったが――一歩遅かった。間に合わなかった。


 五百のコアのエネルギーを吸い尽くした黒咲稀癒(くろさき きゆ)は、人間……それどころか、もはや生物(せいぶつ)と呼ぶのが躊躇われるような、虹色に光り輝く、未知の物質へと変貌していく。


 人間、さらに魔法少女をも超える――異類の存在へと、昇華する。

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