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第三話

「さてと、料理を始めるとするか!!」

家に着くとクリスは豚をキッチンに持ち込む。

「クリスー、早くー…」

ツバキはテーブルに突っ伏しながら呟く。それを、はいはいと受け流しながらクリスはまな板に豚を置き、ナイフで奇麗に皮を剥ぐ。

次に皮を剥いだ豚肉を厚めに切る。その肉を卵に漬け、小麦粉を塗し、卵液に漬ける。

横の鍋には植物から抽出した油がふつふつと気泡を浮かせている。

そこへ先ほどの豚肉を優しく入れ込むとジューッと音を立てる。暫くその肉の様子を見ていたが頃合いになり、

肉を取り出すとそれはきれいな小麦色の衣をまとっている。

先ほどからテーブルに突っ伏していたツバキだったが、その音を聞きその匂いを嗅ぐと、

顔を上げ、クリスの近くまで寄って目をキラキラさせ、すさまじいほどの涎をダラダラと垂らしている。

「そ、その食べ物は何なのだ!?」

「カツだよ」

「カツ???ああ!!カツか!!我々の国でもよく食べていたぞ!!」

カツを取り出し、それをナイフでザクザクと切り分け、野菜類の盛られた皿に盛りつけて、それをテーブルに持っていく。

「ツバキ!!好きな分、米を椀に入れてこい!!」

それを聞き、さらに目を輝かせるツバキは足早にキッチンに入り、椀に米を山盛りに盛り付けた。

ついでにクリスの分も普通くらいで盛り付け、一緒に持ってきた。

「さて、じゃあ早速…」

「いただきます!!」

クリスが途中まで言いかけるとツバキがそう叫び、ガツガツと食べ始めた。

「お前!!まだ途中…」

そこまで言うとツバキを見て苦笑いした。

(まぁ、こんなに美味そうに食ってくれるならもういいか…)

そう思いながら、カツに手を付ける。

サクッと心地の良い触感、素材が新鮮なおかげか肉の臭みは一切なく、脂身は、口の中の温度で程よくとろけ甘みを感じられる。

(うんうん、よく出来ている。猪突豚の鮮度も良かったが、何よりあの油…市場で買ったゲルブミントの花の油…

さわやかな香りのするこの油で揚げたことで肉の臭みを消しつつ、風味もアップしている…手前味噌だが店で食うのより美味く出来たな…!)

