Episode.5 生徒達の危機
「────わけないだろッ!?」
俺は、建物の屋根から屋根へ飛び移りながら猛然と駆ける。
六人がいると思われる第二十五学区は、一星高校のある第七学区から結構離れている。
勿論この学園都市オウカは交通機関もかなり充実しているため、移動手段としてはタクシー、バス、モノレールなどなど……多く存在するが、それを利用するより、今の俺の方が速く移動できるだろう。
俺の身体は、不自然な風が包み込まれており、その風が背中を押してくれたりするため、かなりの推進力を得られる。
────【風力使い】の能力だ。
特殊能力が発現する原因・方法は未だに解明されていないが、ある研究機関によると、何かを心の底から欲し、渇望したときや、強い刺激を受けたときに発現する可能性が高いらしい。
俺が【風力使い】の能力に目覚めたのは、瑠衣が死んだとき。そう、【風力使い】の能力を持っていた瑠衣が死んだときだ。
ここに何かしらの因果関係があるのかどうかは不明だが、俺は勝手に瑠衣から受け継いだのだと自己解釈することにしている。
そういうわけで、あの事件以降俺は二重能力者ではなく三重能力者になったのだ。
ともかく、今俺は【身体能力強化】と【風力使い】の能力を同時に行使し、人並外れた速度で町の建物の上を駆けている。
第二十一学区から三十学区は学校の存在しない学区で、様々な企業や会社、研究機関が混在している。
今向かっている第二十五学区もその一つだ。
十分とちょっとの間、能力を二つ同時に使い続けたため、身体的な疲労だけでなく、脳への負荷もかなりある。
しかし、その甲斐あって目的の場所まで辿り着いた。
俺は額に浮かんだ汗を腕で拭き取ると、ジェリオコーポレーションの裏組織アジトを探す。
第二十五学区広しと言えども、表沙汰にしてはいけないようなことをしている組織がいそうな建物がある場所というのは、奥まったところと相場が決まっている。
俺は、長く暗部組織にいたことで培われた勘を便りに、第二十五学区の奥へ奥へと進んでいく。
高い建物に陽光が遮られ、薄暗くなった細い路地を歩いていたとき────
ダンッ! ダンッ!
二発の銃声が耳に飛び込んでくる。音からして、自動拳銃だ。
「……」
俺は息を潜めて、細い路地が終わるところの物陰に隠れて、銃声のした方向を見る。
少し開けた場所に、複数の人影。数えれば九人、シルエット的に全員男だ。
「やっと見付けた……」
俺は小声でそう呟きながら、男達の奥へ視線を向ける。そこには、六人の生徒がいた。その内五人が身体に傷を負って倒れているようだが、どうやら死んではいないようだ。
問題なのは────
「近付かないで──ッ!」
こちらもかなりボロボロだが、今なお立ち続けて、男達と退治している。
瑞希だ。
近付こうとする男達を牽制するように、生成した氷を放つ。しかし、そんな子供騙しが通じるわけがない。
仮にも裏組織としてやっていってる人達に対して、殺す気もない攻撃など何の脅威でもない。
実際、それを見た男達は愉快そうに笑っている。そして、その内の一人が瑞希を蹴り飛ばす。
「ったく、手間取らせやがって。ひゃっはははッ!?」
蹴り飛ばした男が、下衆な笑い声を上げながら瑞希に近寄る。瑞希は倒れた自分の身体を必死に起こそうとするが、全身の痛みから、力が上手く入らず上手くいかない。
「俺さぁ、最近溜まってんだよなぁ……」
その男は瑞希の上に跨がると、瑞希の両手をを片手で固定する。
「見たとこかなりの上玉だしなぁ? お兄さんと一発……どうかなぁ?」
「……い、いやぁ……っ!?」
瑞希の顔が恐怖に染まる。これから自分の身に何が起こるのかを理解できないほど、瑞希も子供ではない。
