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Episode.21 殺意の交錯


 (本気でいくしかねぇ……)


 俺はごくりと唾を飲み込みながら、【身体能力強化(フィジカルブースト)】で肉体限界を超え、身体を【風力使い(エアロマスター)】の能力で生み出した風で包み込む。


 第〇室(ファントム・ルーム)時代でお馴染みの技術──『疾風早燕(しっぷうはやつばめ)』だ。


 加えて、【時空神の眼(クロノス・アイ)】を開眼させる。


 俺がこれまでの殺し合いで必勝必殺としてきた、三種類の特殊能力同時使用だ。


 (最短で終わらせる──ッ!)


 床を強く蹴り出す。圧倒的脚力と、風による推進力によって爆ぜるように動く。


 刹那の間にルイドとの距離をすっ飛ばし、右拳を固く握る。ギリギリでそれに反応したルイドは、自身の前で腕を交差させ、受けの構えを取る。


 しかし、この俺の攻撃はフェイク。


 俺は鋭く足を切り替え、その場で右足を軸にして回り、ルイドの隣にいたライアに左後ろ回し蹴りを叩き込む。


 ライアの胴体を捉え、そのまま押し込む。ライアはされるがままに吹っ飛び、遠くの壁にめり込んでいく。


 その間にルイドが俺に狙いを付けていた。発生させた高電圧の電撃を雷のように俺の頭上に落としてくる。


 しかし、その未来はすでに俺の【時空神の眼(クロノス・アイ)】が見切っていた。


 すぐに飛び下がり、落雷を回避しつつ、左手を横に振るって風の刃を放つ。風の刃は狙い違わずルイドの首元へ飛んでいき、そのまま────


 「なにッ!?」


 俺は思わず声を漏らす。


 風の刃がルイドの首を素通りしていったのだ。まるでそこには何もないかのように。


 (光学系能力で、虚像を見せられているのかッ!? それとも精神操作系の能力で、見えもしないものを見えてるかのように錯覚させられてるのかッ!?)


 そんな思考が高速で俺の脳裏を過るが、もしその通りなら、最初に俺が突っ込んでいったときに、受けの構えを取る必要はないはずだ。


 「ちぃ──ッ!?」


 俺は再びルイドとの距離を詰める。


 あの特殊能力がどういうものかわからない以上、下手に攻めるのは悪手だが、不意を付かれても俺の眼なら見切れる。早くコイツの能力の正体を暴かねばならない。


 直線的に距離を詰めた後、風を受けて変則的に方向転換し、天井に足を付き、踏み場にして頭上から攻撃する。


 しかし────


 「生きてたのかよッ!?」


 「まぁねッ!」


 俺の拳とと、駆け付けたライアの拳が激突する。ライアの拳が生身なら、【身体能力強化(フィジカルブースト)】によって強化された俺の拳が競り負けることはあり得ないが、実際今、威力が拮抗している。


