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Episode.12 桜花爛漫祭に向けて


 小恥ずかしい夜が明け、いつものように一星高校へ行く。しかし、普段使っている一年一組教室ではなく、校舎二階にある二年一組教室に入る。


 昨日のうちにそう指示していたので、生徒達もそこに集まっていた。


 初めは一階の別の教室を使うつもりだったのだが、残りの三つの教室全ての電子黒板には、見慣れた穴が空いていて壊れていたため、使用不可能だったのだ。


 俺より前に赴任してきた教室達を追い返すために瑞希がやったのだろう。学校を復興させたいのではなかったのだろうか。これではただの凶悪な破壊者だ。


 「ん……先生ー、この熱サイクルの問題教えてー?」


 「へーい、どれどれ……?」


 俺は遥奈に呼ばれたので、そちらへ歩いていき、机の上に広げられていた物理の問題集を覗き込む。


 「オンライン授業で、似たような問題の解説あったけどよくわかんなくってー」


 えへへと頭に手を乗せながら笑う遥奈。


 「あー、こんなの……」


 俺は遥奈から離れ、電子黒板の前に立つ。そして、専用のタッチペンを手に取り、電子黒板に文字を書きながら説明する。


 「熱力学なんてのは暗記だ。定積・等圧・等温・断熱変化のそれぞれの場合での、理想気体と単原子分子の二パターンの、熱量Q・内部エネルギーU・仕事Wを出す公式を丸暗記しておけば問題ない……ほれ、俺の書いたこの表見ながらやってみ」