「おい、お前ら……コイツは俺が食うが他のは好きにしていいぞ?」
その男がリーダー格なのだろう。その言葉に他の男達も大興奮、ゆっくり倒れている他の五人の方へ近付いていく。
(あーあ、見てらんねぇ……)
俺は、これ以上傍観していると俺までただの変態に成り下がってしまいそうなので、仕方なく物陰から出て、男達の方へとゆっくり歩いていく。
「良い歳した大人がガキに欲情してんじゃねーよ」
俺は歩み寄りながら声を掛ける。
すると、今にも生徒達に襲い掛かりそうだった男達は一斉に俺の方へ振り向く。
「あ? 何だお前?」
リーダー格の男が瑞希から手を離し、立ち上がって尋ねてくる。俺は何と答えようか迷ったが、その答えは瑞希が口にしてくれた。
「せん……せい?」
九人のどの男達より驚いたような目で見てくる瑞希。その青い瞳は潤んでいて、今にも泣き出しそうだ。
「いやさ、そいつらバカだよな? 学校に掛けられた不当な借金をどうにかしたいってのはわからなくもないが、子供たった六人だけで敵陣突っ込んでいくんだから」
俺は大袈裟に肩を竦めて、両手を広げておどけて見せる。
それを聞いた瑞希は目を伏せる。
「てめぇ、何が言いたいんだ?」
怪訝な顔をしたリーダー格の男が、俺を睨み付ける。
「……いやなに、次からは気を付けようなって教えたかったんだよ。教師としてな」
目を伏せていた瑞希が、はっと顔を上げ、俺を見る。俺はその視線を受け、少し照れ臭くなったので、頬を掻いて恥ずかしさを紛らす。
「次からは気を付けようだぁ? バカなのはてめぇだよ先生さんよぉ。次なんかあるわけねぇーだろが!」
リーダー格の男はそう言うと、他の八人の男に目をやり、指示する。
「始末しろ」
「……ッ!? 先生ダメっ、逃げてくださいッ!?」
そんな瑞希の絶叫とほぼ同時、八人の男が俺に向かってくる。
「死ねぇ!」
「喰らえッ!」
内二人は異能者で、どちらも火球を放ってくる。
残りの六人は特殊能力を持っていないのか、腰から自動拳銃を取り出し、引き金を引く。
二つの火球と六つの鉛の弾が高速で飛んでくる────
しかし、関係ない。
目の前に大気の壁を生み出し、難なく受け止める。弾けた火球が火の粉を散らし、弾丸はどこかへ飛んでいく。
驚いて目を向く八人の男。
俺は【身体能力強化】の能力で、肉体限界を超える。
瞬く間に距離を詰め、まず異能者の二人に狙いを付ける。
一人を足払いで体勢を崩させ、左肘をもう一人の胴体に打ち込む。すぐに場所を変え、銃を構えていた六人の方へ詰め寄る。
左手で銃を弾き右ストレートを鳩尾に叩き込む。吹っ飛んだその男に巻き込まれて、後ろの男も倒れる。
残り四人────
俺は左手を前に掲げ、四人に狙いを定めるようにする。そして、【風力使い】の能力で、左手に空気を圧縮させ、解き放つ。
それは四人を一斉に後方へ飛ばし、気絶させるに追いやった。
「て、てめぇ何者だッ!? これほどの使い手の二重能力者が、なぜ廃校寸前の学校の教師にッ!?」
焦りを覚えたのか、リーダー格の男が脂汗を浮かべながら俺を指差す。
俺は二重能力者ではないと訂正すべきなのかどうか一瞬考えたが、面倒臭いから止めておく。
「さあ? それは最高機密だ、お兄さん?」
「く、クソがぁあああッ!?」
リーダー格のお兄さんが、電撃を放つ。青白い閃光が襲い掛かってくる。
しかし、その電撃は俺の身体に纏った風のベールに難なく防がれる。
「殺さないよう手加減するのムズいんだから、いちいち暴れんなよな」
俺は刹那の間にお兄さんとの彼我の距離を詰める。
そして────
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