Episode.13 一星高校、桜花爛漫祭大活躍計画!
俺は、一人ずつ順番に今からやることを告げていく。
「えー、まず恵」
「な、何よ?」
俺に呼ばれた恵は、一歩近付いてくる。
「今日のお前のメニューは二つ。最初は【空間移動】の能力で、物体を狙った場所へ正確に飛ばせるよう反復練習だ。しばらくしたら、格闘術の練習な」
「わ、わかったわ」
そう返事をした恵は、早速一つ目のメニューをこなすための的となるものを見付けたのか、そちらの方へ駆けていった。
俺は次に渚を呼ぶ。
「渚はこれを使え」
そう言って俺は、さりげに持ってきていた鞄の中からオモチャの水鉄砲をいくつか取り出し、渚に手渡す。
「模擬戦のときみたく、大気中の水分をかき集めてからじゃなくて、元々水を用意して【水流使い】の能力を使え。そんで、水鉄砲で遠くのものを正確に撃ち抜けるようにしろ」
「ん、了解」
「で、遥奈悪いんだが──」
俺はそう言いながら遥奈の方へ視線を向ける。しかし、遥奈は俺が言い切るより早く首を縦に振る。
「銃の使い方を教えれば良いんだよねー?」
「あ、ああ。頼む」
了解の意を示した渚と遥奈は、二人で離れた場所に向かっていく。
「んで……瑞希、紅葉、菫はセットだ。菫が展開した結界に、瑞希と紅葉はひたすら攻撃しろ。菫は結界を壊されないように、瑞希と紅葉は頑張って結界を壊せ」
「「「はいっ!」」」
そう元気よく答えた三人は、早速場所を移してトレーニングし始めた。
俺はあちらこちらで練習している生徒達を腕を組んで見ながら、少し満足感に浸る。
「なんか今の俺、先生っぽくね?」
俺は自分の左隣に浮かんでいる瑠衣に聞いてみる。
『先生というよりかは教官っぽいけどね』
「ん……確かに」
俺と瑠衣は苦笑い。そして、瑠衣が何かを思い出したようにして、尋ねてくる。
『そうだ、あの三人と恵ちゃんのトレーニングメニューの理由は何となく理解出来るんだけど……』
あの三人とは、瑞希、紅葉、菫のことだろう。
瑞希と紅葉の特殊能力【氷結能力】と【発火能力】が出来ることは非常に単純なことで、応用の利かせづらい面がある。
しかし、その分必要なものは明確で、高火力を出せるようになること、攻撃の感覚を掴むことに限る。
その的として菫の【断絶結界】で展開した結界を使うことで、菫が作る結界の強度も上げられるという一石二鳥のメニューだ。
また、恵のメニューだが、【空間移動】の能力にはある特徴が存在する。それは、飛ばした物体は、出現地点にある別の物体を押し退けて出現するということだ。
例えば、鉛筆を木の幹のある場所へ飛ばすとする。すると、鉛筆が出現するその瞬間、その場所に現れるのに障害となる部分の木の幹を消してしまうのだ。結果、鉛筆は木の幹に突き刺さった状態で出現する。
これを利用すれば、理論上ティッシュペーパー一枚で、ダイアモンドすら切断することが出来る。
それらを成し遂げるには、正確な位置に物体を空間移動出来なければならない。今はそのための練習だ。
『渚ちゃんと遥奈ちゃんは、どうしてあのメニューなの?』
「ああ、それは──」
俺は詳しく瑠衣に説明する。
まず遥奈の特殊能力はどちらも戦闘向きではない。しかし、その切れる頭脳と洞察力、強いては模擬戦時に見せた戦闘というものを理解した動き方を考慮すると、皆の指揮官という立場があっていると考えた。
そのため、残り一ヶ月ちょっとの間に、皆のサポート役として動いてもらい、それぞれの特殊能力の特徴や、それを利用して何が出来るかなどを掴みとって欲しいと思ってのメニューだ。
渚の【水流使い】は、そこそこ応用の利く能力ではあるが、近場に水がないと、いちいち大気中の水分を集めるという行程が必要となる。
そのため、水辺に行って大量の水を用意し、真っ正直に戦うというのもアリだが、渚もかなり頭の回転が早く、冷静に物事を判断できる。
持ち運び可能の少量の水さへ正確に操ることが出来るようになれば、自分で応用を利かせて戦ってくれるだろうと考えての練習内容。
「──まあ、そんな感じ」
