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Episode.18 一星の勝利


 大規模闘技場の熱気は、試合が進むごとに大きくなっていき、歓声も熱を帯びてくる。


 そして────


 『なななんと! 一星高校のミナト先生が準決勝を制しましたぁあああッ!? 見事、決勝進出ですッ!』


 「「「うぉおおおおおおおおお──ッ!?」」」


 観客の大興奮の叫びが、波のように押し寄せる。


 その盛り上がりようには、流石の俺も少し戸惑うが、一応決勝進出ということで喜んでおく。


 そして、ついに次は決勝戦。対戦相手はこれまでの試合を圧勝してきた聖帝学院の教師──源藤(げんどう) 祐作(ゆうさく)だ。


 戦い方を見た限り、祐作はまず間違いなく三重能力者(トリニティ)。そして、使う特殊能力は恐らく【発火能力(パイロキネシス)】【念動力(サイコキネシス)】【形状操作シェイプ・コントロール】。


 応用の利きやすい特殊能力を持ち、その上で戦い方を知っている中々の強者だ。


 これは俺も少し気合いを入れなければならない。


 しばらくの休憩があったあと、ついに決勝戦が開始される。


 巻き起こる大歓声の中、俺と祐作が半径百メートルの円形フィールドに立つ。


 『さぁ、いよいよ決勝戦ですッ! ここ数年優勝を取り続けてきた聖帝学院教師──源藤 祐作先生ッ!』


 「「「おぉおおお……ッ!!」」」


 『そして対するのは、今大会初出場、突如現れた若き教師。これまでの試合を難なく勝ち抜いてきた一星高校の──有栖川 湊先生ッ!』


 「「「うぉおおおおおッ!?!?」」」


 実況アナウンスも、観客もかなり盛り上がっている。


 『それでは、決勝戦……開始──ッ!』


 ピーッ!


 俺は試合開始の合図と共に、大きく後ろへ下がりながら、左手を振るって【風力使い(エアロマスター)】の能力で空気を圧縮して作り出した弾丸を、祐作目掛けて放つ。


 「ぬるいッ!」


 祐作はそう言いながら、地面に右手を付く。すると、その周囲の地面が隆起し、祐作の前に壁を作る。俺が放った空気の弾丸は難なく防がれる。


 (【形状操作シェイプ・コントロール】か……めんどくさい特殊能力だな……ッ!?)


 俺は心の中でそう毒づきながら、右掌に風を纏わせ、空気を集束させる。そして、その右掌を祐作に向けて突き出す。


 すると、その手に纏っていた風が一気に放出され、空気で生み出された破城槌(はじょうつい)となって襲い掛かる。


 祐作はその場から横っ飛びで逃げる。半瞬遅れて、先程祐作が作った壁が木っ端微塵に粉砕される。


 「しぃ──ッ!」


 俺はその隙を逃さず、【身体能力強化(フィジカルブースト)】の能力で肉体限界を超え、一気に祐作との距離を詰める。


 (このまま殴って終われば良いんだが……ッ!)


 しかし、そんな俺の願いとは裏腹に、祐作は再び地面に手を付く。すると、今度は地面が鋭利な槍となって突き出てくる。


 「ちぃ……ッ!?」


 俺は突き出てくる槍を身体で捌いていくが、あまりにも量が多い。回避しきれない槍を、打撃でへし折っていく。


 「そう来ると思っていたよ、ミナト先生?」


 「な……ッ!?」


 俺が壊した槍の破片が宙を浮いている。祐作が念動力(サイコキネシス)で操作しているのだ。


 そして、それを視認した瞬間、槍の破片が雨のように降り掛かってくる。こんなものを喰らえば人溜まりもない。


 俺は咄嗟に身体を風で包み込み、押し寄せる槍の破片を風で弾いていく。


 しかし、油断も隙もない。


 「これはどうかなッ!?」


 祐作がその手に作り出した火球を放ってくる。その数五つで大きさはバスケットボール程。


 俺は右手を手刀にし、そこに空気を圧縮させる。そして振るう。手を振るった軌道上から、風の刃が飛び出し、迫ってくる火球を両断していく。


 空いた左手にも空気を集め、祐作に向けて放つ。祐作はそれを再び地面の形を変えて作った壁で防ぐ。


 「やりますなぁ、ミナト先生ッ!?」


 祐作はニヤリと笑って言ってくる。


 「その言葉、そっくりそのままお返ししますよッ!」


 正直ここまで攻撃を防がれるとは思っていなかった。仮にも俺は五年間、第〇室(ファントム・ルーム)のメンバーとして戦闘というものに身を投じてきた。


 本気を出していないとはいえ、そんな俺の攻撃を防ぐこの祐作は、相当強い。


 (正直もう使う機会はないと思っていたが……)


