地下通路探索1
ファラさんが王都に行き、僕とミアさんは別のチームと合流していた。
クジ引きで決められたのは、知り合いのアーリアさんと、その相棒のグリアさんである。
チームの連携をとる為に、町の外を回ったりして三日。
この日はスラーさんから別の仕事を言い渡された。
ギルド内部から続く地下通路を調べて欲しいというもので、僕達四人はその仕事を受けたのだった。
案内された地下通路に入って行くが、黒鉄虫によりアーリアさんとグリアさんが無力化されてしまう。
この地下通路に入って数十分。
まだ僕達は扉の前の入り口に居た。
「クーちゃんが……腕を貸してくれるなら……ヒック……」
アーリアさんの目には涙が。
「君、お願いだ、私を離さないでくれ!」
グリアさんも同様に悲し気な表情で僕を見つめている。
「それで進んでくれるのなら……」
っと二人の頼みを聞くしかなくて僕はそれを受け入れた。
階段を下りながら移動を始めたのだけど、二人の女性に両腕をガッチリロックされ全く動けなくなっている。
怖がって震えているとはいえ、前衛を務める人達だ。
後衛である僕がどうなるかといえば。
「ちょっとちょっと、痛い痛い痛い! 関節が決まってますマジで! 腕を掴むのはいいけど足はおろしてください!」
足は地面に着かないし、肩の辺りには関節を決められているように痛みが走る。
「で、でもお姉さん怖いし……」
アーリアさんの足は震えているが、腕はギュッと力が入っている。
片手で相手の攻撃を受け止めるだけあって握力が強い。
とても痛い。
「君ィ、私を助けてくれ! この地下通路を出たら何でも言うことを聞く。何でもだ! お願いだ、私を護ってくれ!」
グリアさんも足を震わせている。
それに比例して腕の力が増すのはアーリアさんと同じだ。
超重量の武器を扱うだけあってこちらの握力も強い。
やはりものすごく痛い。
何でも言うことを聞いてくれるのは魅力的な提案だが、地下通路を脱出するまでとか無理である。
その内全身の骨がバラバラに砕け散りそうだ。
「ア、ムシだ! タベタイ!」
その動きをジッと見つめるミアさん。
手を伸ばすのは我慢しているのだけど、こちらにとっては致命的な言葉だった。
「ああああああ!」
「いやああああああああ!」
アーリアさんとグリアさんの力が上がり、僕の関節に痛みが増している。
「ぎゃああああああああああああ!」
僕にとっては黒鉄虫や魔物よりも両側の女性達の方が恐怖の対象だ。
そんな二人が僕から手を放し、入り口に逃げ帰って行く。
持ち上げる人が居なくなり、足が地面に着かない僕がどうなったのか。
「ぐふううう」
着地に失敗し、ツルッと滑って頭を打ち付けてしまった。
冒険者としてレベルを上げていなければ危なかっただろう。
「ヨメ、ダイジョウブか?」
この中ではミアさんだけが救いである。
「……大丈夫じゃないです。このままダメージが増え続けたら死ねそうですよ。いっそ置いて行ってしまいましょうか……」
「「置いていかないでええええええええ!」」
僕の発言と共に、入り口から二人の声が聞こえて来る。
どうやら向うにも聞こえていたらしい。
また説得をするのは時間が掛かるし面倒だ。
一度だけ声をかけて、来なかったら置いて行くとしよう。
「一分だけ待ちますから、来なかったら置いて行きますね。それと、もう僕の腕は掴まないでください……じゃあ数えますからね。いーち、にーい、さーん――ろくじゅう。……ふう、じゃあ行きましょうミアさん」
「ウン、イクぞ!」
「「いやああああああああああああ!」」
僕とミアさんは、後ろから聞こえる声を無視して歩き出すのだけど、入り口に居た二人は、ガッチリ体を抱き合いながらこちらに走って来ている。
じつは僕達がこの通路を抜けだせば入り口の扉を開けることも出来たんだけど、それまで待てなかったのかもしれない。
……それとも、頭が回らなかっただけかも?
「クーちゃあああああん!」
「君ぃいいい!」
二人が再び僕の腕にしがみ付こうとして来る。
だがもうその手には乗らない。
僕がサッと身を躱しミアさんの後ろへ隠れると、ジリっと動きを止めた。
今ミアさんの手に黒鉄虫はないが、二人は抱き付くかどうかを決めかねている。
迷っている隙に進むとしよう。
というか、相当時間が経っているのに階段を下りた所までしか進んでいない。
先のことが思いやられそうだ。
「じゃあ地図を見ながら行きますから、二人ともついてきてくださいよ」
今度こそ進もうと皆に声を掛けた。
「ウン、イクぞ!」
相変わらずミアさんは元気がいい。
「お姉ちゃん怖いわ……」
「君ぃ、ゆっくりだ、ゆっくり頼む……お願いだ、ゆっくり、ゆっくり……」
アーリアさんとグリアさんは恐怖にとらわれている。
天井からポチャンと水が落ち、下に溜っていた水溜まりに跳ねただけでも。
「「あああああああああああ!?」」
こんな感じだ。
もう二人の顔は恐怖する少女のもので、歴戦の兵の顔ではなくなっている。
まあ可愛らしいといえば可愛らしいのだけど、万が一魔物が出た時どうなるか考えたくはない。
何時までも気にしていても仕方ないからと、僕は地図を見返した。
この地下通路自体の構造は単純なものらしい。
途中途中で分かれ道があり、それが三回続いているだけだ。
この地図の通りなら印をつけるまでもないだろう。
一応仕事だから全部調べるつもりなのだけど、役に立たないこの二人は、一度出口に置いて来た方がいいだろうか?
