Episode.10 改めまして、教師でーす!
模擬戦は無事に終了し、俺と生徒六人は一年一組教室に戻ってきた。
「ふへへー、みんな、こてんぱんにされちゃったねー」
遥奈がいつもの調子で言う。その言葉に、思わず他の生徒も苦笑い。
「もう! 何でこうなったのよッ!?」
一人納得のいってなさそうな恵が、プリプリと怒っている。
「ん、強さの次元が違う……オウカにいる教師の中でも、先生はかなり強い方だと思う」
渚が戦闘を振り返りながら呟く。
「さあ、お前ら……忘れてないだろうなー?」
「「「──ッ!?」」」
俺はそんな生徒達にニヤリと笑いながら、腰に手を当てて言う。
「俺が勝ったんだから、何でも一つ俺の言うこと聞かなきゃなー? だーははははははッ!」
俺の言葉に、なぜか生徒達が凍り付く。
「げ、外道ッ! 変態ですッ!」
涙目になった瑞希が、自身の身体に腕を巻き付けて、俺から距離を取るようにしながら叫ぶ。
(え……?)
『うわー、やっぱりミナト君そういうこと要求するんだー。うわーうわー』
俺の周りを飛び回りながら、からかうように瑠衣が言ってくる。
なるほど、どうやら生徒達も瑠衣と同じようなことを考えてしまっているらしい。確かに、これまでの自分の発言を振り返ると、そう受け取れなくもない。
「そういう思考に行き着くお前らの方が充分変態だろ……」
俺がそう呟くと、凍り付いていた生徒達は皆、ポカンとする。
「俺の要求は、俺を先生だと認めること、だ」
沈黙が流れる。そして────
「そ、そうよね!? ちょっと瑞希、何考えてたのよ!?」
自分も同じようなことを考えていただろう恵が、若干顔を赤くしながら、瑞希に罪を擦り付けようとする。
「なるほど、そういうことか……瑞希って変態だね」
とっくに『そういうこと』を想像していたであろう渚も、少し視線を逸らせながら瑞希に罪を擦り付ける。
菫は優しいのでそんなことはしないが、曖昧に笑っていて、一人精神年齢が低い紅葉は、この一連の会話が何だったのかすら理解していない様子で疑問符を浮かべている。
「まー、瑞希ちゃんもお年頃だし、しょうがないんじゃないかなー?」
止めとばかりに遥奈が瑞希に言う。一見擁護しているようで、逆に追い詰めている。
瑞希は【発火能力】でも目覚めるのかと言わんばかりに耳まで真っ赤に紅潮させる。
「ち、違いますからッ!? 私、何も……って、皆も同じこと考えてましたよねッ!? ちょ、そこ! 視線を逸らさないでください!?」
瑞希がぎゃんぎゃん騒ぎ立てる。そして、最後に泣きそうな顔で俺にすがってくる。
「せ、先生~ッ! 助けてください!」
「……よーし、お前ら席に着けー?」
「うわぁあああああーッ!?」
その後しばらく瑞希は机に顔を突っ伏したままだった────
「さて、初日はあまりにも適当に自己紹介し過ぎたから改めて……」
俺は六人の視線を受け止めながら話す。
「有栖川 湊、十八歳。高卒なんで、教職免許は持ってない」
「何で教師やってんのよ!?」
恵が突っ込まずにはいられないといった風に聞いてくる。
しかし困った。「連邦理事会が俺を手放したくないがために、無理やり教師としてぶち込み、学園都市オウカに留めている」なんて答えられるわけがない。
「んー、まぁ、僕ってば優秀だから?」
「その顔止めて……無性に殴りたくなるわ」
俺は顎に手を当てて、渾身のどや顔を作り答えるが、どうやら恵の気に触ったらしい。
俺は一つ咳払いして話を続ける。
「ま、学歴はさっきも言った通りなんで、勉強面ではあんま力になれんかもしれん。あー、物理と数学は得意だから教えてやれるぞ?」
「なら、私達理系に進まないと」
「あ、いや、無理しなくて良いぞ?」
俺は一応渚に釘を刺しておく。
「他には……そうだな、俺は三重──二重能力者で【身体能力強化】と【風力使い】の特殊能力を持っている」
本当は【時空神の眼】も含めて三重能力者なのだが、この特殊能力の使い手は学園都市オウカに一人だけ。厄介事の種になりかねないので、生徒達のためにも、黙っておいた方が良いだろう。
「自己紹介は以上だ。何か質問とかあったりする?」
俺がそう聞くと、遥奈が「はーい」とのんびり手を挙げたので、そちらへ視線を向ける。
「先生、彼女は~?」
「ちょ、先輩ッ!?」
そう声を上げるのは瑞希だ。だが、他の四人も遥奈の質問に驚いたような視線を向けている。
「ん、いないぞ?」
「へー、そっかぁー」
まあ、女子高生が男性教師に聞いてくる質問などこんなものだろう。
「じゃあさー──」
「──私と付き合うー?」というシチュエーションを想像してしまったが、どうやら違うらしい。本当に僅かだが、遥奈の視線が真剣なものに変わる。
「──この学校をどうしたい?」
遥奈が初日にも聞いてきた質問だ。その後、正直に答えた俺の回答に、瑞希が氷の槍という形で返してきたのを覚えている。
「ん、どうでもいい──」
主に恵と瑞希が怒り出しそうな仕草を見せたので、俺は左手を前に突き出して制止させる。
「──が、お前らの好きなようにすれば良いと思う。俺は教師として、その手伝いをする」
「先生……」
瑞希が嬉しそうに微笑む。他の皆も同じような表情だ。
俺はこのとき、本当の意味で、初めて教師になった実感を覚えた。
『じゃ、私は副担任みたいな感じかな?』
瑠衣が、えっへんと胸を張って聞いてくる。
「お前を一星高校の守護霊に任命する」
『ちょっと、ミナト君ッ!?』
「先生、どうかされたんですか?」
不思議そうに首を傾げて、瑞希が尋ねてくる。俺はまたやってしまったと後悔しながら、少し慌てて「何でもない」と答える。
『ばーか』
(うっせ!)
俺は心の中でそう言いながら、瑠衣をジト目で睨んだ────




