やっと現れた魔物さん
気が付いたファラさんのお父さんに、僕は説得を始めた。
しかしあまりに過保護なフェイさんは、僕達に試験を与えようとして来る。
でもファラさんは自分の気持ちを伝えると、フェイさんは泣き崩れてしまった。
そして僕の父さんが酒を無理やり飲ませると、やっと魔物の話が聞けるらしい。
近くにあるレストランから、行かないでと懇願する男の声が聞こえて来る。
ファラさんのお父さんであるフェイさんのものだろう。
魔物との戦いに参加しようと、ファラさんが来ようとしているのかも。
でもそれを待つ必要はない。
来るのかも分からないし、僕達だけでも充分だ。
「いようし、じゃあ魔物退治をやって行こうか。大丈夫かクー、緊張とかしてないだろうな?」
父さんはもう酒も抜けて、やる気を出している。
「大丈夫だよ父さん。今まで結構退治して来たし。それにあのお父さんの方が怖いし」
「ヌッハッハー、確かにな!」
その僕達は、先ほど訓練していた場所で陣を張っていた。
さっき作った結界もそのまま残されているからだ。
別に作り直すのが面倒な訳ではない。
「それで僕達はこのまま待っていればいいのかな?」
「相手は人を襲う魔物らしいからな、待っていれば来るんじゃないか? というか来てもらわなきゃ困るんだがな。探す手もないし」
「ふ~ん、まあそうだよね」
人に化ける魔物だとすると、探そうと思っても簡単には見つからないだろう。
魔物を探すようにキョロキョロと周りを警戒しながら出現するのを待っていた。
そんな時。
「あれ? ……あの、父さん、あれが魔物じゃないよね?」
「ほぉ、あれか? まあ、間違いはないだろうな」
僕は、町の中を歩くフェイさんの姿を見つけてしまった。
あの人は今、レストランの中で娘のファラさんとたわむれているはずである。
「よし、だったら気付かない振りをしてこちらに引き込んでみるか。クーお前が行って来い。お前なら警戒されないだろう。心配するな、危険があれば父さんがフォローしてやる」
「ええ……まあ、いいけど。ちゃんとフォローしてよね」
「おう任せろ! キッチリフォローしてやるぞ。ヌッハッハー!」
父さんは昔からの冒険者だし、きっとこういうことだけは信用できるはずだ。
そういう事にしないとやってられないし。
そう思いながら、僕は少しだけ緊張して魔物の下に歩いて行った。
「こんばんはフェイさん、あっちの木の所でファラさんが呼んでいましたよ。待っていますから早く行ってあげてください」
「ファラが? え~っと、君は……見た事がない子供だな? ……まさか、遠距離恋愛でもしているんじゃないだろうね!?」
ずいっと迫って来る圧力は本物にそっくりである。
しかし、僕のことを知らないからやっぱり偽物だろう。
「それは絶対違います! 僕はただ頼まれただけですから!」
僕は思いの丈をぶちまけた。
キスされたとはいえ、あの人と恋人になりたいとは思わないからだ。
しかしその声を発すると。
「……あいた!?」
同時に、後頭部の付近に軽い痛みが走る。
何事かと振り向くと、その理由が判明した。
後ろにファラさんが立っていたのだ。
「私もそう思ってたし!」
どうも僕の言葉で怒りをにじませたらしい。
因みに本物であるファラさんのお父さんは、その後ろから追い駆けて来ていた。
しかし、このまま近づかせてしまえば何方が魔物か分からなくなってしまうだろう。
僕はその進行を止めるように手を広げるが。
「フェイさん、少し待ってください! 魔物が出たんです!」
「魔物が出たなら余計ファラが危ないだろう! 私の邪魔をするな!」
僕はドンと背中を押されて倒されてしまった。
「ファラ、そんな偽物に近づいてはいけないよ! 本物のお父さんはこんなにも愛しているんだから!」
「ちょっと、くっつかないでよ!」
フェイさんは、ファラさんの背後からガシッと抱き付いて嫌がられている。
そんな本物を見た偽物は。
「ファラは私のものだあああああああ!」
「ちょっと、来ないでよ!」
正面から抱き付こうとするが、正面から来てしまったからファラさんにぶん殴られている。
「ぬおおおおおお、ファラの為にも負ける物かあああ!」
それでも足を踏ん張り、本物の方を引きはがしてしまった。
両方共地面に倒れ転がってしまう。
分からなくなるところだけど。
「こっちが本物ですよ。僕ちゃんと見てましたから」
僕は迷うことなく片方を指さしている。
別にそんなに早く転がった訳じゃないし、冷静に見とけば分かるのだ。
「わ、私は本物です。偽物ではありません! ギルドの依頼を終えて、さきほどラザリアンクから帰って来たばかりなのです! ファラ、ファラなら分かるだろう?!」
偽物の方は自分が本物だと言っている。
ギルドのことを知っているとなると少しだけ可能性が?
