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魔法少女・朝野こむぎはフランスパンで殴る。【完結】  作者: 束音ツムギ
第二章 Urban Myth “Miwakare Bridge”.
23/51

6.

『あれが今回のターゲットだ! 二人とも、頑張ってくれよなっ』


 水色でぷよぷよした、八坂星羅のサポポンが先導し、ネガエネミーの反応がある場所へと案内してくれる。


 ……それにしても。一口にサポポンと言っても、全く別の見た目であったり、その性格も様々らしい。どのサポポンも役目は変わらず、魔法少女のサポートが仕事であるらしいが……。



「うう……。やっぱり気持ち悪い見た目だなあ……」


「私もまだ慣れないわ。というか、見慣れちゃいけないわよ……こんなの」


 目の前には、充血した眼球に、赤色の触手が後ろに伸びるように生えているという、ネガエネミーらしさのある、奇妙で不気味なのに加えてグロテスクさもある、それが浮かんでいた。


『こむぎ、一人で戦うのと共闘するのじゃ、勝手が違うと思うから……。「魔法少女は、互いに力を高めあえると同時に、相反するものでもある」――これを覚えておいて』


「うーん。分かったような、分からないような……。それじゃあ行ってくるね、サポポン」


 こうしてわたしと八坂さん、二人の魔法少女は目の前に現れたネガエネミー――わたしのサポポンが言っていた補足情報によれば、『悲しみ』の感情が具現化したものらしい――の元へと向かう。



 ***



「あのタイプは何度か相手にした事があるけど……あれはとにかく『動きが速い』から気をつけて」


「わかりましたっ! 他に気をつける事は……?」


「速い以外は、特にこれといった特徴はない……って言いたいところだけど、同じ種類でもネガエネミーによって個体差があるから、くれぐれも油断は禁物ね」


 わたし一人で戦っていた時は、まず様子を伺い、敵の特徴を確認するところから始まった。しかし、他の魔法少女……それも、経験豊富な先輩魔法少女の知識のおかげで、その必要がなくなった。


 改めて。わかりきっていたような事ではあるものの……一人よりも二人なんだな、と実感した。


 しかし、まだわたしは魔法少女についての知識については乏しい。あのネガエネミーも、初めて見るタイプのものだった。……そもそも、似たようなネガエネミーがいるという事さえ初めて知ったくらいだ。


 知識で力になれない分、わたしは――戦闘面で力になろう。そう思った。


「それじゃ、まずはわたしが行きますっ」


「えっ、ちょっと――落ち着いて、まずは作戦を――」


 知識では敵わない分、戦いでは良いところを見せたい。そして、力になりたいと――そんなわたしは、八坂さんの静止にさえ聞く耳も持たずに、そのネガエネミーの元へと飛んでいく。


 そもそも。敵の特徴だったり、行動だったり、気をつけるべき事さえ分かってしまえば……今まで、わたしが戦ってきた通り。


 その特徴に気をつけながら、ただ倒しにいくだけ。それに、攻めなければ――いつまで経っても戦いは終わらないのだから。ばっ! と前へと出ると、わたしは――


『――Deliele Ga Full Flowa【BREAD(ブレッド)】――Convert――っ!』


 胸の奥から溢れる『言葉』を紡ぎ――唱える。すっかりわたしの得意武器となった、槌のように硬く、剣のように長いフランスパンを魔法で焼き上げると――それを片手に、目の前でこちらを凝視する、グロテスクな眼球と向かい合う。


 そして、最初に動いたのはわたしだった。向こうが素早いのなら、こちらも速さで。短期決戦を狙い、突撃していった。……しかし。


 予想に反して、その前方にいた眼球が馬鹿正直に。まっすぐこちらに突進してきたのだ。それも、わたしの想像していた速さの、さらに上を行く圧倒的なスピードで。


「ま、まず……ッ!?」


 わたしは咄嗟に、眼球の突進を避けようと左に逸れるが……その速さの前には間に合わず、右肩へと。見た目に反して硬いその眼球が、速度を乗せて思いっきりぶつかり、強打する。


「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 わたしはハンマーを振り下ろされたのような激しい痛みに叫び、初めて経験したその痛みに耐えられず、バランスも失い――そのまま地上へと落ちていく。そして、コンクリートの道路へと投げ出されようとした――その時。


 ふわり……と、優しい感触に包まれる。


 あまりの恐怖にぎゅっと瞑っていた目をゆっくりと開くと――そこには、呆れたような、怒ったような――そんな表情を見せながらわたしを抱き、地面に降り立った八坂さんの顔があった。


「だから落ち着いてって言ったでしょう……。貴方一人の時ならともかく、今は私も戦えるんだから。それとも、私じゃやっぱり頼りなかったかしら?」


 どこか悲しそうな声で、表情で。そして、怒りも混じったような……そう言う彼女に、わたしは――


「い、いえ……。もちろん、そういう訳じゃないです。……ごめんなさい……」


 もちろん、八坂さんは会ったばかりだとしても――頼れるわたしの先輩だ。……それでも、まだまだ魔法少女としての経験が足りないなりに、力になりたかった。……それだけなのに……かえって足手まといになってしまった。


 全ては、自分が役に立ちたいと――つい、先走ってしまったからだろう。そして、一人の時は何とかなっていたからといって、わたしは心のどこかで調子に乗ってしまっていたのかもしれない。


 ふと、サポポンの言葉を思い出す。


 ――『互いに力を高めあえると同時に、相反するものでもある』。


 まさに、サポポンが言いたかったのはこういう事だろう。わたしが独断専行で向かっていったせいで。サポポンに覚えておいてと念を押された直後に、こんなことになってしまうなんて……。そう、わたしは深く反省する。


「大丈夫? もし無理そうなら、そこで休んでて。私一人でも何とかなるとは思うから」


「い、いえ! まだ戦えますっ」


「くれぐれも無理は禁物よ。……せっかく二人いるんだから、一人で先走らないで、もっと『連携』を大切にね」


「……はい!」


 一人で戦っている訳じゃない。……そんな、とても当たり前の事を再確認させられたわたしは、再び立ち上がり――二人一緒に、飛び立った。

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