Last Episode どうやら俺はこれからも教師らしい
「せ、先生……」
後ろの離れたところから、瑞希の不安げな声が聞こえる。恐らく他の五人もかなり不安で、この状況が恐ろしかろう。
(そろそろ、終わらせないとな……)
これ以上長引かせれば、生徒への精神的な負担が大き過ぎるかもしれない。
「お前ら、目を逸らさず、しっかりと見ておけ」
俺は尻目に震える生徒達を視認しながら、話し掛ける。
「俺は教師としてはド三流だが、一つだけどんな教師よりも上手く教えられることがある。それは、異能の恐ろしさだ」
本来ならば知る由もない、関わりのないことかもしれない。しかし、表では綺麗事ばかり並べられて発展してきた特殊能力研究、異能社会の裏には、常に深すぎる闇がある。
「前にも言ったことがあるよな? 異能は確かに便利なもんだが、裏ではこんな風なことがよくある」
第〇室にいた俺だからこそ教えられること。
生徒達には、しっかりと知っておいて欲しい。異能の恐ろしさを。そして、その上で正しく異能を使って欲しい。
「全く……これだから異能は大っ嫌いなんだが、大切なものを守るためには、どうしても頼らざるを得ないんだよな」
俺は、こちらを警戒しているルイドとライアに鋭い視線を向ける。
「そろそろ戦闘の勘も戻ってきた……決めさせてもらうぜ?」
俺はそう言って、右手を眼前に持ってくる。【風力使い】の能力で、右手周囲の空気を超圧縮。
吹き荒れる風が、俺のシャツをバタバタとなびかせる。
(まだだ、もっと……もっと圧縮──ッ!)
徐々に暴れていた風が統率され、右手に集束する。それに伴って、耳をつんざくような高周音が鳴り響き始める。
「いくぜ……断罪教会ッ!?」
刹那、空気が超圧縮されたことによって発生したプラズマが、俺の右手に纏う。青白い閃光がバチバチと弾け、スパークを生む。
俺は『疾風早燕』で一気に駆ける。【身体能力強化】で肉体限界を超越した脚力が生む瞬発力と、俺の身体を包み込む風が与えてくれる推進力を最大限に駆使し、身構えるライアの懐に潜り込む。
「何しても無駄だよッ!」
余程自分の【窒素外套】の防御力に自身があるのか、防御姿勢は取らない。それどころか、俺を叩き潰そうと、握った両拳を振り下ろしてくる。
俺は【時空神の眼】で予めその動きを捉えている。
上手く身体を捌き、ライアの攻撃をかわしつつ、回り込んでその背後を取る。
「悪いが、この攻撃で破れなかった防御はない──」
そう言いつつ、俺は弓を引き絞るかのように身体に引き付けた右手を手刀の形にする。その手には青白い閃光を放つプラズマが宿っている。
俺が第〇室時代に、強敵を葬り去るために編み出した最終手段にして、必殺技。
「貫け──刃雷槍ッ!!」
それはまるで槍。
プラズマが纏う右手から繰り出された渾身の貫手が描く一条の軌跡は、ライアの背中から胸を貫いて迸る。
圧倒的な防御力を誇るライアの特殊能力をもってしても、防ぐことは叶わない一点集中型超高威力攻撃。
「な……んでっ……がはぁッ!?」
「防御力に自身があったらしいが、その慢心の結果だな」
俺は、ライアの身体に貫通した右手を引き抜きながらそう答える。すると、ライアは力を失ったように崩れ落ち、その場に倒れ込む。身体から漏れ出る血が、そこに水溜まりを作った。
「お前は一体……何者なんだ……ッ!?」
戦慄を覚えたルイドが、戦々恐々とし額に脂汗を浮かべながら聞いてくる。
俺はそちらに振り向き、不気味に青白く輝く右手を構えながら答える。
「最高機密だ」
「……ッ!?」
俺は床を強く蹴りだし、刹那の間にルイドとの間合いをすっ飛ばす。
「死ねッ!」
ルイドがありったけの電撃を辺りにばらまく。
俺は、躍り狂う雷線を【時空神の眼】で見切り、右手を振るって弾いていく。
しかし、このまま攻撃してもルイドの身体を幽体化させる能力でかわされてしまう。
俺は次のルイドの動きの先を見て、そこに左手をかざし、圧縮した空気によって作られた弾丸を放つ。
ルイドはそれをかわすために幽体化。
圧縮空気の弾丸は、ルイドの眉間に向かって正確無比に飛んでいくが、呆気なく素通りしてしまう。
しかし、これで決まった。
予想されるルイドの幽体化の特殊能力の再使用時間はおよそ二秒。
(二秒あれば充分──)
「はぁあああああ──ッ!」
俺は左足を鋭く踏み込み、引き絞った右手を放つ。
プラズマを纏った俺の右手は、情け容赦なくルイドの左胸部を貫く。
「ぐはぁ……っ!」
ルイドが血反吐を吐く。
ベチャリという粘性のある液体が床に落ちる音が重たく聞こえる。
すると、虚ろになりつつある瞳で、ルイドが俺の顔を見てくる。
「そうか……今思い出したぞ……」
「何を?」
「学園都市オウカを統括する連邦理事会直属の部隊……裏仕事専門の暗部……」
どうやら断罪教会側にも、オウカの情報はある程度知られているらしい。
「そこに、相手の動きの先を正確に読むことの出来る凄腕の暗殺者が……こちら側のブラックリストにも載って……ぐっ……!」
「さあ、何のことやら。俺はただのしがない教師さ」
俺は右手を引き抜く。
ルイドは左胸に大穴を空けたまま、壁にもたれ掛かるように膝を折り、その場に座り込む。
「第〇室……ナンバースリー……」
ルイドは、最後まで言葉を口にすることなく絶命した。
「悪いが、その情報は少し古いな。俺はもう、そっちの道に戻る気はねぇ」
俺は聞こえないとわかっていながらも、そう答えてその場から離れた────
「悪い、怖かったろ?」
俺は目尻に涙を浮かべる生徒達に向かって謝る。
そして、俺はさっき生徒達の前で人を二人殺した。恐らく俺の姿も相当に恐ろしく映っているはずだ。
「安心しろ、もう脅威はねぇ。そんで、俺もどっか行くことにするわ。後任の教師は何とか良い奴見付けてきてやるから許してくれ」
俺はもうコイツらの前にいるべきじゃない。住む世界が違い過ぎたんだ。
生徒達に背を向けて歩き始める俺の傍では、瑠衣が寂しそうな表情で見詰めてくる。
(ま、良い教師生活だった……かな?)
