その調査は大正義
三年越しに現れたお父さんに、出社して来たファラさんは驚いている。
ギルドの中で追いかけっこをはじめて、騒ぎが大きくなっていく。
そんな状況を見てスラーさんから止めるように頼まれて、僕は説得をしてみたのだけど、フェイさんは孫の存在が居ないことに怒ってしまう。
僕にどうしろというのだろうか。
どうしようもなくなった僕はギルドの中から逃げて、町の中を走り回る。
しかしフェイさんは諦めてはくれず、追い駆けて来てしまう。
しかも自分が魔王の配下になったと、飛んでも発言をするし、攻撃魔法まで使って来たのだ。
僕はそんな状況からなんとか脱出したのだった。
「ハァハァハァ……なんとかまけたようだ。しかし魔王の部下になっちゃったのか。これはギルド案件かなぁ」
僕はフェイさんから相当離れ、建物を使って身を隠している。
「うおおおおおおお、何処へ行ったああああ!? クー・ライズ・ライトオオオオオオオオオ!」
上空を見ると、フェイさんが大声を出しながら町の中を見回していた。
下手に動いたら見つかりそうだ。
しかし簡単に動かなければ、僕一人を探し出せないはず。
まあ三年も待ち続けた人が簡単に諦めるとは思えないし、隙を見ながらギルドに逃げ帰るとしよう。
「よし、今だ!」
そして僕は、フェイさんが視線をそらす度に一回ずつ移動を繰り返す。
どうやらまだ時間は切れていないようで、労せずギルドへ避難した。
やっと帰って来たギルド内部には、殆どの人が居なくなっている。
アーリアさんやデッドロックさん、ミアさんも居ないようだ。
「おや、お帰りなさいライズ・ライト君。無事逃げ切れたようでなによりです」
スラーさんが僕を出迎えてくれていた。
そしてもう一人。
「大変だったわね。私も心配していたわ」
ファラさんは椅子に座りながらお茶を飲んでいる。
どう見ても心配している様には見えない。
僕の問題というよりは、ファラさんの問題だと思うのだけど。
「ただいま帰りました。え~っと、それでですね、え~っと……ファラさんに残念な知らせがあります。今騒ぎを起こしているフェイさんですけど、どうやら魔王に師事したみたいです」
僕は二人に事情を伝えた。
「それが本当なら由々しき事態ですが」
スラーさんは顎に手を当て、考えを巡らせている。
「はぁ? 流石にそこまではしないでしょ。お父さんだってそこまで馬鹿じゃ……」
ファラさんは自分の父親だからと少しは信じているようだが。
「出て来ないというのなら、魔王に頂いた力により、この町全ての人間に天罰を与えてやろう! もちろん、ファラちゃんは助けるけどなぁ!」
そんな信頼を裏切るようにフェイさんの大声が聞こえて来る。
もう自分で宣言しちゃったもんだからギルドとしても動かざるを得ないだろう。
「はぁ、どうやらそこまで馬鹿だったようね。面倒だけど娘として止めなければならないようね」
ファラさんはため息をついて首を振る。
しかし呆れられているとも知らず、フェイさんは言葉を続けていた。
「チィッ、出て来ないようだな。どぅあったらあああ! 本当にやってやるぞおお! 明後日だ。明後日の日の出と共にこの町を消滅させる! 逃げたい者は逃げるがいい。しかああし、クー・ライズ・ライト、お前が逃げるのだけは許さん! もし町を救いたいというのであれば、その三日の内に、ファラちゃんを連れて我が愛の家にまで来るのだな。待っているぞ、クー・ライズ・ライトオオオオオ!」
町の外ではゴロゴロと雷が鳴り、ドギャギャンと何処かに落ちている。
フェイさんはどうしても僕を叩きのめしたいらしい。
それから声が遠ざかり、雷の音が聞こえなくなった。
愛の家とやらに帰ったのだろう。
「ふむ、町のピンチらしいですね。まあ相手が雷を扱うと知っていれば何一つ問題はないのですが。この町には測量士の結界が作られていますからね」
スラーさんは落ち着いている。
じつは町の中全体を囲うように測量士の結界が作られている。
相手の能力が分かっているのなら別に問題無く対処できるのだ。
だがそれはジョーカーの一つであるからギリギリまでは使われることはない。
「スラーさん、じゃあこのまま放置するんでしょうか?」
僕はスラーさんに対応を聞いたのだけど。
「相手は魔王の配下です。となれば放置するわけにはいかないでしょう。というわけで、相手の戦力調査に行ってきてくださいライズ・ライト君」
と言われてしまった。
「あ、やっぱり僕が行くんですね……」
「当然です。もちろんラビス君にも行ってもらわなければならないでしょうけどね。いいですよね?」
「はい、もちろんです。お父さんには一度反省させて地獄を見せますから。こちらに任せておいてください」
スラーさんの言葉にファラさんは頷き、自分の剣を手入れし始めた。
「肉親なのに容赦ないですねファラさん」
僕は少し同情して話しかけたのだけど。
