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Episode.11 教師としての悩み


 「さて、このミナト大先生様が一番話したかったことについてだ!」


 俺は、バンと教卓を片手で叩き、生徒の注目を集めながら言う。


 『大先生様』という敬称に何かおかしな点でもあったのだろうか。生徒の視線は可愛そうなものを見ているようなものだった。


 しかし、俺は構わず続ける。大切なのはこの先にあるからだ。


 「一ヶ月ちょっと先に控えた『桜花爛漫祭』に出場し、どの種目でも良い……必ず一つ一位取るぞッ!」


 桜花爛漫祭とは、一言で言えば一週間に渡って行われる超大規模な体育祭だ。


 学園都市オウカには数百の学校が存在し、こういった行事の日時が重なってしまう。それならばいっそ学園都市規模で同時開催してしまおうということで出来たものだ。


 学校対抗・学区対抗の種目があり、最終的には順位付けされる。


 まあ、そんな感じの祭りなのだが……


 「「「……」」」


 元気よく言ってみた俺とは対照的に、生徒達は無反応。表情一つ動かさない。


 「お、おいどうした?」


 「「「え、えぇえええええええええええ──ッ!?」」」


 タイムラグあって、生徒達が顎が外れそうなまでに口を開け、目を見開き、絶叫した。


 「いやいやいや、先生ッ!? 何言ってんですかッ!?」


 瑞希が慌てふためきながら言う。


 「いや、言葉通りだが……」


 「ば、バカなの!? 貴方やっぱりバカなのッ!?」


 恵がやたら「バカバカ」と連呼してくる。


 「ふへー、先生簡単に言ってくれるねー?」


 遥奈も若干驚いているようだ。顔が引きつっている。


 「もちろん簡単じゃないな。ハッキリ言って今のお前らは雑魚だ」


 俺がそう言うと、生徒六人は一気に押し黙る。


 「さっきの模擬戦でお前らの戦い方やその他諸々はおおよそ理解したつもりだ。だが、まだ勝ち抜けるレベルじゃない」


 俺は背中を電子黒板に預けてもたれ掛かる。


 「だが、それはお前らがまともな教育を受けていないからだ」


 「「「──ッ!?」」」


 「この意味がわかるか? つまり、お前らにはかなりの伸び代があるかもしれないということだ」


 「な、なるほど……」


 瑞希が、確かに納得できるといったように頷く。


 「だからこの一ヶ月ちょっとの間に、この俺がお前らを鍛え上げてやるよ」


 「「「おおぉ……ッ!」」」


 生徒達が俺に驚嘆の音を上げる。


 別に俺はその眼差しを受けて嬉しくなったわけではない。そういうわけではないのだが……


 「感謝するんだな! わーはっはははははッ!?」


 まあ、鍛えてやるのだから、少しくらいの感謝を要求してもバチは当たらないだろう。それなのになぜ、生徒達は俺にそんな軽蔑の眼差しを向けてくるのだろう。


 『やれやれだね、ミナト君……』


 瑠衣は肩を竦め、首を横に振っていた────



 「──という感じのトレーニングメニューでどうだろう?」


 午後十時を回ったところ。


 俺は自分の家のリビングで、瑠衣と一緒に、明日から開始する『一星高校、桜花爛漫祭大活躍計画!』の内容を考えていた。


 『流石ミナト君、興味なさ気な割にはちゃんと生徒のこと見てるー』


 「ふっ、まあな」


 俺はどや顔を浮かべる。


 『でも、これって授業……というよりかは訓練に近いかもだねー?』


 「そうか? んー、でもこれ以上良いプランは思い付かんな……」


 『いやいや、別にダメ出しをしたワケじゃないよ。実戦的で良いんじゃないかなー?』


 「実戦的、か……」


 俺はソファーに深く腰掛け、うんともたれ掛かる。


 それを見た瑠衣が「どうしたの?」と尋ねながら、俺の前で首を傾げてフワフワと浮遊する。


 「いや、アイツらに戦う術を教えて、俺はどうするつもりなんだろうと思ってな……」


 『ミナト君……』


 「戦いなんて本来必要ないんだよ……確かに異能を使って()()する分には構わないと思う。だが、その隣にはいつだって()()がある……一歩間違えればそっちに転がりかねない」


 俺の脳裏に、第〇室(ファントムルーム)で活動していた頃の光景が浮かび上がってくる。


 あるのは地獄──命のやり取り。


 そこには何の希望もなければ夢もない。


 桜花爛漫祭で多く使われるであろう特殊能力の数々も、その世界では人殺しのための技術であり武器でしかない。


 「俺はそんなものを生徒に教えて……良いのか?」


 俺は自問する。答えは一向に思い浮かばない。


 すると────


 『ミナト君なら大丈夫!』


 瑠衣が膝立ちになって、両手を俺の右手に乗せる。


 実体のないその手は俺には触れていないが、確かにそこから温かみを感じ取れる。


 『異能が生み出す良い面、そして、悪い面をその身をもって知ってるミナト君だからこそ、あの子達に正しく教えられるんじゃないかな』


 「正しく……」


 『何たってミナト君の生徒でしょ? あの子達は道を踏み外したりしない、信じてあげなきゃ!』


 「瑠衣……」


 昔からそうだ。瑠衣はこうやっていつも俺を支えてくれた。俺が迷ったとき、困ったときに背中を押してくれた。


 「そうだな、何たって俺の生徒だもんな。サンキューな、瑠衣」


 『どーいたしましてっ!』


 そうして二人で笑った後、不思議な沈黙が流れる。


 俺はソファーに腰掛けて瑠衣を見たまま。瑠衣は俺の右手に両手を乗せて、上目遣いで俺を見ている。


 …………。


 なんだ、瑠衣は俺をからかっているのだろうか。昔もよく「ねえ、ドキドキした?」などと言ってからかってきた。


 (悪いがもうその手には乗らないぜ? 諦めるまで見詰め続けてやる)


 俺はそんな考えを表情に出さないように、瑠衣を見詰め続ける。


 正直、少し心臓が高鳴り気味ではあるが、この機会を逃せば次はいつ仕返しできるかわからない。


 「……」


 こう改めて見てみると、流石姉妹と言ったところか、顔の輪郭は瑞希とよく似ている。だが、やはり瑠衣の方が瞳の青みが濃く、紺色に近い。また、よく見ると瑠衣の瞳に俺の顔が映っていて少し面白い。


 『……ッ!?』


 瑠衣の瞳が揺らめいた。


 「ん、瑠衣?」


 『……』


 瑠衣が俺の右手から手を離し、自身の胸の前で手を組み、視線を斜め下へ逃がす。頬と耳が僅かに赤い気がするが、幽霊に血液はないだろうから、見間違いか何かだろう。


 『な、何で見詰め続けてきたの……?』


 瑠衣がいつになくいじらしい。顔を背けたまま、視線だけ俺に向けてくる。


 「いや、特に理由はないが……」


 『ちょっと、ドキドキした……』


 「んっ……そ、それは悪かったな……」


 どうやら仕返しは成功したらしいが、こうして本人の口から正直に「ドキドキした」と言われると、俺まで恥ずかしくなってくる。


 そして、その上目遣いで言ってくるのも止めて欲しい。無自覚でやってくるので、ストレートにドキッとする。


 (これからは、ドキドキ系の仕返しは止めよう……俺もダメージ来るわ)


 そう心に誓って、俺は一つ咳払い。


 気まずく気恥ずかしい沈黙が、俺と瑠衣の間に流れるのだった────

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