俺はどこからか感じる寂しさを胸に覚えながら、階段を降りていった────
「せ、先生──ッ!」
俺が校舎を出て、校庭を歩いて出ていこうとしていたときとき、駆けてきた瑞希が俺の腕を掴む。その手は微かに震えていて、脚にもあまり力が入っていない。
後ろの方には、他の五人の姿もある。
「バカ、俺に触ると血が付くぞ?」
「そんなのどうだって良いです……ッ!」
瑞希は何しに来たのだろうか。というより、よく人殺しの身体に触れるものだ。
わけがわからず、俺は傍を漂っている瑠衣に視線を向ける。しかし、瑠衣はなぜか笑みを浮かべており、まるで瑞希が何をしに来たのかわかっている様子だ。
「次来る先生はもっと良い奴だろうから安心しろって」
「……嫌です」
「え?」
「他の先生なんて要りませんっ! 貴方が……ミナト先生がいてくださいよッ!」
潤んだ青色の瞳を向けてくる瑞希。
「はは……ばーか、俺とお前らじゃ住む世界が違うっつーの」
俺はそう答えて、俺の腕を掴む瑞希の手を退かせる。そして、再び校門に向かって足を進める。
すると、突然背中にドンという衝撃が伝わってくる。
「お、おい!? 何だよ!?」
瑞希は俺の服に付いた返り血など気にすることなく、背中に抱き付いてくる。その細くしなやかな両腕は、俺を離すまいと腰に巻き付けている。
「先生が前にどんなことをしてたとか……どんな世界で生きてきたとか……関係ないんです」
俺の背中に顔を埋める瑞希が発する声は籠っているが、涙ぐんでいるのがわかる。
「先生は今、一星高校唯一の先生で、私達と同じ世界に住んでますッ!」
「瑞希……」
俺は肩越しに振り返りながら瑞希を見る。そして、その後ろに控える五人の生徒にも視線を向ける。
「行かないで……先生……っ!」
自分のありったけの思いを込めて発せられたこの瑞希の言葉は、どうやら他の五人の総意でもあるようで、遥奈、菫、恵、渚、紅葉のそれぞれが、訴え掛けるような、無言の視線を向けてくる。
『ミナト君、良いんじゃないかな? 君は今、この子達の先生なんだから』
瑠衣は笑顔でそう言ってくる。
(まったく……変に懐かれたな……)
俺はそんなことを思いながら、一つ息を吐く。これは呆れてため息を吐いたわけではなく、気持ちを整えるためだ。
「ったく、しょうがねぇな……確かに、俺は最高の教師だもんな?」
「はい……」
瑞希は顔を埋めたまま返事する。
「お前ら、俺がいないと何にも出来ないもんな?」
「はい……!」
「お前ら、俺のこと大好きだもんなー?」
「はい──あ、いや……そんなことは……」
瑞希はばっと手を離して、一歩後ずさる。顔は赤く染まっており、慌てたようにしている。
『うわー、ミナト君私の妹に何てこと言わせてるのよー!』
瑠衣がぷくぅと頬を膨らませながら、パンチを繰り出してくる。まあ、俺の身体に当たるわけもないんだが。
「あー、違うのかぁ……それは残念だー。まあ、次の先生に期待しておけよ?」
俺はわざと皆に聞こえるように大きめの声でそう言うと、くるりと身を翻して、立ち去る振りをする。
「ま、待ってくださいよッ!?」
その瑞希の声に俺は足を止め、「何だよ?」と言って振り向く。
すると、瑞希はしばらくモジモジとして恥ずかしそうにしながらも、上目遣いで俺を見る。
「そ、その……大好きはアレですけど……ま、まぁ百歩譲って“好き”くらいは……その……」
「……ぷっ、ぷはははははッ!?」
もう我慢できず、俺は笑いを吹き出してしまう。それに戸惑ったように、瑞希は目を丸くしている。
「いやいや悪い、少しからかっただけだ。それにしても、そっかー……俺のこと好きだったのかー。ふーん?」
「……ッ!?」
「それじゃ、仕方ないな? お前らの先生でいてやるよ、感謝するんだな。わーはっはははッ!」
俺はわざとらしく腰に手を当てて高らかに笑う。
「い、いや、今のは違うんですッ!? 別にそう言う意味じゃ。うぅ……さ、最低ですッ!」
顔を真っ赤に染め上げた瑞希はぷいっとそっぽを向いて怒る。しかし、そんな光景がなんとも心地良い。
そして、他の五人もすぐに駆け寄ってきて俺を取り囲む。
どうやら、俺の教師生活はこれからも続いていくらしい────
読んでくれてありがとう!!
こんな感じの話がもっと読みたいという方は、ぜひ私をお気に入り登録して頂いて、次回作や前作を読んでいただけると幸いです!
またお会いしましょう……作品の中で。




