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Episode.4 バカな生徒達


 俺の教師生活は順調に流れていった────


 「はーい、席に着けー」


 一応きちんと朝礼までに学校に来て、一年一組教室に入る。


 次の日も────


 「はーい、席に着けー」


 その次の日も────


 「はーい、席に着けー」


 俺は毎日教室に入ってそう指示した後、教卓の下から椅子を引き出し、腰を掛けて、頭の下に腕を敷き、教卓に突っ伏す。


 しかし、そんな俺を咎める生徒は誰一人としていない。


 午前中は皆、オンライン授業形式で勉強し、昼食を取った後は、一星高校復興の活動とやらをしている。


 教室の後ろの方にあるホワイトボードに何やら文字を書き連ねながら、話し合っている。


 そんな変わらない光景が、二週間ほど過ぎた。


 いくら俺が生徒と関わりを持とうとしなくても、これほど時間を共に過ごせば、六人が大体どんな人間なのかはわかってくる。


 教卓に座る俺の位置から見て一番左列の最前に座る桃山 遥奈。六人の中で一番年上で高校二年生。常時呑気な雰囲気を放っているが、恐らく結構頭の回転が速い。皆のリーダー的存在。


 遥奈の後ろに座るのは立川 恵、高校一年生。若干怒りっぽい性格だが、基本的には優しい。他の生徒からいじられて赤面する姿が時々窺える。


 一番右列の最前に座る御守 菫、高校一年生。いつも明るく、温厚な性格。お母さん的な存在。


 菫の後ろに座る神代 紅葉、高校一年生。厨二病という概念を体現化したような奴。皆から温かく見守られている。


 真ん中の列で、恵や紅葉と同じ位置に座るのは空閑 渚、高校一年生。無口ではないが、割と物静かな方でクールな印象。頭の回転は速そうだが、思考がなかなか過激な方へ偏っている。


 そして、渚の前、真ん中の列の最前席に座るのは、()() 瑞希、高校一年生。名字が同じこと、髪の色や顔の輪郭が似ていることなどから、まず間違いなく瑠衣の妹だ。真面目で正義感が強く、率先して復興活動に取り組んでいる。


 昔、瑠衣本人も「妹の瑞希がねー、私と同じ高校に入りたがってるの」と言っていたのでもう確定だ。ということは、瑠衣が所属していた高校はここ──一星高等学校ということになる。


 (まあ、だから何なんだって話だが……)


 俺はため息を吐きながら、何となく窓の外を眺めるのだった────



 「はーい、席に着けー?」


 ガラガラとスライド式のドアを開けて、いつものように一年一組教室に入ったが、生徒が誰一人としていない。


 (何だ、全員遅刻か?)


 俺は特に興味もないので、気にすることなく、いつものように机に突っ伏して過ごす。


 ────。


 静か。時折鳥の鳴き声や、風の吹く音が聞こえるが、人の声は全くしない。


 いつの間にか眠っていた俺は、お腹が空いたので目を覚ます。持参した弁当を開けて、昼食にする。


 (まだ来ない……)


 俺は食べながら、全員遂に廃校になることを受け入れたのかもしれないなと考える。そうしてくれれば、連邦理事会から言われた「一星高校をどうにかしろ」という指示を完遂したことになる。


 それが終われば、もうこんな異能だらけの町から出ていける。


 俺は少しウキウキ気分で立ち上がり、適当にこの教室を歩いてみた。


 すると、教室の後ろには、文字がびっしり書かれたホワイトボードがあった。六人がこの高校を復興させるために何かを書いていたやつだ。


 俺はホワイトボードの前に立ち、さほど興味もないが見てみる。


 “一星高校廃校阻止計画! こうなった理由:借金”


 「ん、借金?」


 読んでみると、この高校が今のような状況に陥った原因がわかる。


 何でも、学校が大量の借金を作ってしまい、遂に去年、学校存続不能になってしまったらしい。それによってほとんどの生徒は別の高校へ転入。


 「去年? 遥奈は高二だからあれとして、何で他の五人はこの高校に入ったんだよ……バカじゃねぇの?」


 俺は鼻で笑いながら、読み進めていく。


 すると────


 “借金返済は完了しているはず! この高額な利子は不自然!”


 「ほう……?」


 “調査結果:ジェリオコーポレーションが関わってる?”


 「はッ!? ジェリオだとッ!?」


 ジェリオコーポレーションとは、表面様々な製品を開発している中規模の会社だが、実は自社の利益のためならどんな手段も厭わないという、裏で汚いことをやりまくってる連中だ。


 昔、一部社員に断罪協会信徒がいるということで、第〇室(ファントムルーム)が動いたほどだ。


 「まさかアイツらッ!?」


 俺はホワイトボードをひっくり返し、裏面を見る。するとそこには、学園都市オウカの地図と、書き込みがあった。


 “こっそり潜入して、不当な利子を請求している証拠を見付け出す!”


 「──ッ!?」


 「よくぞ生徒たった六人でここまで調べ上げた」という称賛を贈る気には全くなれなかった。


 「潜入……だとッ!?」


 地図に書かれた印を見る限り、六人が潜入しようとしている場所はジェリオコーポレーションの表の顔の場所ではなく、まさに裏組織のアジトといった感じの場所だ。


 そんなところにのこのこ行って、ただで済むわけがない。最悪の可能性を考えれば────


 「殺される、な……」


 他にも、捕まえて黒い研究機関に引き渡され、異能実験のモルモットにされたりする可能性もなくはない。


 俺は教室に備え付けられた時計に、慌てたように目をやる。


 ────十四時三十五分。


 六人がいつから潜入したのかはわからないが、朝から学校に来ていないのだから、もう行動しているだろう。


 「ちぃ──ッ!?」


 俺は慌てて教室を走り、ドアに手を掛ける。


 (あれ……?)


 俺はそこで急に冷静になった。


 よく考えてみれば、別に俺が助けに行く必要なんてどこにもない。確かに名目上この学校の教師ということになっているが、別にあの六人と深い関わりを持ったわけでもなければ、何かの恩義があるわけでもない。


 見ず知らず、赤の他人と言っても過言ではない。


 俺は静かにドアから手を離し、一歩下がる。


 それに、生徒がいなくなってくれれば、この一星高校は廃校になる。そうすれば、俺はこの学校をどうにかしたことになって、見事連邦理事会からの指示を完遂……なのに────


 「何なんだよ、このモヤモヤはッ!?」


 俺は誰へともなく叫ぶ。


 自分にとって好都合であるはずなのに、心の中に言い表せない感情が渦巻き、そのような状況にある自分自身に腹が立つ。


 そうこうしているうちに時間は刻一刻と過ぎていく。


 俺は焦燥に駆られ、葛藤する。


 そんなとき、背後から声が聞こえる────


 『本当にいいの?』


 その声は、どこかで聞き覚えのある、懐かしい声。それを聞くだけで、なぜか胸がぎゅっと締め付けられ、目許が熱くなる感覚を覚える。


 俺は振り向くことなく、ずっと目の前の教室のドアを見詰めたまま。


 「……ああ、これでいい────」

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