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Episode.9 模擬戦終了!


 恵の右拳を左腕で受け、そこへ俺の右ストレート。恵も負けじとそれを左手で受け止めながら、腰の捻りを利用した右脚回転蹴りを繰り出してくる。


 (はい、スカートの中が見えた回数二十八回目……)


 俺は恵の右脚をバックステップで難なくかわす。


 こんな一対一の状況が三分間は続いている。なので……


 「はい、もうお前のパンツは見飽きたから出直してこい」


 「ちょッ!?」


 俺は恵の左腕を取り、透かさず自分の背中で恵の身体を持ち上げるように懐に入り込み、テコの原理を利用して前方へ恵を投げ飛ばす。


 言ってしまえば柔道の一本背負いのようなものだ。投げるか投げないのかの差でしかない。


 飛ばされた恵は、流石格闘技やってるだけのことはあって綺麗に受け身を取る。ほとんどダメージはないだろう。まあ、そうなるように投げたのだが。


 「我が深紅の炎に抱かれて灰と化せ──インフェルノ・フレアッ!」


 恵と替わるように躍り出てきた紅葉が、突き出した右手からハンドボール程の大きさの火球を、俺に向かって発射する。


 俺はそれを難なく見切ってサイドステップで回避する。すると、その対処が気に食わなかったのか、紅葉は俺を指差す。


「貴様っ、かわすとは卑怯だぞッ!? 正々堂々受け止めよ、それでも教師かッ!?」


 「生憎と教師に『地獄の炎(インフェルノ・フレア)』を受け止めないといけないっていう習わしはないんでね」


 「くっ……悪魔の眷族めが……ッ!」


 地獄の炎を使う奴に、悪魔呼ばわりされたくはない。


 その瞬間────


 「取り敢えず、先生の身体に攻撃を当てたら勝ちなんだから、捌き切れない量のある攻撃で終わらせば良い」


 そんな冷静な渚の声と同時に、様々な軌道で飛んでくるのは、無数の小さな水の弾だ。


 (ふむふむ……渚の特殊能力は【水流使い(アクアマスター)】っと……)


 俺は【風力使い(エアロマスター)】の能力で、身体の周囲に風の障壁を生み出す。四方八方から飛んできた水の弾の(ことごと)くを防ぎ切る。


 「まさか【風力使い(エアロマスター)】の異能者だったとは、盲点だった……」


 渚は冷静に今の失敗を反省しながら呟く。


 ただ、この模擬戦のルールを正確に理解した良い攻撃であった。正直俺はこの模擬戦、【身体能力強化(フィジカルブースト)】の能力だけで戦おうと思っていたのだ。


 それを崩されたのだから、今のは俺の負けと言っても良いかもしれない。


 (さて、近距離戦の実力はいかなものか……?)


 俺は、そんな機転の利く渚に若干の興味が湧き、距離を詰めようと歩き出す。


 すると────


 「ヤバッ!?」


 俺は思わずそんな声を出して、不格好な形で尻餅を付く。すぐに横に転がりつつ、立ち上がる。


 (今の閃光は……)


 俺は閃光が飛んできた方向を見る。体育館のステージの垂れ幕に隠れていた遥奈が、ハンドガンの銃口をこちらへ向けている。


 勿論、鉛の弾丸を発射する殺傷能力のあるものではなく、この学園都市オウカの民営警備隊『警備部隊(ガーディアン)』が所持しているような、電撃を発射して相手を麻痺させたり気絶させたりするショックガンだ。


 なのだが……


 「っておい!? お前何でそんなモン持ってんのッ!?」


 「あちゃー、バレちゃったし避けられちゃったかー。残念残念」


 遥奈は呑気に笑いながら誤魔化そうとする。


 いや、確かにショックガンを持っているのも気になるのだが、それよりも俺の不意を付く程の攻撃。それも、俺の立っている位置から遥奈の射撃地点まではそこそこの距離がある。


 なぜ廃校寸前の高校に通う……時点で普通ではないが、それは置いておいて一般の女子高生が銃を扱えるのが不思議過ぎる。


 俺がそんなことを考えている隙に、遥奈はステージの垂れ幕に完全に隠れてしまった。次は射撃場所を変えてくるのか、それとも同じ場所から再び撃ってくるのか……。


 遥奈は恐らく、俺に自分がいつも狙っているぞと常に意識させるのが目的なのだろう。そうすれば、俺は他の五人と戦っているときも、意識を遥奈に向けておかなければいけなくなるから。


 (見掛けによらず切れ者だな……お前)