俺が説明し終えると、瑠衣は物凄く意外そうに目を丸くして答える。
『な、何だかミナト君が先生に見えるよ……』
「先生だからッ!?」
そんなこんなで、トレーニングは順調に行われていった────
恵と渚にはこの後お互い組手をさせたり、遥奈には索敵の特訓として俺と隠れんぼをさせたり、瑞希と紅葉を試しに戦わせてみたり、菫の作った結界がどの程度の出来になったのかを俺の拳で試してみたりした。
ときには戦うときにどんなことを考えるべきなのかを、教室で教えたり。チームでの連携しての戦術を皆で考えたり────
そうして日は流れていき、桜花爛漫祭まであと二日という今日。
────厄介ごとに遭遇してしまったのだ。
俺は学校からの帰り道、夕食の材料を買うためにスーパーへ行き、日が沈み掛かり、夕闇が広がり始めた頃、自宅のアパートに向かう。
少し近道しようと、裏路地を歩く俺。
表の綺麗に舗装された広い道とは違い、点々と設置された街灯がデコボコの道を照らす。
そんなとき────
「なぁ、良いだろ別にぃ?」
「ちょっと付き合ってくれるだけで良いからさぁ?」
そんないかにも物騒な男の声が道の先から聞こえてくる。
(何だ……?)
俺は面倒事の予感を覚えながらも、一本道なのでこの先に進むしかない。
「嫌です、どこかへ行ってください」
二人のチンピラに、三人の少女が囲まれている状況。その内一人の白髪の少女が、怯えている二人の少女を庇うように一歩前に立っている。
そして、明らかに歳上であるチンピラ達に向かって、物怖じすることなくキッパリと断る。
「もー、そんなにはっきり言わないでよぉ! オレ、傷付くぅー」
一人のチンピラが自分の胸を大袈裟に押さえながらおどける。
「うっひゃー、こういうハッキリした子、割りと好みだわぁ~!」
もう一人のチンピラがそう言って、白髪の少女の顔を覗き込んだ後、視線を下げていき、身体を舐め回すように見る。
「下衆が……」
(うっわ、言ったわあの子……!)
白髪の少女の呟きに、隠れたところで様子を窺っていた俺は、驚きのあまり開いた口を手で押さえる。
「「あぁ?」」
この距離でも俺の耳に届いたのだ。勿論その呟きを聞いた二人のチンピラは一気に機嫌を損ねる。
「おい、舐めてんじゃねーぞこのクソガキぃッ!」
「「ひぃ……っ!?」」
チンピラの怒鳴り上げた声に、後ろで蹲っている二人の少女が悲鳴を漏らす。しかし、白髪の少女は一切動じない。それどころか、チンピラ二人を見下すように睥睨している。
『ミナト君、あの子達姫ヶ丘学園の生徒だよね? それにあの緑色のリボンは……中等部?』
姫ヶ丘学園──ここ第七学区の自治権を有する代表校。小中高一貫の名門女子校で、特に高校は二重能力者のみが入学を許されている。
三人の少女が着ている、襟の大きな白いブラウス、膝丈のライトブラウンのプリーツスカート、黒い革靴というのは、まさにその学園の制服だ。
また、夏服冬服と区別があり、休日も制服を着ていなければいけないなど厳しい校則があるが、春という微妙な温度の季節だからだろうか──本来ならば、その上に校章の刺繍が入ったスカートと同色のブレザーがあるはずだが、それは怯えている少女の片方しか着ていない。
そんな名門校に通うお嬢様なら、恐らくチンピラの一人や二人特殊能力でどうにか出来るだろうが、中学生であることには変わりない。歳上の柄の悪い男に詰め寄られて怯えない方がおかしい。
(まあ、おかしいのが一人立ってるが……)
「これ以上は言いません……そこを退いてください」
そんな、おかしい少女は銀色の相貌でチンピラ二人を睨みながら最後通告をする。
「おいてめぇ、まだ状況が理解できてねぇみたいだなぁッ!?」
「……」
少女は呆れたように肩を竦める。
「ああそうか……なら、女に生まれてきたことを後悔させてやんよ……」
そう言いながら、チンピラの一人が白髪の少女に手を伸ばそうとする。
『ミナト君、ヤバイよッ!?』
「ああ、こりゃマズイな」
瑠衣にそう答えながら、俺は修羅場に歩いて近付いていく────




