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Episode.17 最後に一肌脱ぎますか!


 『バルーンハント』で見事に三位入賞を果たした一星高校の六人の生徒。優勝するという目標を達成出来なかったことが少し悔しいのか、とても疲れた様子で俺の前に帰ってきた。


 「ま、姫ヶ丘と聖帝に挟まれたらしょうがないって。優勝は出来なかったが、三位も充分凄い結果だぞ?」


 「でも、先生……」


 瑞希がしょんぼりしながら、上目遣いで何か物言いたげに呟く。


 「だって考えてみろ、廃校寸前の学校が三位に入ってんだぜ? もうコレ偉業だろ」


 俺はそう言って周囲の道行く人の会話に耳を傾ける。


 「なあ、バルーンハントの試合見たかよ!?」


 「ああ、見た見た! 一星高校……だっけ? たった二チームで三位に入るってスゲーなッ!?」


 「一チームだけど、姫ヶ丘も倒してな!」


 等々……


 俺は「ほらな?」という意味を込めて、六人に視線を向ける。


 「ん、先生の言う通り。二チームで三位はかなり凄い」


 渚がコクリコクリと首を縦に頷かせながら言う。それを切っ掛けに、皆に次第に笑顔が生え始める。


 「ほら、桜花爛漫祭をもっと楽しもうぜ? 競技に出ることだけが桜花爛漫祭じゃねーだろ?」


 俺はそう言って歩き始める。生徒達も俺の背中を追うように、ついてくる。


 その顔は、実に満足そうであった────



 桜花爛漫祭は今日を含めてあと四日間。


 俺達は他校の競技を観戦するだけでなく、多く開かれた出店なども回った。


 桜花爛漫祭は名前の通り祭りで、夜まで多くの人が賑わい、楽しんでいる。



 そして、桜花爛漫祭最終日の今日────


 学区別対抗の競技が行われた。そして、激闘を制したのは我らが第七学区。


 主に姫ヶ丘学園の生徒が多く参加していたが、第七学区には他にも強い学校が多く存在するため、学区としての総戦力は圧倒的だった。


 そういう点では、今年も学校対抗で優勝し、最強と名高い聖帝学院がある第一学区は、聖帝がずば抜けて強いだけで他の学校はそうでもないため、四位という結果だった。


 これで桜花爛漫祭も終了……となる前に、学園都市オウカはラストスパートを掛けるように盛り上がっている。


 なぜなら、最終日には恒例として、教員による競技が行われるからだ。


 参加するかどうかは完全に任意。学校を代表する教師が一名ずつ出場し、トーナメント型式で一対一の模擬戦を行うのだ。


 統計的に、強い教師がいる学校はその分強い生徒が育つという結果があり、この教師同士の模擬戦は学校の立場も賭けられた、大いに盛り上がる競技なのだ。



 ────。



 「あれ、先生はどこでしょうか?」


 勿論そんな大イベントを見ない手はないと、一星高校の面々も観戦に来ている。早めに席を確保しておいたため、競技が行われる大規模競技場で生で観戦することが出来る。


 「師匠なら先程トイレに行くと言っていたぞ?」


 紅葉がそう答える。


 「ったく、何してんのよ……もう始まっちゃうわよ?」


 恵は若干じれったそうにしている。


 「でも、ここ数年決まった学校の先生しか出場してませんからね……」


 結果はわかっているといった風に、菫が苦笑いを浮かべる。その言葉には他の五人も頷いている。


 すると────


 『さぁ! まもなく学校同士のプライドを賭けた試合が幕を開けますッ! トーナメント表を発表しますッ!』


 若い女性の元気の良いアナウンスが会場に響き渡る。それに呼応するかのように、観客席の盛り上がりも大きくなっていく。


 『第一ブロック──』


 アナウンスが、常連校の名前を読み上げていく。


 『そして、最終ブロックは──雲上高等学校教師・石部(いしかべ) 刀悟(とうご)先生VSえっ、あ……し、失礼しました。一星高等学校教師・有栖川 湊先生だぁあああーーッ!』


