② 再び進み始めた時間
発散させる適切な場がなく、歪んだ思考に蟠り続けた過去を振り切った。
渦のように蜷局を巻き、地を這う群衆のように蠢く混沌に塗れた苦悩を、きれいさっぱり洗い流した。
焼き切れるような頭痛が嘘みたいに消えたことをきっかけに、静かに、空っぽになった心はそれを知る。
幾つものドアを開いた先、水晶のように透き通る心は、燦々と輝く太陽の光をありのままに透過した。
それから。
ある大通りに差し掛かった時、一つ大きく深呼吸すると、躊躇の連続で一歩だって踏み出せなかった足を、踏み出した。
そして、道の中ほどまで一歩一歩噛み締めるように歩むと、背後から憎悪を滾らせる声が囁かれないかどうかを確かめんとする。
『…………』
幾人の幸せそうな笑みを浮かべる人にすれ違っても、何組の互いに笑いあう集団が視界に入っても、空っぽの心はちっぽけも揺さぶられはしなかった。
動機が激しく高まることもなければ、劈くように木霊する悪魔の囁きを耳にすることもない。
気が付けば、苦悩に甚振られて沈んでいた心は、心底満足げに笑っていた。
道のりの道中で度重なる試練と闘った果てに得られたものは、苦しめたはずの試練への理解だった。
因果の皮肉か、少し前までは何よりも理解したくはないと拒絶したはずのものに対する理解が深まっていた。
もう、どこにも立ちはだかる絶望なんて見えなかった。
立ち止まっていた場所から未だ見ぬ先へ歩みだすと、後ろを振り返ることもなければ、もう二度と歩みを止めたりだってしない。
叩いても殴ってもどうやっても動かない時計でも、直す方法はどこかに存在して。
しばらくの時を経て、再び動き始めた時計はぎこちなく時を刻み始めた。