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2.

「……ネガエネミーはどこだろう……?」


「居ない、みたいね。確かにここのハズなのだけれど……」


 昨日の昼にもやってきた、この街で広まっている都市伝説――その現場である、命岐(みわかれ)橋へとやってきた二人。そこにはネガエネミーの姿も、人の姿も何一つなかった。あるのは、それがやけに奇妙に感じる『静寂』だけだった。


 人がいない――都市伝説通りに事が進んでいるとすれば、橋から飛び降りようとする人が見当たらないということは、まだネガエネミーによる被害が出ていないということだろう。


 サポポンが反応を見つけてから、直ちに向かった甲斐があった。……それは喜ばしい事なのだが――同時に、倒すべき敵も見えないのが、どこか不穏な空気を感じさせる。


 サポポンの案内の通り、ここにネガエネミー……その中でもさらに強敵である、都市伝説が具現化したネガエネミーの反応はここだと言っていたはず。


『確かに、反応はこの辺りで間違いないよ。こんなに大きな反応、間違えるなんてあり得ないからね』


『オレのレーダーも、ここで間違いねーって。どっかに隠れてんじゃねーか?』


 わたしたちのサポポンも、両者、こう自信満々に言うのだから間違っているということはないはず。今までだって、サポポンは正確にネガエネミーの元まで案内してくれていたのだから。


 だとすれば――ぷにぷにの、スライムのようなサポポンが言った通り――どこかに隠れているのだろうか。


「でも一体どこに隠れるというの? とてもじゃないけど、そんなに都合よく、ネガエネミーのような大きな物が隠れられる場所なんてあるのかしら……?」


 そんなサポポンの仮説に、八坂さんが悩みながらも答える。


 確かにその通りで、今まで戦ってきたネガエネミーだって、都市伝説でもないのにかなりの大きさだった。それを超えるというネガエネミーが――姿を完璧に隠し切るなんて難しいだろう。


 そう思い、もう一度。辺り一体を見回してみるが……その姿はやはり、どこにもない。


 そういえば……今までのネガエネミーも、その起源にまつわる特殊な力を持っていた。『窃盗』の悪意が、わたしの攻撃を盗んだように。『浮気心』のネガエネミーが、多種多様な武器に浮気していたように。


 ならば。命岐橋……この古びた橋から飛び降りることで成立する都市伝説。その内容を思い出しながら、わたしは考える。


 例えば。この都市伝説を信じて――橋から人が飛び降りた――その先といえば?


「もしかして……」


 都市伝説の内容から連想して、行き着いた考え。わたしが指を差したのは――この橋から飛び降りてから、最終的に行き着く場所――つまり、川の中。


「……確かに。都市伝説の内容からして、その可能性はありそうね。物は試しとも言うし、とりあえず――撃ってみましょうか」


「……はいっ!」


 もしそこにいなければ、また違うところを探せばいい。いくら時間がゆっくりに流れているといっても、早めに決着を着けるに越したことはない。


 わたしと八坂さんで隣同士、並び――橋の下、川の水面へと手を向ける。そして、最大限まで溜めた、魔力――内なる力を――一気に解放するっ!


 ――ギュイイイイイイィィィィィィィッ!!


 放たれた黄色と桃色の二つのエネルギー弾が……水面に向けて放たれる! ――ザッパアアアアァァァッ!! 高く上がった水飛沫に隠され、着弾点は見えない。


 やがて、水飛沫が収まってきた――その直後。()()()()()()()()()()()()()()()()のが見えた。


 ――バシャアアアアアアアァァァァッ!! と、わたしたちが起こしたものよりも、さらにひと回り大きな水飛沫を上げて、川の奥底……そこから飛び出してきたのは――


 本当に今まで、川の底に隠れ潜んでいたのか信じられず、目の前に見えているものが怪しく思えてしまうほどに。


 今まで、わたしが相手にしてきたどのネガエネミーとも比べ物にならないほどの、圧倒的な大きさで。


 黒く、目の前にした者に絶望を与える――巨大なクジラのような、まだ薄暗いこの場所で、薄気味悪く赤く光る目を持った、そのネガエネミーが現れる。


 雨のように降り注いだ水と共に露わになったその身体は、川幅を遥かに超える大きさで……潜んでいた川の中は、どこか異次元にでも繋がっていたんだろうとしか考えられない、そんな大きさだ。


 ……命岐(みわかれ)橋から飛び降りた後、二つの道が開かれる。もし、川の底が本当に『異次元』になっていたとすれば――これも都市伝説の内容へと繋がる。


 このネガエネミーは川の底に。本当に異次元を作り出していて――そこへ潜み、飛び降りる人を待っていた――という、この都市伝説に関する仮説が立てられる。


 不思議な事ばかりで、驚いてばかりではキリがないからと、わたしはもう驚くことをやめよう――そう思っていたのだが、さすがにこれには驚きを隠せなかった。


「――ッ!? いくら何でも、大きすぎるわ……。私が前に相手にした都市伝説なんかとは比べ物にならないくらいに。あんなの、本当に倒せるのかしら……?」


 わたしは他の都市伝説を見たことがない。……が、目の前の敵があまりにも大きく、そして手強いであろうことを、その大きさ、そして放たれる威圧感から感じ取っていた。


 しかし、今、こうして戦えるのは魔法少女であるわたしたち二人だけ。


「……でも、この街を守るために――戦うしかありません! 行きましょう、八坂さんっ」


「そうね。こうして目覚めさせちゃったんだもの。最後まで責任は持たなくちゃ。……でも、気をつけて。あれは都市伝説の中でも、本当に()()()の敵かもしれない。いつも以上に、それ以上に――気を引き締めて行きましょう」


 黄色と桃色の二人の魔法少女。それに対するは――たった二人で立ち向かうのが無謀とも思えるほどの、圧倒的な大きさの黒いクジラのネガエネミー。


 わたしが魔法少女になって、初めての――いわば『ボス戦』とも言える、最大の戦いが幕を開けるのだった。

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