 「え?」


 瑞希がポカンと呆ける。


 他の五人も同様の反応。


 「「「えぇえええええ──ッ!?!?」」」


 まさかのミナトの出場に、一星高校六人は驚愕のあまり絶叫する。


 「ちょ、何でアイツが出てんのよッ!?」


 「し、知らない……」


 恵が戸惑ったような質問に、渚も答えられない。


 「うへー、先生やるねー」


 「遥奈先輩、そんな呑気な……」


 遥奈が面白そうな展開に笑いながら言うが、菫は苦笑い。


 「し、師匠ッ! 流石だッ!」


 紅葉は興奮状態になっている。


 「先生……」


 瑞希は、「一体何を考えているんですか?」というような視線で、モニターに映し出されたトーナメント表を眺めていた────



 「今頃アイツら、驚いてるだろうな」


 俺は先程のアナウンスを聞いた六人の反応を想像し、面白くなって思わずニヤついてしまう。


 そんな様子を見た瑠衣が、「うわー」と若干引き気味な反応を見せる。


 「ま、まあ俺も桜花爛漫祭の競技に出てみたかったし?」


 『もう、ミナト君は素直じゃないなー』


 瑠衣はやはり俺の考えを見通しているのか、そう言ってくる。


 『一星高校の名前が広まれば、来年から新入生が入ってくるかもしれない。廃校を阻止するためにやってるんだよね?』


 「ち、違うって……普通に競技に出たかったんだよ!」


 俺は瑠衣に図星を突かれたが、まるで俺が一星高校のことを真剣に考えちゃってるみたいに思われるのは少し癪なので、一応否定しておく。


 まあ、瑠衣はそんなことも見透かして、面白そうに笑っているが……。


 俺は自分の番が来るまで、控室の椅子に座って目を閉じていた。


 そして────


 『さあ、いよいよ第一回戦最終ブロックの登場ですッ!』


 俺はそのアナウンスと同時に、大規模闘技場のフィールドに出る。


 明々と照り付ける照明が眩しいが、戦闘に支障を来す程ではない。


 (今頃アイツら、『本当に先生出てきたー』とか言ってんだろうな)


 俺は生徒達のことを考えて口角を僅かに上げる。


 対するのは、三十代後半といった感じの男性教師。名を石部 刀悟と言ったか、スポーツウェアで身を包んでおり、身長は百八十センチ程ありそうだ。


 互いの距離が三メートルのところで立ち止まる。


 試合決着のルールは簡単。どちらかが降参する、半径百メートルの円形フィールドから出る、気絶などで戦闘不能になった場合、また審判が決着が着いたと判断したときだ。


 「一星高校……バルーンハントでは良く頑張っていたね」


 常連校の余裕というやつだろうか、刀悟が俺に話し掛けてくる。


 「ああ、どうもです」


 「だけど、まさかこんな舞台にまで立ってくるとは思わなかったよ」


 「まあ、思い出作りには良いでしょ?」


 俺がそう答えると、刀悟は不機嫌そうに眉をピクリと動かす。


 「ミナト先生、降参することをおすすめします。見たところ貴方は若い……とてもこの過酷な戦闘についてこられるとは思えません」


 (過酷な戦闘……か)


 刀悟こそ知っているのだろうか。戦闘とは何か。


 こんなルールに守られた試合など戦闘ではなく、ただの競技だ。少なくとも俺にとってはそうだ。


 「ご忠告感謝します刀悟先生……でもね、その言葉、そっくりそのまま返すとしましょう」


 「なに?」


 「いや、()()が始まれば、貴方は喋る暇なく倒される。降参を口にするなら今しかないということですよ」


 相変わらず俺の隣をふわふわと浮遊している瑠衣が「うわー、言っちゃったよ! ミナト君が言っちゃったよ!」と騒いでいるが、俺は視線を刀悟から離さない。


 刀悟はしばらく気圧されて呆然としていたが、すぐに余裕の笑みを取り戻すと「面白い」と一言言って、開始の合図を待つ。


 『さぁ、両者とも準備はよろしいでしょうかッ!? それでは……試合、開始ッ!』


 ピーッ! と試合開始の笛が吹かれる。


 そして────


 ドォオオオン!


 俺は右ストレートを振り抜いた状態で残心。その少し先では、土煙が上がっている。


 観客席が静寂に包まれる。


 やがて土煙が晴れると、中からは地面に横たわって白目を剥いている刀悟の姿が。


 俺はため息混じりの息を一つ吐き、残心を解いて左手をスラックスのポケットに突っ込む。


 「あーあ、だから降参しろって言ったのに」


 『しょ、勝者……ミナト先生ぃいいいいい──ッ!!』

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