 「さっすが先生ー、頼りになるぅー」


 遥奈はそう答えると、再び問題に取り掛かり始めた。


 「師匠! 頼む、来てくれッ!」


 「ん、どうした紅葉? あと、俺は師匠じゃなくて先生な?」


 俺はそうぼやきながら、紅葉の机を覗き込む。数Aの条件付き確率の問題だ。


 「この問題……人知を超越した邪悪が宿っているが故に、我が魔眼をもってしても、看破できぬのだっ……!」


 「いや、人間が作った学生に解かせる問題なんだから人知は超越してないし、お前の魔眼とやらが何かの演算器じゃない限り看破できないのは当たり前──」


 俺が的確に突っ込みを入れていると、突如紅葉が右目の眼帯を持ち上げ、その奥に眠る魔眼(黄色のカラコン)を見開く。


 「いや、今深淵を垣間見たッ! この条件付き確率は7/10だ──きゃんっ!」


 俺が紅葉の額を指で弾くと、紅葉は手で額を押さえる。


 「バカ、お前が垣間見たのは深淵じゃなく、机の下に隠した模範解答だろうがッ!」


 『あはは……』


 これには思わず瑠衣も苦笑いだ。


 そんなこんなで、午前中は皆勉強を進めている。



 ────そして午後、運動場。


 「おー、それが一星高校の体操着……」


 俺は、自分の前に並んだ体操着姿の生徒六人をまじまじと見る。


 赤を基調としいて、長袖長ズボン、半ズボンは赤色のジャージ。半袖は白色だ。


 瑞希は半袖半ズボン、上に長袖のジャージを羽織っている。いつもは下ろされている銀の長髪は、今は後ろで一つ括りにされ束ねられている。


 菫は半袖長ズボン。制服を着ているときも何となくはわかっていたが、体操着ではその持て余し気味の胸が一層強調される。


 恵は半袖半ズボン。すらりと伸びた脚は白く艶やかだが、菫の後に見てしまったせいだろうか、まだ成長期とはいえ、その胸元は少し寂しくないだろうか。


 渚は半袖半ズボン。長袖のジャージを腰に巻いていて、何だか渚らしい。ただ、渚は着痩せするタイプなのだろう。以外と立派な双丘を持っている。


 紅葉は半袖半ズボン、ジャージの長袖を首元で括り、マントのようにしている。ただ、精神年齢が身体の成長にも影響してしまっているのか、恵と良い勝負だと言っておこう。


 『ちょっとミナトくーん? 視線がいやらしいよー?』


 ジト目になった瑠衣が俺の視界を遮るように前に立つ。


 「いや、薄着なんだから目がいってしまうのは仕方ないだろ」


 『ひ、開き直ったッ!?』


 俺は小声で理由を述べた後、少し横に動いて瑠衣で視界が隠れない位置に立ち直す。


 最後に遥奈。この中で最年長でありながら、一番背が低い遥奈は少しブカブカな長袖長ズボンのジャージに身を包んでいる。


 「もう春だぞ、暑くないのか?」


 「大丈夫ー……あ、もしかして私の半袖姿が見たかったー? でもゴメンね先生ー、この下はなんにも着てないからちょっと脱げないなー」


 遥奈がそんな答え方をしたせいで、他の生徒達が俺にじっとりとした視線を向けてくる。


 俺はそんな視線から逃れるべく、一つ咳払いをする。そして、再び生徒達に顔を向け、話す。


 「えー、授業に入る前に言っておかなくちゃいけないことがある」


 俺の真面目な雰囲気に、生徒達も真剣な眼差しに変わる。


 「特殊能力ってもんは便利なもんで、人々に恩恵をもたらしてくれる。今ではそれを利用した技術で色んな製品が開発されていたりもする」


 生徒達が微かに首を縦に振って相槌を打つ。


 「だが、同時に特殊能力は危険なものだ。容易にものを破壊し、人を傷つけることも可能だ。現に断罪教会という胸糞悪い連中が異能の力で人を殺しまくってる」


 六人が息を飲む。


 「それに、学園都市なんてもんが出来た理由は、元はと言えば軍事力強化のためだ。異能者一人いるかいないかで、世界の軍事バランスは大きく変わる」


 一つ風が吹き、微かに運動場の砂を巻き上げる。


 「だから俺は異能が嫌いになったんだ……」


 「先生……」


 俺の小さな呟きを聞き取った瑞希が、心配そうな視線を向けてくる。


 「だから、お前らには異能にはそういう面もあるってことを理解しておいて欲しい」


 「「「はいっ!」」」


 その返事を聞いて、俺は少し安心する。


 「よしっ、ほんじゃビシバシいくから覚悟しとけよなッ!?」



 俺は取り敢えず皆の特殊能力を聞いていった────


 昨日行った模擬戦でおおよそ把握しているが、間違いなどがあってはいけないので念のためというのと、結局遥奈の特殊能力がわからなかったからだ。


 「遥奈、お前の異能は結局何なんだ?」


 「流石の先生でも私の能力は見抜けなかったかー。えっとね【千里眼(クレボヤンス)】と【感情感知(フィールダウジング)】だよー」


 「おまっ、二重能力者(デュアル)だったのか!? って、【感情感知(フィールダウジング)】って何だ?」


 「自分の周囲のどの位置にどんな感情があるのかを感覚的に理解する能力……かなー?」


 「なるほど……索敵とかに使えそうだな」


 こうして俺は、全員の特殊能力を理解した上で、次にその強度を測った。


 強度とは、文字通りその特殊能力の強さだ。例えば菫の【断絶結界(シャットウォール)】なら、どの程度の衝撃まで耐えられるか。恵の【空間移動(テレポート)】なら、何メートルまで移動できるのか、どれくらいの質量のものまで飛ばせるのか。などだ。


 強度を測り終えたら、その結果を俺が手に持っているバインダーに挟んだ用紙に書き込んでいく。


 そして、昨晩考えたトレーニングメニューと照らし合わせ、上手くいかない点がないことを確認する。


 「よーし、お前ら。これから実際にトレーニングメニューをやっていくぞ?」


 そうして今日から『一星高校、桜花爛漫祭大活躍計画!』──後に『地獄の戦闘訓練』と言われるようになるのだが──が開始される。

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