プロローグという名の一話
さあ勇者よ、世界を救うんだ。
な~んてことは他人に任せ、今日もギルドで働くよ。
十六歳になったばかりの少年クー・ライズ・ライトはギルドに努める職員だ。
時には戦い時には逃げて、冒険に出たりでなかったり、仲間達と一緒にちょっぴりだけ危険な仕事をこなしている。
魔物の能力値を測ったり、新種発見ボーナスゲット。
ギルドは優良企業ですよ。
出現するスライムやゴブリンの攻撃。
オークの振るう棍棒の強さ。
オーガの放つ無慈悲な一撃。
王の部類だと言われるドラゴンの炎。
魔物を退治するのは冒険者か傭兵、国の兵士の仕事である。
だがそんな彼等でも、相手の力を知らなければ激戦は必至だ。
このアストライアという大陸において、魔物の力の数値化は命題だったという。
その魔物の体力は?
力は? 防御力は?
君は知っているだろうか、魔物に付けられた数値は、一体誰が測量しているのだろうかと。
それを行っているのは、モンスター測量士と呼ばれるギルド職員達だ。
僕、クー・ライズ・ライトはその職業につく職員で、今同僚のファラさんと一緒にベイビードラゴンの調査に来ていた。
「へー、あれがベイビードラゴンね、このサイズでも貫禄があるわね」
薄暗い洞窟の中、同僚のファラ・ステラ・ラビスさんが剣を構え、前に居るベイビードラゴンに狙いを絞る。
「ビビったかぃ嬢ちゃん、なんなら見学してても良いんだぜ?」
この人はデッドロック・ブラッドバイドさんで、僕達が雇った冒険者だ。
鎌を持ってニヤリと笑い、ベイビードラゴンの隙をうかがっている。
「冗談言わないで、やるに決まってるでしょ」
「二人共頑張ってください、僕は見学していますね」
その二人のやり取りを見守り、あんまりやる気を出さないのが僕だ。
相手はベイビーだとはいえドラゴンだ。
その危険性は推して知るしかない。
で、それを推し量るべく行動しているのがギルドに所属している僕とファラさん、もう一人は雇った冒険者のデッドロックさんだ。
僕としてはドラゴンなんて相手にもしたくないけれど、これも大切な仕事の内である。
「さあ行くわよ!」
ファラさんが声をかけると。
「おうよ、うおおおおおおおらああああ!」
二人が飛び出して行く。
「じゃあ二人共、行ってらっしゃーい」
僕はそれを見まもり手を振った。
これからベイビードラゴンと戦うのだけど、少し前のことを振り返ってみよう。
ことの始まりは少し前、僕達の上司、スラー・ミスト・レインさんに呼び出され。
「君達、ちょっと北の町に行って来てください。こちらの手を借りたいそうなんですよね」
何て言われてしまったからだ。
ちなみに見た目三十ぐらいの細身のおじさんだ。
かけたメガネを指で押し上げ、僕達に指示している。
「あの、今日魔道具の安売りがやってるんで断りたいんですけど」
「ハッハッハ、変なことは言わないでくださいねライズ・ライト君、死ぬ気ですか?」
スラーさんの目が笑っていない。
「いえ、冗談です。やらせて貰います!」
「ならいいのですよ」
もちろんギルド員である僕達はそれを引き受けた。
で、ギルドの倉庫で色々用意を済ませた僕達は。
「スラーさん、たぶん泊りになると思いますんで、明日の出勤も付けといてくださいよ。帰らなかったらその次の日もお願いします」
「スラーさん、私の分も忘れないでくださいね」
報告して出発しようとしていた。
「はいはい、気を付けて行って来てね。途中で死ぬんじゃないですよ」
「ああはい……なるべく気を付けます」
僕は変なことが起こらないようにと祈っておいた。
不吉な事を言わないで欲しいけど、それが仕方ないほどに、この仕事は危険がつきものなのだ。
もちろん必要なら魔物とも戦ったりしなきゃならないし、冒険者以上に気をつけなきゃいけない事は山ほどあるのである。
「じゃあ行って来ます、スラーさん」
僕はギルドの入り口に立ち、手を振って挨拶した。
同じようにファラさんも。
「行って来るわねスラーさん。留守はよろしく」
軽く手を振って扉を開ける。
「行ってらっしゃい」
