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Episode.6 再会


 リーダー格の()()()()には、他の八人の男達と一緒に、端の方で休んでもらっている。それはもうぐっすりと。


 俺は取り敢えず気絶している五人の生徒の状態を確認する。浅い切り傷や掠り傷はあるが、呼吸や脈拍には何の異状もない。


 「ま、起きるまで待つか……」


 俺はふぅと一つ息を吐く。


 「あ、あの……先生?」


 「何だ?」


 「どうしてここへ?」


 「散歩だ」


 俺は適当に答えるが、瑞希はきちんと答えるまで俺から視線を外してくれないだろう。


 俺はため息を一つ吐いてから答える。


 「ホワイトボードを見たんだよ、だからお前らがここにいるって──」


 「──そうじゃなくて、どうして私達のために来たんですか? 先生が私達を助ける理由がわかりません」


 瑞希の言い分はもっともだ。正直なところ、俺もなぜ助けに来たのかわからない。


 「学校がどうなろうとどうだっていいって言ってたじゃないですか。それなのになぜ……?」


 瑞希の視線は真剣そのもの。流石の俺もそんな目で見られたら、適当に答える気にはなれない。


 「お前の姉さんに……瑠衣にはかなり世話になったからな」


 「え──ッ!?」


 瑞希の目が見開かれる。


 「お姉ちゃんを、知ってるんですか……!?」


 「まあな……」


 俺と瑞希の間に沈黙が流れる。


 「もしかして、お姉ちゃんがよく話してた、仕事仲間の男の子って……」


 「ん、アイツそんなこと言ってたのか? 多分俺……だと思う」


 「って、じゃあ先生は十八歳……私達とあまり変わらないじゃないですかッ!?」


 瑞希が次は少し違った部分で驚く。


 「ふっ……ついでに言うと、高卒だから教職免許持ってないぜ」


 「何勝ち誇ったような顔で言ってるんですか……」


 瑞希は呆れたようにため息を吐く。しかし、すぐに神妙な顔持ちになる。


 「あの……お姉ちゃんはどんな仕事を……?」


 「……悪い、それには答えられない」


 俺は申し訳なさを抱きながら答える。


 この申し訳なさには、答えてあげたいが最高機密(トップシークレット)の案件であるため答えられないというのと、瑠衣を守りきれなくて……という後ろめたさの二つが混じっている。


 「そう、ですか……」


 俺は横目に落ち込む瑞希を見る。


 正直、実の妹で家族なのだから、少しくらい瑠衣について知る権利はあるのではないかと思うが、そればかりはどうしようもないのだ。


 「俺は異能が大嫌いだ……」


 「え?」


 突如口にした俺の言葉に、瑞希が不思議そうに声を漏らす。


 「異能なんてものがあるから、問題は増える一方。そんな中、命を落とすことだってある……」


 「先生……」


 「正直俺には、学園都市オウカなんてもん作って異能研究して、異能者を育てようとする意味がわからん。いや……わかるからこそ、余計嫌いなのかもしれん」


 特殊能力という未だその全容を解明できていない未知のもの。未知を知ろうと探究心が芽生えるのは人間の性だ。


 また、異能研究の進み具合によって、世界の軍事バランスなどに影響する。


 まあ、そんな感じで理由は多く存在するだろう。


 特殊能力が人々に恩恵をもたらすこともあるかもしれないが、問題事の種であることも事実だ。


 「はい、暗い話はお仕舞いだ。ったく、まだ起きないのかコイツらは……」


 俺は後ろに転がっている五人の生徒達の方へ振り向く。


 「皆起きたらこんな場所からはさっさと退散……っておい、どうしたッ!?」


 瑞希の目から涙が零れ、頬を伝っている。


 「あ、あれ……何で私……」


 瑞希本人も泣いていることを自覚していなかったらしい。慌てて手で涙を拭うが、一度出てきた涙はそう簡単には止まらない。


 恐らく、張り詰めていた気持ちが緩み、安心感を得たからだろう。あれほど恐い思いをしたのだから無理もない。


 「うっ……ひくっ……!」


 「恐かっただろ」


 俺はそう言って、右手を瑞希の頭の上に優しく添える。


 それが引き金になったのか、瑞希は声を出して泣き、目から大量の涙を流した────



 しばらくして、日がかなり傾き夜が近くなった頃、他の五人も目を覚ました。


 皆揃って俺がいることにとても驚いていたが、瑞希の説明のお陰で皆納得した。


 その後、早々にこの場を立ち去り、バスに乗ってモノレールの駅まで行って、モノレールに乗り換えて無事第七学区まで戻ってきた。


 ボロボロの姿の六人の生徒を連れる俺に向けられる周囲の人の視線は、言うまでもないだろう────



 「はぁ、疲れた……」


 俺は六人が帰宅した後、一星高校に戻ってきた。


 玄関から入って右に曲がり、一年一組教室のスライド式のドアを開け、中に入る。


 電子黒板には、俺が教師として赴任してきた初日に、瑞希が氷の槍で開けた穴が空いている。


 半分開いた窓からは夜風が吹き込み、カーテンを優しくはためかせている。


 微かに聞こえる虫の声が、静寂が支配するこの教室に響く。


 「やっぱり、お前だったんだな──瑠衣?」


 俺の視線の先──はためくカーテンの傍らに、瑠衣が後ろ向きに立っていた。


 『久し振りだね、ミナト君?』


 瑠衣は優しい笑顔を浮かべて振り返る。


 肩口までで切り揃えられた美しい銀髪、夜空のように煌めく紺色の瞳、精緻に整った顔付き。若干身体全体が薄い気がするが、見間違いようのない姿。


 あのときと──二年前と何ら変わらない瑠衣の姿がそこにあった。


 「この科学の最先端を行くオウカで幽霊って……」


 俺は呆れたように肩を竦める。


 『ときには科学で証明出来ないことが、この世界にはあるのです!』


 ふんと鼻を鳴らして、自信ありげに胸を張って言う瑠衣。


 「特殊能力……ってわけでもないよな?」


 『私はそんな能力持ってないよ』


 「これ、もし俺の妄想で見えてるように感じてるだけだったら、超恥ずかしいんだが……」


 『ふふ、多分違うから安心して?』


 瑠衣は小さく笑いながら答える。


 そして、俺と瑠衣の間に沈黙が流れる。


 言いたいことは山ほどあるはずなのに、そのどれもが今はどうでも良いことのように思えてしまう。


 また、目許が熱くなる感覚があるが泣きはしない。悲しさより、嬉しさが勝っているから。たとえ幽霊だとしても、こうしてまた瑠衣と出会えたことに、俺は嬉しく思わずにはいられない。


 『もう、そんなにジロジロ見られると恥ずかしいよー!』


 「いやなに、全く変わらないなと思ってな」


 『ミナト君も、二年経ってもほとんど変わってないよ』


 「あ、お前は少し薄くなってたな」


 別に、変わってないと言われたから少しムカッとして言ったわけではない。そういうわけではないのだが……二年経ったんだ、少しくらい変化があっても良いだろう。


 『あー、それ禁句ぅ!』


 瑠衣はぷくぅと頬を膨らませ、腰に手を当てて怒ってくる。


 「はは、悪い悪い」


 『もー!』


 そんな俺と瑠衣の会話が──実際には俺の声だけだが──静かな教室に楽しく響いていた。

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