確かに、本物だと思っていた方は泣きわめいていたり色々酷いものだが。
「私に聞かれても正直どっちか分からないんだけど。もう考えても分からないし、二人共殴っとけばいいんじゃないの? 死にそうになったら正体を現すでしょう」
ファラさんにとっては、どちらも殴り易い存在なのだろう。
「まあ、娘のファラさんがそれでいいって言うなら、僕もそうしてもいいですね」
『それはおかしい。私が本物なのに!』
二人共ピッタリ息が合っていてまるで双子のようだ。
悪さをしないのなら別にこのままでもいいのだけど、片方は依頼された魔物である。
「おいクー、連れて来るんじゃなかったのか?」
こちらの騒ぎを見て、父さんがこちらに来てくれた。
「あっ、父さん、ごめん忘れてた。でもおかしなことになっちゃったんだ。見て分かると思うけど、本物が混じっちゃったみたいだよ」
僕は今までの状況を掻い摘んで父さんに話した。
「つまり、どちらかが本物の可能性があるってことか? だが、見分けがつかんぞ?」
「うん、だから両方殴っちゃえばいいんじゃないかって意見がファラさんから出たんだけど……」
「なるほど、肉親が良いというのなら良いんじゃないか?」
やっぱり父さんも手っ取り早い方法を望んでいる。
「あ、やっぱり? 父さんもそう思うよね」
「私は全然大丈夫よ」
ファラさんもやっぱり良いようだし、やってしまうとしようか。
父さんは拳を構え、僕達も戦闘体勢をとるのだけど。
「おい! 私を傷つけたらギルドに抗議するからな! 依頼料も払い戻してもらうぞ!」
「そうだそうだ! 依頼者を大事にしろよ! 私だって抗議するぞ!」
なぜか本物と偽物で協力して僕達に抗議してきた。
村の為に犠牲になってくれれば早いのに。
「ふんむ、流石に依頼主に手を出すのは不味いかな? もういっそ娘に選んでもらうのはどうだ?」
「ファラさんがそれでいいなら」
「私は一向にかまわないわ。どうせ会わなくなるんだし!」
「ファラ、お父さんとの絆を思い出してくれ! 二日前にお風呂に入ったり、一緒に楽しく添い寝してあげたじゃないか!」
ちなみにこっちが本物だと思っている方である。
「ファラ、お父さんの方が本物だ! お父さんはファラのこと信じているぞ! 大丈夫、冒険者になりたいというのなら、お父さん止めないよ。それがファラの夢だからね」
こっちが偽物だと思っていた方である。
で、ファラさんが選んだのは。
「ふう、こっちの偽物の方を本物にするわ。あっちが偽物だからギルドにつき出せばいいんじゃないかしら」
「ファラアアアアアアアアアア!」
「やった、ファラは私を選んでくれた!」
ついに偽物認定されてしまった本物のお父さんは、ファラさんに見限られてしまったらしい。
しかし、この本物の偽物は本物かもしれないし、無暗に退治する訳にも行かないのだ。
「いよし、なら二人共縛りあげて一方はギルドに連れて行くとしよう。そっちの方は、椅子にでも縛りつけとけば暴れることもないだろう。偽物だったと分かればその時退治すればいいからな。じゃあ縛るぞクー、手を貸してくれ」
「分かったよ父さん!」
「私も手を貸すわ!」
どっちが偽物でも縛って置けば問題ないと、僕達はジリっと迫った。
その気迫に怯んで、二人共足を後退させている。
「すまないファラ、私は幸せな生活の為に捕まる訳には行かないんだ!」
「ファラ、酷いじゃないか! 本物だと認めてくれたんだから縛らなくてもいいだろう!?」
『私はまだ捕まる訳には行かない!』
自分の運命がどうなるのか知ってしまった二人のお父さんは、僕達に捕まらないようにと分散して逃げ出して行く。
「クッ、逃げたか。追い駆けて縛りあげるぞ二人共!」
「私はあっちを追い駆けるから、二人はあっちを追い駆けて!」
「いや、あっちは俺一人でいい。クー、お前もついて行ってやれ」
「うん分かったよ」
ファラさんと僕は、本物認定した偽物の方を追って行き、父さんは偽物の本物の方を追い掛ける。
もう自分でも何を言ってるのか分からなくなって来たけど、ファラさんの家に残らない方を僕達が追い駆けている。
丁度よく向かっているのは、さっき訓練をしていた場所のようだ。
家に残る方は木の根元に立ち、クルリとこちらに振り向いた。
「ファラアア、お父さんを追い掛けるなんて悪い子だああああ! クァァァァァ、もういい、クソガキの二人ぐらい返り討ちにしてやろう!」
やっぱりこっちが偽物だったようだ。
バキバキと皮膚が硬質化していき、人の姿を脱ぎ捨てた。
体積すらも大きく変わり、四肢を地に置き変わり果てたその姿は、大きなカメレオンに似て非なる生物となる。
「グギャギャギャギャギャギャギャギャ!」
姿が変わると人の言葉すら使えなくなったらしい。
そんな光景を見て、ファラさんは驚いているようだ。
「なんで……なんで今元に戻るの!? もう少しだけ生かしておいてやろうと思ってたのに!」
ファラさん、利用した末に自分で退治するつもりだったのだろう。
まあ、正体を見破ってしまえばこの魔物はそれほど強くはないはずだ。
人を傷つけて遊んでいるだけのザコだろう。
父さんだったら軽く退治してしまうはずだ。
父さんだったらね!