僕達がギルドから出ると、ローゼリアの町並みが見えて来た。
町並みは美しく、完璧な左右対称で構成されている。
町の中心にある大きな教会から八本の道が伸び、建物の色でさえ統一されていた。
きっと上空から見たら美しいんだろうけど、今の所それを出来る法術や魔法の類は発見されていない。
何時かそういうのも出来るのだろうと期待したい所だ。
「え~っと、今日はここから北のミトラの町にまで出張ですね。じゃあ気を付けて行くとしましょうか」
僕達は町の入り口に向かい、歩きながら話をしている。
「遠いのよねぇ、出来れば馬でも使いたいわ」
「馬って経費で落ちないんですよね。自費で落とさなきゃいけないんで赤字になっちゃいますよ。もし逃がしちゃったり死なせちゃったりしたら借金まみれですね」
「ふぅ、世知辛いわね。じゃあ歩くとしますか」
「そうですね」
北の町は案外近いけど、徒歩だと八時間はかかる。
移動だけで一日使ってしまうのだが、移動中にも色々と仕事があるのだ。
一番美味しいのは新種の発見で、一つ発見する毎にボーナスが貰えたりする。
敵の攻撃手段や弱点を調べられれば尚いいし、持ち帰れば更にドーンと金額が跳ね上がる。
そして、発見者が魔物の名前をつけたりも出来るのだ。
稀に変な名前の魔物が居るのはその為である。
毎日見回ったりしているし冒険者にもその権利があるから、そんな簡単には見つからない。
でもこの日は運があったらしい。
北の町に向かう途中で、ファラさんが何かをみつけたようだ。
「ク―、あれを見て! あれ絶対新種よ、だって頭に角がついたスライムなんて見た事ないもの!」
ファラさんが遠くにいるスライムを指さしている。
「ええッ?!」
新種、つまりボーナス。
その方向には、ファーが言った通りに、真っ直ぐの角が生えたスライムが動いている。
目や口も無いからよく分からないけど、たぶんスライムの額の部分についているのだろう。
長さは五十センチで、腹にでも突き刺されば簡単に死ねそうな物だ。
体の大きさは結構大きく、縦横共に一メートルぐらいだ。
角が生えているとは、スライムの定義を覆しそうな奴である。
「えっと、どうしましょうか。戦ってみます?」
「そんなのあったり前じゃない! ボーナスよボーナス、やらなきゃ損よ!」
ファラさんが張り切っている。
新種なうえにあまり強く無さそうな奴だ。
殆どの数値を測ってしまえば後々楽になる。
そしてお金が入り二度おいしい。
「じゃあちょっと待ってください。映し鏡の魔法でその姿を撮影しますから。攻撃するならそれからお願いします」
「じゃあ任せたわ」
「任されました」
映し鏡の魔法とは、魔物の姿をボードの内に保存する魔法だ。
一般には出回っていないギルド専門の魔法である。
「映し鏡よ、彼の姿を写したまえ」
そう言って白いボードを持って、スライムを見つめた。
僕の見たその姿が、白いボードに色付きで現れる。
ちなみに、これをしないと不味いことになってしまう。
倒してしまうと水分になり、それが居たのか証明できなくなるからだ。
「よし、大丈夫です」
僕はボードにしっかり写ったスライムを確認した。
「じゃあ戦ってもいいですよ」
「オッケー、まずは斬撃からね」
ファラさんは短剣を抜き走って行く。
「ファラさん、気を付けてくださいね」
「知ってる!」
彼女は腰に立派な剣があるのに、わざわざ短い短剣を持ち出し、そのスライムに斬り掛かる。
相手の動きを見極めながら、ヒュンヒュンとスライムの体を切り刻んだ。
しかしそれは体の中を通り過ぎるだけで、ダメージがあるようには見えてはいない。
「う~ん、斬撃耐性とりあえず十ね。次は刺突いってみましょうか」
同じように突いたりしているが、効果は薄い。
今度は短剣を持ったまま殴り掛かる。
するとスライムの体はパンと弾けて表面が飛び散った。
こうして敵の能力値を測って行くのだが、敵も反撃してくるので、実力差がないと結構辛い。
敵の攻撃を一度受けたりもしないといけないからである。
