Episode.20 崩壊する日常
今日もいつも通りの日常が過ぎていく。
午前中は生徒達がオンライン授業形式で勉強し、俺にわかる範囲のことを教える。昼食を取り、午後の授業は特殊能力のトレーニング。
能力は使えば使うほど洗練されていき、その強さが増していく。
出会った頃に比べると、生徒六人は見違えるようになっていた。
そして、放課後もいつも通り一星高校をどうやって復興させるかの話し合いが行われている。
最初の頃、俺はこんなことをしている生徒達を見て呆れてしまったが、今ではすっかり復興させることに協力している。
「あ、もうこんな時間か……お前ら、そろそろ帰った方が良いんじゃないか?」
俺は時計に視線を向けながら言う。午後六時過ぎになっている。
「でも先生、まだ具体的な活動計画が……」
瑞希がうーんと困ったように眉を寄せて言う。
「大丈夫だって。桜花爛漫祭であれだけ活躍したんだ、新入生も入ってくれるだろ」
「そうだと良いんですが……」
「それに、教師としては、夜道の中女子生徒だけで帰らせるわけにもいかないんでな、襲われたらどうする?」
すると、恵が鼻を鳴らして立ち上がる。
「そんな奴ら、返り討ちにしてやるわよ!」
何とも頼もしい発言ではあるが、果たして女子高生が言って良い言葉なのだろうか……。
「でもまあ、そろそろ帰ろーかー? 先生もこう言ってるんだしー」
うーんと身体を伸ばしながら、遥奈が他の五人に言う。先輩にも言われてはしょうがないと、今日の話し合いはこれで終了になる。
あとは生徒が帰ってから、俺が学校の戸締まりをするだけだ。
そんなとき────
「……?」
この感覚は何だろうか。この、こめかみを針でつつかれるようなチリチリとした感じ。無意識の内に緊張感を覚え、とてつもなく嫌な予感がする。
「先生、どうしたんですか?」
怪訝な様子で瑞希が尋ねてくる。俺の様子に気が付いた他の五人も不思議そうにしている。
「遥奈……近くに俺達以外の人間はいないか?」
「少し待ってて」
俺のただならぬ様子に、いつもの呑気な雰囲気を取り払った遥奈が、【感情感知】の能力を使い始める。
「これは……殺気ッ!?」
「「「……ッ!?」」」
遥奈が冷や汗を額に浮かべながら、驚愕したように言う。その言葉に、俺も含めて他の生徒も目を剥く。
「何人かわかるか?」
「五人……だと思う」
遥奈が警戒しながら答える。
『ミナト君……』
瑠衣も不安の色を顔に浮かべながら視線を向けてくるので、俺は瑠衣にこくりと頷き、「わかってる」という意味を伝える。
そして、俺は再び生徒達に視線を向ける。
「お前ら、よく聞け? 誰が来たかは知らんが、ただごとじゃない。俺がお前らを逃がす……俺の傍から離れんなよ?」
俺は若干潜めた声でそう指示する。そして、静かに教室の扉を開けて、二階廊下に誰もいないことを確認する。
「せ、先生……敵が襲ってきたらどうするんですか……?」
そう聞いてくるのは瑞希だ。胸の前で握られた手は微かに震えていて、不安が見て取れる。
「もちろん戦うことになるだろうな……そして、必要であれば──」
俺は覚悟を決める。
「──始末する」
その言葉に、生徒達は皆押し黙ってしまった。
そんなとき────
「ククク……始末する、か。やれるもんならやってみろやぁあああッ!?」
突如現れた黒装束の三人が、襲い掛かってくる。
俺は生徒達を背に庇うように前に立つ。
黒装束の三人が、それぞれ電撃を放ってくる。俺はそれらをしっかりと捉え、風の障壁を生み出して防御。続いて圧縮した空気の弾丸を射出。
黒装束の内一人を吹っ飛ばし、廊下の壁に激突させ、意識を刈り取る。しかし、かわした残りの二人が再び電撃を迸らせてくる。
俺はそれをしゃがんで回避すると、【身体能力強化】で筋力を高め、壁を足場に走って詰め寄り、蹴りと拳をお見舞いする。
「ぐふっ……ッ!?」
「うがぁッ!?」
残りの二人の黒装束も意識を失う。しかし────
「うっひゃー、アイツやるじゃーん?」
「黙れライア……気を抜くな」
先程の三人の黒装束とは明らかに次元の異なるプレッシャーと殺意を放つ二人──一人はライアというのか、チャラい印象を受ける金髪の女と、鋭い相貌でこちらを睨んでくる赤い髪の男が現れる。
俺は冷や汗が流れているのを感じながら、生徒を背に庇う。
「おい、アンタら……何者だ?」
俺は油断無く二人を見据えながら尋ねる。すると、ライアが両手を一杯に広げて、おどけたようにしながら答える。
「ジェリオコーポレーションの借金取りだよぉ?」
(ジェリオだとッ!? アイツらまだこの学校のこと諦めてなかったのかッ!?)
俺は前にジェリオコーポレーションの裏組織のアジトに生徒達が突っ込んでいったときのことを思い出す。あのとき、組織の奴らを捻ったから、てっきりそれで諦めてくれたものだと思っていたが。
「まあ? 雇われただけなんだけどねぇ?」
「雇われた?」
「だって私達ぃ、断罪教会だし?」
「なっ……!?」
第〇室にいたからこそわかる。コイツらの恐ろしさは常軌を逸している。もうすでに、この場は殺し合いの場となってしまったのは確実だ。
「喋りすぎだライア。さっさと片付けるぞ」
「りょーかい、ルイド」
断罪教会の男信者──ルイドの言葉に頷くライア。
「借金取りに来たのに殺すのかよ」
「んー、始末を依頼されただけなんだよねぇ?」
俺の突っ込みに、ライアは興味なさげに答える。
俺はにじり寄ってくるライアとルイドに視線を向けながら、背中越に生徒達に言う。
「お前ら、絶対に戦闘には参加せずに後ろに下がってろ!」
「そ、そんなこと出来ませんよ! 私達もも一緒に──」
瑞希が声を震えさせながらもそう答える。しかし、今はそんな悠長に話している暇はない。
「ダメだ! もうここはお前らが立ち入って良いような世界じゃないんだ!」
「なら、先生もそうでしょ!?」
今度は恵が俺の袖を引っ張りながら言ってくる。
「わりぃが、ここが俺の世界だ。わかったら下がれ! お前らがいてもどうしようもないだろッ!?」
俺は怒気を含めて叫ぶ。その声には、生徒もビクリとしていた。
しかし、ハッキリ言って今の生徒達では断罪教会信者を相手にするような力はないし、俺も守りながら戦うことが出来るほど器用じゃない。何より、俺にとったら生徒達の命が最優先だ。
「……わかりました、先生……絶対に死なないでくださいよ?」
「はっ、当たり前だっつーの」
瑞希の言葉に、俺は少し余裕を見せて答える。それにこくりと頷いた瑞希は、他の五人と共に俺の背から離れ、廊下の端に固まる。
「あ、ああ! ルイド、チビッ子達が!」
「この教師を始末してからでいい」
「なっるほどー! 了解ルイド!」
そう言いながらライアとルイドは戦闘態勢に入る。俺も同時に身体を半身に、やや腰を落として構えを取る。
久し振りの────
(殺し合いだ……)