「ファラさん、戦いになりますよ。腰の剣を抜いてください!」
「今やるところよ!」
ファラさんは剣を引き抜き相手の前に構えた。
僕もリュックから鉄棒を持ち……。
「って、地面に刺しっ放しだったああああああああ!」
あまりに色々なことがあり過ぎて、スッカリ忘れてしまっていたのだ。
「グギャウ、グギャウ、ギャギャギャギャギャギャギャ!」
言葉は分からないけど、相手にも笑われている気がする。
「あんた何しに来たの? 邪魔になるから帰ったら」
ファラさんの怒号が飛んで来る。
でも刺さっているのは寧ろ都合がいいのだ。
「いや大丈夫です、ファラさんは前に出て少し時間を稼いでください。その間は応援していますから!」
「応援なんて要らないから手伝いなさいよ!」
「だから手伝う為に前に出てくださいって言ってるんですって」
「ああもう、行けばいいんでしょ行けば! その代わり邪魔だけはしないでよね!」
ファラさんは剣を構えてカメレオンに突っ込んで行く。
伸びる舌を躱し剣をぶつける。
父さんと訓練していたからか剣を振る姿は様になっているようだ。
剣を突き、薙ぎ、打ち付け、相手に傷を負わせている。
しかし、ファラさんには実戦経験が圧倒的に足りていない。
何時ボロが出るのか分からない。
急がなければと、僕は測量士の説明を思い出す。
とあるページには導き出された数値の力を操れると書いてあった。
その使い方も頭に入っている。
結界の内にあるのは二十八という数字。
初めて使うこの力を上手く使いこなさなければ勝利はない。
相手の力を見極めて、その速度を観察する。
僕にとって、あの攻撃を避ける動きをするには速度が足りない。
ファラさんの力でも大きな傷は与えられていないとなると、僕の力も足りてはいない。
それを加味して、使える秒数は僅かしかない。
「ファラさん、その剣を貸してください!」
「あんたに貸せる訳がないでしょう! 私が使った方が随分マシよ!」
「いいから早く!」
「……あとで返してよ! ほら!」
僕の真剣さを感じたのか、ファラさんは後に控えている僕に剣を投げた。
大きく弧を描いて飛んで来る剣を、僕は格好良く受け取ろうとしたのだけど。
「やっぱり怖い!」
回転して向かって来る剣に怯み身を躱した。
カラランと剣が転がり落ちている。
「グギャギャギャギャギャギャギャギャ!」
そして、またもあんな魔物に笑われてしまった。
直ぐ後悔させてやる。
「何してるのあんた、取れないなら格好つけるんじゃないわよ! もう返して!」
ファラさんが怒っているけど、今、返す訳には行かない。
「駄目です、今からやるんですから」
僕は落ちた剣を持ち。
「たああああ!」
剣の重量により、よろよろと走り始めた。
この剣を扱うには筋量が圧倒的に足りていない。
そんな僕を馬鹿にするように、カメレオンの舌が伸びて来ている。
まだ、距離は遠い。
ギリギリ肩に攻撃を食らい、痛みを我慢しながら前に進む。
「無理しないでよ!」
「大丈夫!」
カメレオンの舌が巻き戻り、二撃目が発射された時、僕は力を発動させた。
必要なのは大きな力。
二十八の数値の内、二十を力へと回す。
「危ない!」
足りない速度を補う為に、五の数値を速さに回す。
伸びた舌の攻撃を無傷で躱し、僕はカメレオンの眼前に立った。
残りの数値はたったの三。
でも、後は剣を振り下ろすだけである。
その数値を使用秒数へと変え、最高の力をもって一気に剣を振り下ろした。
「グギャギャギャ、ギャア……!?」
カメレオンは、避けるまでもないと思っていたのだろう。
僕の一撃を真面に食らい、簡単に退治されてしまった。
クー・ライズ・ライト (僕)
ランズ・ライズ・ライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
ディーラ・ストライウス (ミトラの町のギルド員女)
デルメオ・ザック・デルタ(ミトラの町のギルド員男)