「お代わりだ!!!」

「いや、あの量食ってまだ食うのか!?」


「ごちそうさまでした…」

結局、あの後米を3杯平らげたツバキは少し膨らんだ腹を軽くなでて満足そうな顔をして息を吐いている。

「米、2日分炊いてたつもりだったんだが…」

「あれで二日分だと!?冗談はよせ!!一回の食事分だろ、あれは!!!」

「おめぇは本当に食いすぎなんだよ!!少しは減らす努力しろ!!」

先ほど、食う量を減らすよう努力していると半泣きになったツバキはまたも涙目になった。

「わ、私だって減らしたいさ!!だがな、お前の…クリスの作る料理が美味すぎるのがいけんのだ!!」

「褒めてるのか責めてるのか…」

クリスはそういってため息を付いた。そのあとすぐに、思い出したことが有り、その言葉を口にする。

「そうだ、まだ昼だったな…となると、夕飯用の肉なども捕ってこないと…しまった、すっかり昼のことで頭いっぱいだったぞ…」

「仕方なかろう?私は腹が減ってた。あの状態では狩りの続行など不可能だったろうさ」

ツバキはそう言うと椅子から思いっきり立ち上がった。

「私はもうこの通り、元気満々だ!!クリスの為にもいくらでも肉を捕り今日の夕餉の手伝いをしようじゃぁないか!!」

そう言ってツバキは胸を拳で叩きフンッと息を吐いた。

「まぁ食った分は働いてもらうかね、とりあえず、また草原に出て今日明日分の鶏か豚を捕りつつ、野菜や果物も捕ってこよう。

米だけは潤沢にあるからそれだけ取れれば明日までは大丈夫だろうさ」

「おう!!では行こうか!クリス!!」

「その前に食った食器を洗うから手伝ってくれよ」

「えー」

ツバキは目に見えて嫌そうな顔をしてから渋々、クリスの洗い物を手伝うことにした。


【エデン 旧研究所】

「見つけたか!?」

「否、いないぞ!?」

研究員の男二人は周りをきょろきょろしてから片方が舌打ちをする。

「1046、あんな小娘なんぞこんだけ探せば見つけられるはずなのだが…」

「まさか外に!?」

「いや、それは無いさ。入り口には見張りもいるんだ。姿を消す魔術でも使えん限りは…」

「なんだい?まだ見つからんのかね??」

急な声に二人の研究員が後ろを振り返るとそこには白衣の痩せぎすの男がニヤニヤしながら立っていた。

「ど、ドク様!?も、申し訳ございません!!まだ1046は見つかっておらず!!」

「知ってるよー?なんでいないんだろうねぇー??」

「さ、さぁ?」

「君たちはよく探しているんだろーね??」

「も、もちろんでございます!!」

「ふーん??まぁ仮に何かの魔術を使えるとして、それを使い、姿を消すことは軽くマナを操れる人間なら容易いだろーね?」

「ま、まさか!?あんな小娘がマナをですか!?」

「おっと?侮っちゃいけないよ??各国から集めた子ども達にマナの適正手術を施して子どもの時代から天才的な魔術師を育て上げる。

それが我等の崇高にして偉大な主、()()()様の目指す、エデンへの一歩なのさ。

それ故にどんなに幼くとも熟練の魔術師と同等の力を持てる者もいるさ!そう、()()()()()()の様なね?」

「り、リッパー様やゴア様の様なですか!?」

二人は心底驚いた様な、それでいて恐怖に怯えている様な雰囲気で言う。

「そうさ?なんせあの二人は私の自信作だからねぇ?…まぁそれはさておき、あの研究体が逃げたのはよろしくないね?

それにそれだけのマナ適性を持つなら尚更ね?であれば私も本気で探さないといけないだろうね?」

ドクと呼ばれる男はそう言うとニヤリと笑い、指を弾く。すると彼の横に巨大な獣が現れた。

「うわぁ!?お、オルトロス!?」

「おうおう、そんなにビックリする必要は無いさ?僕のペットだからねぇ」

そう言ってドクはオルトロスと呼ばれる首が二つあるライオンの片方の頭を撫でた。撫でられたオルトロスはゴロゴロと喉を鳴らした。

「この子はマナを探ったりマナを食える子なんでね?この子にあの研究体を探させればいいのさ」

「な、なるほど!!さすがドク様で!」

「さてさて、鬼ごっこはソロソロ終わりにしようか??研究体のお嬢ちゃん??」

ドクはそう言うと口元を隠して笑った。


「はぁはぁはぁ」

何かが研究所の廊下を走り回っている。先ほどから一度も足を止めずひたすらに走っている。

「ちょっとだけ休憩…」

とある部屋の前に急に少女は姿を現し、自動ドアが作動し、扉は開かれる。

少女はその部屋…そこは倉庫の様だが、その部屋の段ボールと段ボールの間に縮こまる。

「さすがに透明化はマナの消費が激しいな…」

少女はそう呟くと、自身の身体を抱きしめる。

(急がないと…あいつに気が付かれたらお終い…マナが切れてもお終い…それなら…)

少女はそう思いながら白いスカートのポケットからカプセル状の薬を取り出す。それを水もなしに飲み下す。

(あとはこれが運よく作用してくれれば…!!)

少女はとにかく強く自身を抱きしめ、その何かを待つ。暫くすると、少女は唐突な吐き気に襲われる。少女はその場で吐いた。

「はぁはぁはぁ…運がよかった、ただの吐き気で済んだんだ…うん、これでマナが回復した感じがするな」

そう言うと少女は息を整え、ゆっくりと立ち上がる。自動ドアを開け、周りを確認してから少女は意を決した表情をして自分の胸を叩く。

(大丈夫、きっと、大丈夫…!)

その瞬間、少女の身体は足元から消え、再び姿を消し、また走り出す。出口を目指して…

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