 いや────


 「重たい……ッ!」


 俺の拳が弾かれる。俺は風に乗りながら間合いを開ける。


 ライアも俺と同じ【身体能力強化(フィジカルブースト)】の異能者なのだろうか。いや、それなら元々の筋力で勝っているはずの俺の拳が弾かれるということはないはずだ。


 ということは、何か別の特殊能力。


 「ねー、驚いたでしょッ!? お前も中々良いパンチしてるけど、威力はウチの方が上だったねぇー?」


 ライアが自身の拳同士を打ち付けながら言ってくる。


 見た感じ、俺の初撃の蹴りによるダメージもほとんどなさそうだ。


 「めんどくせぇ……」


 ルイドとライアのどちらともが正体不明の特殊能力を持っているという展開には嫌気が差してしまう。


 「おい教師……お前、何者だ?」


 目を鋭くさせたルイドが、眉間にシワを寄せながら聞いてくる。


 「今自分で言ってんじゃねーか、教師だよ」


 「嘘を吐け……明らかに戦闘慣れし過ぎている」


 「中にはそんな教師もいるだろうよ」


 生徒達の前で妙な勘繰りは止めてもらいたい。というか、殺し合いの最中にお喋りとは、随分余裕があると見える。


 だが、実際向こうは二人。おまけに能力も不明。このままやっていてもじり貧なのは確かだ。


 「テメェらこそ、断罪教会が依頼で動くなんて聞いたことがねぇぞ? 狂った殺人集団からボランティア殺人集団にでもなったのか?」


 「殺人集団……か。ならば、この学園都市オウカだってそうではないか? もとはと言えば、軍事力強化のために始まった異能研究だろ?」


 そう答えるルイドの言っていることは確かだ。実際俺もそう思う。


 「そうかもな、異能なんてものがあるから厄介事が増える……いつも異能を中心に人が死ぬ……まったく、勘弁してほしいぜ」


 「ほう?」


 「実際俺は異能が大っ嫌いだ。だが、今そんなことはどうでも良いんだよ……異能でも何でも、今この瞬間生徒達を守ることが出来るのなら、俺は何だってする」


 俺は身体に纏う風の強さを高める。


 「例えそれが、人殺しであってもな」


 「……」


 その言葉に、ルイドが黙り込む。


 「そういう点では、俺もお前らと同じ外道だ。さあ、外道同士、どちらかが死ぬまで……行くぜッ!」


 俺は地面を蹴りだし、飛ぶように駆ける。


 それを狙って、ルイドが電撃を放つ。そこら中をのたうち回り、荒れ狂う電撃。俺はそれらの間隙を縫って突き進む。そして、正面に躍り出てきたライアが、両拳を固く握って構えている。


 「はぁあああああッ!?」


 俺は再び爆発的に超加速し、その勢いを全て右拳に乗せる。放つ渾身の右ストレート。


 「良いね良いねぇえええ──ッ!?」


 ライアも俺の拳を迎え撃つべく、引き絞った右拳を突き出してくる。


 ダァアアアアアンッ!!


 拳と拳が激突し、激しい打擲(ちょうちゃく)音が響き渡る。


 (痛ってぇ……ッ!?)


 右拳に重たい痛みが走る。しかし、対するライアは余裕な笑みを浮かべている。


 俺はすぐさま風に乗って方向転換し、次は死角である背後から左裏拳を繰り出す。ライアの打撃の威力は半端ではないが、ライア自身が格闘技の達人というわけではないようで、俺の攻撃には反応できない。


 裏拳がライアの側頭部に直撃し、真横の壁を穿つ勢いで吹っ飛ばす。ライアは呻き声を上げながら、顔面を壁にめり込ませている。


 その隙に俺はルイドに向けて空気を圧縮して作り出した無数の弾丸を放つ。しかし、やはりルイドの身体をすり抜けて後ろの壁に穴を空けるだけだ。


 ルイドは諸手に電撃を生み出し、俺に向けて放つ。二つの電撃のビームが宙に軌跡を描きながら飛び出す。俺はそれを難なく見切り、透かさず左ストレートを叩き込む。


 すると、ルイドが両手を交差させて守りの体勢を取る。俺の左ストレートはルイドの腕を叩いた。


 (当たった……ッ!?)


 左腕を振り抜くと、ルイドは靴底を床に滑らせながら大きく後退する。俺は続けざまに風の刃を生み出し、射出。


 しかし、今度はルイドの身体を風の刃が切断することはなく、素通りしてしまう。


 「なるほどな」


 俺は、この一連の攻撃でルイドのおおよその特殊能力の正体を見破る。


 「お前のその能力……一瞬だけ身体を幽体化させることが出来るんだな? そして、俺の打撃を受けてから風の刃が透過するまでの時間を考えると、その幽体化能力の再使用時間(リキャストタイム)は二秒ってとこか」


 俺は呼吸を整えながら、ルイドに言ってみる。すると、ルイドは一瞬眉をピクリと動かした後、両腕をだらりとぶら下げたまま微笑する。


 「素晴らしい洞察力だ……教師の域を超えているぞ?」


 「いやー、この前教科書に書いてあったからなー」


 すでに俺の正体を疑っているルイドにそんな出任せを言っても通用しないだろうが、最高機密(トップシークレット)である俺の身分を簡単に明かすことはできないのだ。


 どうやら先程の攻撃で、ルイドの両腕は折れたらしい。少しは形勢を有利に出来ただろうか。


 「ったたた……」


 そんなとき、壁から頭を引き抜いたライアが腕をぐるぐると回している。


 (コイツ人間かッ!?)


 そう思わずにはいられない。先程の裏拳は確実にライアの側頭部へと入った。本来ならば頭蓋骨陥没どころか、頭が消し飛んでもおかしくない威力だ。


 (身体そのものを強化しているわけじゃねぇーな。何か、身体を頑丈なものが守ってるって感覚の方が近いな……) 


 俺は思考を巡らせながら、間合いを計る。


 (ということは、コイツの馬鹿力と防御力の高さは別の能力……?)


 そう考えれば、思い当たる能力はいくつかある。そして、恐らく防御に働いている能力は【窒素外套(ニトロ・コート)】だ。


 窒素を凝縮圧縮したもので身体を覆い、強力な鎧としているのだ。


 馬鹿力の能力はまだ絞りきれないが、ライアの攻撃に触れなければ問題はない。問題なのは【窒素外套(ニトロ・コート)】の守りをどう破るかだ。


 正直この能力による防御はほぼ完璧と言って良く、全身がくまなく守られている。なので、防御できる限界を越えた威力を叩き込まなければならないのだ。


 「クソ……これだから異能は嫌いなんだよ!」

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