 俺は心の中で遥奈に称賛を送る。


 だが……


 「それなら、先に片付けさせて貰おうか?」


 俺は【身体能力強化(フィジカルブースト)】を少し使い、素早く遥奈のいるステージの方へ駆けていく。


 すると、遥奈が再び垂れ幕から姿を晒し、銃を構える。


 「それは悪手だな」


 俺はそう遥奈に伝えながら、地面を蹴り出し、遥奈のいる方に向けて飛ぶ。


 「──いや、これはッ!」


 俺は空中でクルリと回り、脚を前に出す。そして、()()を足で踏み、透かさず横っ飛び。半瞬遅れて遥奈が放った電撃が今しがた俺のいた場所を通過する。


 「素直にすげぇよ、お前ら」


 俺は遥奈と、少し離れた場所に立っている菫に視線を向ける。


 さっき俺が踏み台にしたものを出現させたのは恐らく菫。俺の脚で触れることが出来て、遥奈の放った電撃を素通りさせることの出来る結界。


 「【断絶結界(シャットウォール)】か……」


 【断絶結界(シャットウォール)】の能力で生み出す結界には二種類ある。一つは物理的な運動量に作用するもの。もう一つは特殊能力や、エネルギー系統に作用するもの。


 今の遥奈と菫の連携は見事と言うしかない。そこらの多少腕っぷしの利く異能者くらいなら、今のでゲームオーバーだ。


 ただ、惜しかった。結界系の特殊能力で生み出された結界は確かに視認しにくいが、使用者の手腕によって透明度が異なる。菫の展開した結界は、僅かではあるが曇りがあった。


 俺とっては、充分見えている結界だ。


 (よし、今後のコイツらの課題は見えたな)


 俺は指をポキポキッと鳴らすと、腰のベルトに挿し込んでいたオモチャのナイフを右手で取り出す。


 「んじゃ、そろそろ終わりなー?」


 俺は皆に聞こえる声でそう言うと、瑞希に視線を向ける。


 瑞希は俺と目が合った瞬間、すぐに両手をかざし、氷を生成する。


 そこで、俺は高い放物線を描くようにナイフを瑞希の方へ放り投げる。


 「えっ?」


 瑞希が声を漏らしながら、放り投げられたナイフを目で追う。


 同時、俺は【身体能力強化(フィジカルブースト)】を使い、筋力を高め、そこそこ速く駆けて瑞希に向かっていく。


 俺から視線を外してしまっていた瑞希は反応が遅れる。慌てて俺に向けて氷塊を放つが、狙いが定まってない。


 俺は構わず瑞希に接近し、優しく脚払いして転けさせる。そして、そんな瑞希と目線を合わせるようにしゃがみむ。


 「ま、お前はこの結果がわかってただろうけどな」


 「それでも、悔しいものは悔しいです」


 「ん、良いことだ」


 俺はそう答え、丁度落ちてきたナイフを右手で掴み、その刃の部分を軽く瑞希の首元に当てる。


 ────これで一人脱落。


 俺は立ち上がり、瑞希の近くにいた菫に視線を向ける。すると菫が自分を囲うように立方体の結界を展開する。


 俺はそれを少し強めの拳打で破壊してから、ナイフの切っ先をちょこんと菫の肩に当てる。


 「さっきの遥奈との連携は凄かったぞ?」


 「ありがとうございます!」


 俺の言葉に菫は嬉しそうに笑って答え、ペコリと頭を下げた。


 ────二人脱落。


 次に俺は紅葉の方へ駆けていく。すると、紅葉は目を見開いて驚愕する……ような演技をする。


 「なっ……まさかその手にあるのは、聖剣エクス──」


 「いえ、ただのオモチャのナイフです」


 「グハッ……」


 ただ軽くナイフで小突いただけで、紅葉は大袈裟にリアクションを取り、その場に崩れ落ちる。


 俺は続いて渚との距離を詰めるべく駆ける。すると渚は「待っていた」と言う風に、あらかじめ生成しておいた無数の小さな水の弾を一斉射出し、弾幕を張る。


 俺は左手を前に突き出し、そこに【風力使い(エアロマスター)】の能力で風の盾を作り、水の弾幕を防ぐ。


 そして、こちらも脚払いで転けさせる────とはならず、俺の脚払いをジャンプして避けた渚は、空中蹴りを繰り出してくる。


 「お前も格闘いける口かよッ!?」


 俺は少し驚いたが、渚の蹴りを左腕で受け止める。そして、その脚を掴み、渚の体勢を崩して地面に倒すと、俺はそのまま組敷く。


 「せ、先生……ちょっと恥ずかしい……」


 「あ、わ、わりぃ……」


 俺はさっさとナイフの切っ先を軽く渚の首元に当てる。渚が色っぽく視線を逸らして頬を紅潮させるので、こっちまで恥ずかしくなってくる。


 俺は一つ咳払いし、気持ちを切り換える。そして、この間に体育館の二階に移動していた遥奈に視線を向ける。


 「あ、やっぱバレてたかー。降参するよ先生ー」


 「そうか? そこから撃てばワンチャンあるかもだぞ?」


 「へへー、先生も冗談言うんだねー」


 どうやら遥奈はどうやっても勝ち目がないことを理解しているらしい。


 俺は了解の意を示した後、最後の一人──恵の相手をする。


 パァーン!


 乾いた音が体育館に響く。俺が、空間移動(テレポート)で飛んできた恵の拳打を右手で受け止めた音だ。この時ナイフは宙を舞っている。


 「何で当たんないのよッ!?」


 「実力差って奴だ」


 「ムカつくぅーッ!」


 「ま、お疲れ様」


 俺はそう言って恵の拳を掴んでいた右手を解き、両手をスラックスのポケットに入れる。


 「え、ナイフで刺さないの?」


 「ん、もうすぐ刺さる」


 「何いってッ!?」


 宙を舞っていたナイフが落ちてきて、恵の頭を叩く。


 恐らく恵は「何言ってんのよ?」的なことを言おうとしたのだろうが、「痛っ!」という反応と混ざったような言葉を発する。


 俺はそんな恵を見て思わず笑ってしまうのだった────

「この作品面白い!」

「続きも読んでみたい!」


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