 俺は油断なく祐作を見据えながら、身体をやや半身に構える。


 「そろそろ勝負を決めさせて貰うとするよ、ミナト先生」


 祐作はそう言って、両手を地面に付ける。


 刹那────


 ドォオオオンッ! という破砕音と共に、地面がひび割れ、岩で出来た巨大な柱が三本出てくる。それらは、まるで蛇のように柔軟に動いている。


 「【形状操作シェイプ・コントロール】と【念動力(サイコキネシス)】の能力をフル活用した、私の必殺技と言ったところですよ」


 自信ありげにそう言ってくる祐作。しかし、実際必殺技と言っても過言なく、こんな重量の大きなものを操るという技術は誰にでも出来るものではない。


 「ミナト先生、怪我をしたくなかったら降参を進めますぞ?」


だが────


 「降参?」


 どんな攻撃をしてこようが、今の俺には────


 「俺が降参しないといけない理由が全くわからないんですけど」


 ────関係ない。


 『み、ミナト君、まさかッ!?』


 俺の傍に浮いている瑠衣が、少し焦ったように言ってくる。俺は瑠衣にチラリと視線を向ける。


 「大丈夫、バレない程度にやるさ」


 『う、うん……』


 俺は呼吸を整えるべく、一つ息を吐く。そして、両目でしっかりと祐作を捉える。


 「言ってくれますな、ミナト先生……では──」


 祐作が手を振り下ろす。


 「行きますぞッ!?」


 三体の岩の大蛇が、その巨体には見合わないスピードで襲い掛かってくる。


 俺はそれを見ながら、【身体能力強化(フィジカルブースト)】で肉体限界を超え、【風力使い(エアロマスター)】で自身の身体に風を纏わせる。


 第〇室(ファントム・ルーム)時代に、瑠衣が死んで、俺が【風力使い(エアロマスター)】の能力に目覚めたときから使っていた技術。自らを風と化し、高速変則機動を可能にする──『疾風早燕(しっぷうはやつばめ)』。


 一体の蛇が突撃してくる。


 俺はそれを飛び越え、その蛇の背中を高速で駆ける。そこへ、残りの二体も俺を捕まえようと襲い掛かってくる。一体は前から、もう一体は死角となる背後から。


 しかし、どんな攻撃も今の俺には関係ない。なぜなら、俺には──俺のこの【時空神の眼(クロノス・アイ)】には、一つ先の未来が見えているから。


 背後から襲ってくる蛇。俺はタイミングを合わせて身を翻す。そして、両手を重ね、その隙間で空気を超圧縮。耳をつんざく高周音が鳴り響くと同時、圧倒的切断性を持つ風の刃が出来上がる。


 「喰らえッ!」


 俺はそれを投擲。手裏剣のように飛んでいき、巨大な岩の大蛇の胴体を切断する。


 そして、再び駆け出し、最後の一体の蛇を飛び越え、その背を滑り降りる。


 「なにぃいいい──ッ!?」


 信じられないとばかりに、祐作は驚愕し、眼を見開いている。しかし、このままでは駄目だと悟ったのか、自身の周りに無数の火球を生成し、発射。


 それらは流星群となって俺に襲い掛かってくる。


 しかし、俺の【時空神の眼(クロノス・アイ)】に捉えられている時点で、その攻撃は無意味。


 俺は大蛇の背を滑り駆けながら、迫り来る数多の火球を捌き、手刀で薙ぎ払い、風で吹き消す。


 「これで終わりっすよ、聖帝の先生ッ!」


 俺は限界を超えた脚力で蛇の背を蹴り出すと同時、身体に纏った風から得られる推進力を生かし、一気に祐作との彼我の距離を飛ばしていく。


 「一星にこんな先生がッ!? ミナト先生……貴方は一体……ッ!?」


 「はぁあああああッ!」


 ズドォオオオオオン──ッ!


 大量の土煙が舞い上がる。それによって俺と祐作の姿が隠される。


 実況アナウンス、観客席共に、沈黙を守り固唾を飲んで見守っている。


 やがて土煙が晴れる。


 「なぜ、止めを刺さなかったので?」


 祐作が訝しげに聞いてくる。


 俺の右拳は、祐作の顔面の寸前でピタリと止まっている。


 「別に俺は、アンタを殺しに来たわけじゃない。勝敗が着けばそれで良いんですよ」


 俺は右拳を突き出したまま、祐作を見上げて答える。すると、祐作はふっと顔を緩ませて、緊張を解くと────


 「はは、私の負けだ……」


 『なんと、祐作先生の降参宣言……よって勝者は、一星高校のミナト先生だぁあああああ──ッ!?』


 「「「うぉおおおおおおおおおおお──ッ!?」」」


 どっと巻き起こる大歓声。俺の身体にまでずしりと響いてくる。


 『なんということか、連覇を続けていた祐作先生を破ったのは、謎の教師ミナト先生ッ! 一体何者だぁあああッ!?』


 俺はそんなアナウンスを聞いて、苦笑いせずにはいられない。


 そして、優勝のファンファーレと共に、この競技は終了となった────

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