第13話 聖女様と心情
「ただいま。セイさん、いる?」
……返事が返って来ない。てことは、スタジオには来てないのか……?
念の為に控え室やトイレ、風呂場を確認するが、やっぱりいない。
しまった。まさかあの会話で、セイさんの逆鱗に触れるとは。
一体どの部分で怒らせちまったんだ。
ここにいないってことは、多分セイさんの家の方だと思うけど……俺、セイさんの家なんて知らないしな。
謝るなら早い方がいい。それはわかってる。
明日は学校だからといって、それまで待ってたら関係が崩れるかもしれない。
「どうにかして謝らないと……あっ」
そうだ、メッセージ……!
スマホを取り出し、セイさんとのトーク画面を開く。
真日:セイさん、今どこにいる?
……既読が付かない。いつもなら即既読の上に、返信も早いのに。
真日:咲也との会話で怒ってるのなら、謝る。ごめん。
…………やっぱり既読が付かない。これは、本格的に怒らせちまったか?
明日まで待つか? それなら確実だし、一日や二日じゃ変わらないと思うけど……。
「ああああああっ、モヤモヤする!」
「何がですか?」
「うぇい!?」
えっ、あれっ。え、セイさん!?
いつの間にか背後に立っていたセイさん。
買い物に行ったのか、両手には買い物袋が握られている。凄く重そうだ。
「マナさん、ただいま戻りました。一体どうしたのですか?」
「ど、どうしたって……俺と咲也の話を聞いて、怒ったんだろ? だから喫茶店から飛び出して……」
「何のことです?」
……へ?
キョトン顔のセイさん。本当に何が何やらわかってないみたいな顔だ。
「さ、さっき喫茶店にいたよな? 紅茶とショートケーキのセットを頼んでた……」
「いえ。私はさっきまで、買い物に行っていましたよ。ほら」
セイさんが買い物袋の中を見せ、中を確認する。
……確かに、買い物の後だ。
え、じゃあ何? あのセイさんだと思ってた人は実はセイさんじゃなかった、と?
俺がセイさんのコスプレ姿を見違えた……? いやいや、そんな馬鹿な。もう何度も見てきたんだぞ。セイさんと他の人を間違えるはず……。
「???? 何がなんだかわかりませんが……控え室に行っても大丈夫ですか? お魚が傷んでしまいます」
「あ、ああ。引き止めてごめん」
「いえ、それでは」
セイさんは礼儀正しくお辞儀し、控え室に向かっていった。
それを見送り、俺はソファーに座り込んだ。
いや、え、あれぇ……?
あの人、マジでセイさんじゃなかったのか……? てことは、俺の早とちり?
メッセージに既読が付かなかったのも、買い物袋を持っててスマホを見れなかったから……?
うわ、はずっ。何それ恥ずかしすぎ。やば。
と、とにかく、さっきのメッセージは消しておこう。
まだ既読が付いていない2つのメッセージを消し、スマホをテーブルに置いた。
あー……自分の勘違いが恥ずかしい。
◆聖side◆
ぱたんっ。
扉が閉まった音が響き、私はヘナヘナと座り込んでしまいました。
もう脚に力が入りません。よかった、扉が閉まるまで持ってくれて……。
服が汚れるとかは考えません。力が抜けてしまい、どうすることも出来ないのです。
まさか気付かれてるとは思いませんでした。私の変装は完璧なはずなのに。
でも、人違いで押し通せてよかったです。
ぽーっと天井を見上げ、喫茶店でのことを思い出します。
マナさん、私が来てからイキイキしてる……そうだったんですね……。
私は、私と初めて仕事を始めたマナさんしか知りません。学校でも、勉強にちょっと不真面目な男の子、くらいにしか思っていませんでした。
確かに最近学校で見ていても、どこか楽しそうでした。
それが……それが、私と撮影をしてから変わったなんて。
そんなこと聞かされたら、嬉しいに決まってます。胸がトキメクに決まってます。
「マナさん……」
あの方に名前を口にすると、胸が弾みます。
あの方のことを思うと、胸が締め付けられます。
「……真日、さん……」
本当に私は──私は、どうしてしまったのでしょう。
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