第16話 聖女様と牽制
「おはようございます、マ……久堂君!」
「お……おはよう」
俺が教室に入ると、セイさんが満面の笑みで俺に挨拶してきた。
それは特段珍しいことではない。が、剣持を除く取り巻きは気まずそうな顔をするか、俺を睨んできた。
あー、やっぱそうなるかぁ……いやだなぁ、目を付けられるの。
と、今度は剣持までこっちに近付いて来た。
「やあ、久堂。おはよう」
「……おう」
こいつも苦手だ。なんか爽やかすぎる。剣道部次期主将ってだけで、腕っぷしも相当なものだろう。カメラが趣味のインドア全力疾走の俺とはえらい違いだ。
「久堂君、本当に昨日はすみません」
「き、気にすんな。大丈夫だから」
小声とはいえ、こいつらがいる前で昨日のことは蒸し返さないでほしい。居心地が悪いから。
「ところで久堂君って、ご飯はいつも売店でしたよね」
「……そうだけど……」
「実はお弁当を作って来たんですけど、よかったら貰ってくれますか?」
ザワッ――!
教室内がざわついた。
それもそうだ。あの十和田聖が……学園の聖女様が、男に弁当を作って来たんだ。
しかも相手は帰宅部エースイケメン担当の夜野咲也でも、剣道部エースイケメン担当の剣持飛鳥でもない。
ほぼ関りのない、一般人代表の久堂真日だ。
差し出された巾着袋と、セイさんを交互に見る。
屈託のない聖女の微笑みについ見惚れてしまう。
どういうことだ? 何を考えている? セイさんは昨日買い物に行って、キッチンで料理をしていた。弁当箱に詰めていたのも見ている。じゃあなんで昨日のうちに俺に渡さなかった? そうすれば、こんなに注目されることもなかったのに。
色んな考えが頭の中をぐるぐる巡る。
すると、剣持が「へえ」と口を開いた。
「聖さんが久堂に弁当を作って来るなんて、珍しいな。やっぱり昨日の?」
「はい。でもそれだけじゃなく、久堂君とは個人的に仲がいいんですよ。かなりお世話になっていますし、これはそのお礼も兼ねてといいますか」
セイさんのその言い回しに気付いた。
これは、牽制だ。
自分の友人かつ恩人だから、弁当を作ってくるのは当たり前だと。
そして自分の影響力を把握した上で、教室のど真ん中でそれを宣言した。弁当を渡すほど親密な関係だから、「久堂真日に手を出したらおこだぞ♡」というのを遠回しに説明したのだ。
恐らく、剣持もグルだろう。すごく楽しそうに笑いを堪えてるし。
俺とセイさんの詳しい関係までは知らないだろうけど、昨日の剣持を見た感じ、人を嘲るのを嫌っているみたいだ。
だからセイさんに頼まれて協力したってところだろう。
セイさんの読みは見事的中。
取り巻きたちはなんとも言えない顔で、俺から顔を逸らした。
それを横目で見ていたセイさんは、俺にしか聞こえない声で「計画通り」と発した。悪い顔してるなぁ、セイさん。
「はい、久堂君。どうぞ」
「あ……ありがとう」
俺は二重の意味を込めてお礼を言い、巾着を受け取った。
セイさんの料理の腕は間違いない。恐らく、冷めた弁当でも相当美味いだろう。
それを手に席に座ると、教室に喧噪が戻って来た。
「やあ真日。いいもの貰ったね」
「おはよう、咲也。……あー、咲也は貰ってないのか?」
「僕は手作りクッキー貰ったよ。もう食べちゃったけど」
おま、あの【トワノセイ】の手作りクッキーだぞ。お前は知らないだろうけど。
これ、真実を伝えたらどんだけ後悔するだろう。ちょっと見てみたい。
「あの聖女様の弁当かぁ。どんなものか気になるね」
「ハンバーグ」
「……なんでわかるの?」
「いや、願望」
「ああ、そういえば真日って、ハンバーグ大好きだったね」
納得したように頷く咲也。
まあ、昨日作ってたのを見てたからな。しかも俺の好きな、チーズインハンバーグだ。
セイさんの作ってくれたチーズインハンバーグ……今からとても楽しみです、はい。
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