そう考えならが移動を続けていると、一本目の分かれ道が見えて来た。
正解は右の道だが、今回は左に行ってみようと思う。
「こっちが正解みたいなんで行ってみましょうか」
僕は左の道を指さした。
「こっちに行けば出れるのね? お姉さん少し安心したわ」
黒鉄虫の姿もあまり見えなくなり、アーリアさんは少し落ち着いている。
「わ、私は、全然平気、だよ。……ひっ、あああ、やっぱりダメ。ダメ、ダメえええええ!」
アーリアさんとは違い、グリアさんの方は全然駄目そうである。
そしてなんか発言がエロい。
「はいはいこっちですよ、ついて来てくださ~い」
でも僕はそれを気にせず道を進んで行く。
もちろんこの先は行き止まりである。
「あれ、間違ったかな?」
と、突き当りを発見した僕は、なるべく普通の口調で言ってみた。
見た限りでは何もないし、別に何かがある訳でもなさそうだ。
「ヨメ、アイツらスワってイルぞ」
「うん?」
ミアさんの言葉に後ろを振り向いてみると、二人共地面にうずくまっていた。
「うう、クーちゃんったら酷いわ。地図も読めないなんて……お姉さん悲しい」
アーリアさん、僕だって地図ぐらい読めますよ。
ワザと間違えただけです。
「君は意地悪だ、私はこんなにも苦しんでいるというのに。早く出してくれ! 出して! 出してえええええ!」
突き当りに絶望して絶叫しているグリアさん。
今まで通りである。
まあ敵もいないし、僕は二人をミアさんに任せて奥の壁を確認した。
やはり何もないようだ。
これで一本目終了。
「確認してみたけど、こっちではないみたいですよ。もしかしたら地図が間違ってたのかもしれませんね。別の道を行ってみましょう」
僕は移動しようと提案するが。
「クーちゃん、お姉さん腰が抜けて動けないわ。おんぶして」
「君、私はもうダメかもしれないんだ。出口まで抱っこしてつれていってくれないか……」
またも二人は無茶なことを言っている。
「そもそも一人運ぶのも無理なので、歩いてくれないなら置いて行きますよ。じゃあ行きましょうかミアさん」
ミアさんからの返事がない。
どうしたのかと見るのだが、何か天井の辺りを見つめていた。
あそこには何もな……いや、黒鉄虫が一匹天井を歩いている。
また暴れるし、言わなくてもいいだろうと考えていたが、黒鉄虫は段差を越えようと無理な体勢に。
「アッ、オチタ!」
あろうことか、そこには丁度グリアさんの頭が。
ポトっと落ちたのには本人も気づいただろう。
髪の上でカサッと動く感覚に、世界が終わったような表情になっていた。
「グリアさん、落ち着いてください。それはタダの岩の破片です」
グリアさんは震えながら首を動かすのだが、それを見た相棒のアーリアさんは、ズザザっと後ずさり、距離をとっている。
「グリアちゃんごめんなさい! 私にも無理なものは無理なのよ!」
アーリアさんの反応に、それが何なのかを気付いてしまったらしい。
「取ってください……」
グリアさんは僕を見て涙を垂らしている。
黒鉄虫が動く度に髪の毛にからまり、もう自力での脱出は困難だろう。
僕も触りたくはないけど、まあ仕方がない。
「えっと、動かないでくださいね」
僕はそう言って、グリアさんの髪に手を伸ばした。
「ううう、動けないから大丈夫」
グリアさんは子猫のように震えている。
「そうですか……」
僕はグリアさんの髪の毛に絡みついた黒鉄虫を丁重に取り除き、遠くにポイっと投げ捨てた。
それをパシッと掴んで後ろを向いたミアさん。
何かモグモグしているように見える。
我慢できなかったのだろうか?
ミアさんはいいとして、グリアさんの方は……。
また落ちて来ないかと天井や壁を見回し、震えながら僕を見つめていた。
口を開き出た言葉は。
「わ、私、決めた。我が君、貴方にこの命を捧げようと思います!」
っと、何か妙なことを言っている。
可哀想に、きっとショックのあまり頭がやられてしまったのだろう。
「じゃあ行きましょうか、急がないとまた出て来ますよ」
「ううう、お姉さん早く出たいわ」
「ワタシ、タノシイぞ!」
僕とミアさんとアーリアさんは、グリアさんの横をすり抜け、地下の通路を進んで行った。
「待ってえええええ、我が君いいいいいい! 置いて行かないでええええええ!」
本当に置いていったら、グリアさんは全力で走って来た。
クー・ライズ・ライト (僕)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
グリア・ノート・クリステル(お姉さんの相棒)
ランズ・ライズ・ライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
ディーラ・ストライウス (ミトラの町のギルド員女)
デルメオ・ザック・デルタ(ミトラの町のギルド員男)
虫の名前は黒鉄虫に変更です。