「肉親だからでしょ。二度と調子に乗らないように叩きのめしてあげるわ」
叩きのめせる場があって嬉しそうだ。
その気持ちも分からなくはない。
父さんがあんな感じになったのならば僕としても滅んでもらいたくなるだろう。
しかし、僕とファラさんのチームにはもう一人メンバーが居る。
「そういえばミアさんは何所へ?」
僕はスラーさんにミアさんの居る場所を聞いてみた。
「ああ、今日は仕事にならないだろうと思いましたから、ミアは別のチームと合流させました。まだ新人なので一つでも経験を積んでもらわないと困りますからね」
養子だからという訳ではないが、ミアさんとは適度な距離感を保っているようだ。
きっとファラさんもこんなお父さんが欲しかっただろう。
「じゃあ僕達二人で行くってことですか? あの人だけが相手なら特に問題はないですけど、他に手下とか魔物とかが居たらちょっと辛いんですけど」
僕は増員が欲しいとスラーさんに頼み込む。
変な対応したらまた借金が増えるからと学習しているのだ。
「ふ~む、そうですねぇ……今ギルドに残っている人となると……」
スラーさんはギルド内部を見回している。
今残っている中にはアーリアさんやデッドロックさん、ツキコさんも居ないようだ。
まあ他にも知り合いは数人居るには居るのだけど、全員目をそらしている。
面倒そうだし関わり合いたくないのだろう。
「……では、ディザリア・エルス・プリースト君にお願いしようか」
で、スラーさんは一人を選び出した。
その当の本人はバッと立ち上がり、不適な表情を向けている。
「フフーン、この私を選ぶだなんていい度胸じゃないの。まあ手伝うのはいいのだけどね。私以外のチームはどうなるのかしら?」
赤い髪を腰まで垂らし、自信満々に言い放つのがディザリアさんだ。
プリーストと家名があるだけあって、回復魔術が得意な家系なのだけど、彼女自身は回復魔法を使わない。
むしろ真逆である攻撃魔法を好んで使う人だ。
この人が選んだ職業はバスターメイジという破壊を信条とするものである。
普通のウィザードがコツコツ積み上げるように一つ一つ魔法を覚えるとするならば、バスターメイジは広域魔術を熱心に使う。
というか、他の細かい技は一切ない。
魔法以外の技能としては、レベルが上がれば消費魔力を抑える技術を学び、時間による魔力回復量が上がったりする。
戦闘になれば、力の続く限り魔法を撃てるだけ撃つだけの人だ。
まあ魔物に囲まれた時なんかは居てくれると心強いが、それ以外だと過剰な威力になるだろう。
弱点としては、魔法力と魔力以外の力が一つたりとも上がらないことだ。
超強力魔法が使える一般人だから、接近戦にはめっぽう弱い。
僕と同じ後衛タイプで、僕とは真逆の魔法殲滅型だ。
ちなみに、職業形態が安定する以前にもこういう人達は存在していた。
ある存在は敵を倒す為周り吹き飛ばしたり、ある存在は一撃必殺の信条をもっていたりするとかだ。
さらに一回の戦いで魔力をあるだけ使い続けるなんて人もいる。
まあ全員を総合すると、過剰威力万歳の人達だ。
だったらいっそ、職業の一つとして作り出そうとしたのが、このバスターメイジという職業だ。
まあ魔物調査という観点からしてみれば一番向いていない人だろう。
そんな職業のディザリアさんが、上司であるスラーさんを机の上から見下ろしている。
「他の人には二人でも丁度よさそうな仕事を回しましょう。ですからお願いします」
スラーさんそんな態度に気にせず、ディザリアさんの質問に答えている。
「フフ~ン、だったらやりましょう。魔王の配下ぐらい小指の先っちょの力でぶっつぶしてあげるわよ。ついでに魔王も居たならひねり潰してあげるわよ、アーッハッハッハー!」
ディザリアさんは大口を開けて笑っている。
「あの、一応私のお父さんだし、殺したら駄目だからね」
ファラさんは一応釘を刺す。
本当に一応だろう。
表情には心配の欠片も無いし。
「大丈夫、私は分かっているわ! 殲滅こそ正義だと! さあ行きましょうある物全て全滅よ。アーッハッハッハー!」
ちょっと心配なこのディザリアさんを引き連れて、僕達はフェイさんの城に向かう事になった。
クー・ライズ・ライト (僕)
ランズ・ライズ・ライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
ディーラ・ストライウス (ミトラの町のギルド員女)
デルメオ・ザック・デルタ(ミトラの町のギルド員男)
町の結界について。
測量士によりつくられた町の結界は、どの属性にも対応できるように何重にも張り巡らされている。
冒険者としてはレア職業の測量士だが、ギルド職員としてはポピュラーなものだ。
町中では超重要な役割を任されて、その結界の維持に努めている。
魔王であれなんであれ、町の中へ来てしまえば確実に封殺できてしまえるのだ。




