第15話 聖女様と激おこ
「むぅーーーーーーー!!」
「まだ怒ってるの、セイさん?」
俺がスタジオに帰ってきてから、直ぐにセイさんも帰ってきた。
が、それから一時間。今もずっとむくれている。
「だって、だって……! むきゃあーーーー!!」
「頼むから会話をしてくれ」
さっきからこの調子だ。
ソワソワと動き回り、たまに地団駄を踏む。そのせいでこっちの作業も進まない。
「私、激おこです! コスプレを馬鹿にする発言、許すまじです!」
「いや、コスプレというより俺らを下に見た発言だった気もするけど」
「なおのことです! マナさんはコスプレ界では結構な有名人なんですよ!? それを……むぅ! むしゃくしゃしますー!」
子供みたいに怒る子だな。
あと、あんまり暴れないで。埃が舞うでしょ。
「でも、剣持が嗜めてただろ。セイさんも怒ってくれてたし、俺はそれで満足だ」
「……マナさんは、もっと怒ってもいいと思います」
「あそこで俺が逆上しても、【MANA】としての名前を傷付けるだけだからな。せっかく稼げて、いい感じに名前も売れてるんだ。ここで変なことに首を突っ込むのは得策じゃない」
ちょっとカチンと来たけど、あそこで言い返すと学校での立ち位置も危うくなるし。
「……マナさんがそれでいいなら、いいですけど……」
「おう、そうしとけ」
ようやく溜飲が下がったのか、セイさんは深々とため息をついた。
「ところで、ヤケに早かったな。カラオケは行かなかったのか?」
「あんな空気で行っても楽しくないですからね。今日は直ぐに解散となりました」
「だろうな」
思わず苦笑い。
むしろ、あの空気でカラオケをする胆力なんて、誰にもないだろう。
「悪いな、俺らのせいで」
「そんな! あれはみんなが悪いんです!」
まあそうなんだけどね。
だとしても、せっかくセイさんがみんなと遊べる機会だったのに、それを潰してしまったのも事実だ。九割方、自業自得だけど。
セイさんは制作用の服に着替え、髪をポニーテールに纏めて俺の手伝いを始めた。
「……私、みんながマナさんに謝るまで、みんなとは遊びません」
「いや、それはやめた方がいい」
「な、なんでですか?」
「セイさんが自分たちと遊ばなくなったのは『あいつらを馬鹿にして怒ったから』という事実を、『あの場にあいつらがいなければ怒られなかった』という風に曲解する可能性があるから」
人間っていうのは都合のいい生き物だ。
ミスがあったとしても自分が悪くないと思いやすく、自分ではなく相手に責任を擦り付けたくなる。
あいつらがどこまで考えてるかわからないけど、そこに追い打ちをかけるようにセイさんが遊ばなくなったら、『あいつらのせいで』と思いやすくなるんだ。
これは、誰がどうこうじゃない。人間の思考として、ありえるパターンの話になる。
掻い摘んで説明すると、セイさんは納得したように頷いた。
「なるほど……マナさんは、そこまで考えているんですね。凄いです!」
「全然凄くないよ。俺が奴らに狙われないためだから。自己防衛ってやつだな」
トップカーストに狙われてみろ。俺の高校生活、これから暗黒に飲まれるぞ。
「ふむ……わかりましたっ。なら私は、マナさんのこれからの高校生活が豊かなものになるよう、全力でサポートします!」
「えっ。ちょ、何するつもり?」
「それは明日のお楽しみです!」
不安だ。果てしなく不安だ。いい笑顔なのに、こんなに不安になることあるのかってくらい不安。
セイさんも常識人だ。ちょっと抜けてるところはあるけど……まあ、大丈夫……のはず。
「そうと決まれば、ちょっとお買い物に行ってきますね」
「買い物?」
「はい。そろそろ冷蔵庫の中も無くなってしまうので」
「俺も行こうか。そろそろ夜も遅いし、流石に女の子一人に任せるのは……」
「子供扱いしないでくださいよぅ。大丈夫です。私、これでも力持ちなんですよっ!」
むんっ、と力こぶを作るセイさん。
その仕草が既に子供っぽいが。
「……それじゃあお願いしようかな。あ、ついでにコーヒーも買ってきて欲しい」
「わかりました!」
セイさんは財布を持って、うきうきとスタジオを出ていった。
学校での俺のサポートって……何をするつもりなんだ?
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