まあ、あんな角の一撃を食らえば死にかねないから、予想値で数値をつけるのだけど。
「ク―、私にばかりやらせてないで貴方ちょっと受けて見なさい」
ファラさんは僕に無茶ぶりをかましてくる。
「えええ、ちょっと怖いんですけど。このぐらいだったら予想値でいけますよね?」
「ダメよ、ちゃんとした数値を測るのが私達の仕事でしょ。冒険者さん達の為にも、人々の為にも行ってらっしゃい」
戦力調査部は危険が付きまとう仕事だ。
これも仕方ないことだ。
「分かりました分かりました。じゃあちょっと待ってください。今道具を取り出しますから」
僕はゴソゴソと荷物の中から四角いキューブを取り出した。
正方形に切り出された、高さ五十センチのタダの木材なのだ。
しかし特殊な加工がしてあり、丈夫で尚且つ普通の木よりも断然軽い。
これに敵の攻撃を受け止め、その深さや長さで数値を測るのが正道というものである。
その取り出したキューブを、角スライム(仮)の前に構えた。
「さあ来い!」
それに応じるように角スライム(仮)も体を沈ませ勢いをつけている。
バンと跳び出し、長い角が僕の体の中心向かって来ていた。
体に刺さったら死ねるだろう。
「こわ!」
敵を見ながら角の先にキューブを合わせると、角がそれに突き刺さった。
その衝撃で僕は後へ吹き飛ばされてしまう。
「いった~……」
角スライム(仮)は、自分の角に刺さったキューブを嫌がり、暴れている。
その刺さり具合を見てファラさんが数値を判断していた。
「数値は……六十五か、案外高いわ。でも鉄の盾なら防げそうだわね」
「お~い、僕の方の心配はしてくれないのですか?」
「そのぐらい平気でしょ。じゃあ大体の数値は取ったし、倒しちゃうわね」
手を貸して欲しかったのに、僕は普通に一人で立ち上がった。
「そうですか? じゃあ任せますね」
僕はファラさんに後の処理を任せ、戦いを見学することにした。
「あんた偶には働きなさいよ」
「いやでも前衛って大変じゃないですか?」
「あっそ!」
ファラは自分の愛剣を持ち出し、剣の腹で思いっきり叩きつけた。
パンとスライムの体の一部が弾け、何度も繰り返すと完全な水に変わってしまう。
体力値もそこまで高いものじゃないらしい。
「ふう終わった」
「お疲れ様ですファラさん、スライムは……おっと角だけは残りましたね。じゃあこれは持ち帰るって事で」
僕はホーンスライムの角をリュックにしまい、その数値を紙に書き込んでいく。
名前 :ホーンスライム
:最初に発見したファラが名付けた。
レベル:15
:レベルは100までで、数値が上がる事に強い。
冒険者が一人で倒せる数値として設定されている。
HP :40
:これが一番悩むのだ。
戦った者の主観でしかないから、殆どがだいたいの数値なのである。
MP :0
:いわゆる魔力値で声を発する事が出来なければ基本0だ。
力 :65
:力の数値は1000までで、人の一班男性の数値が50で設定されている。
キューブで計ったものがこの値になる。
速 :35
:速さの数値も力と一緒で、上限は1000。
大 :100
:数はセンチで測られる。
危険度:2
:全体的な魔物の危険性である。数値は10段階で、危険度3で遭遇したら一般人が死ぬレベルだ。
技 :角による突進。
:相手が使う技名で、基本分かりやすい名前が良いとされる。
考察 :角以外に注意する点は特になし。
真面に食らうと危ないので、ちゃんと見て対処すれば大丈夫。
:大体の特徴や思ったことを書かれることが多い。
極稀に経験値の上限が物凄く高いレベルのものが居たりするのは、滅多に出会えずその体や毛皮がとても貴重なものだったりすると付けられる事がある。
もちろんそれで実戦経験を積める訳じゃないので、その分ギルドの支援を受けられたり、特別訓練を受けられたりして、その数値分を補って貰える。
周りに回復魔術師数十人を派遣し、絶対に死なない状態で強敵との経験を積ませてくれたりとか色々だ。
じつは他にも運とかよく分からない項目やら、レベルアップする為の経験値を決めなければならないのだが、数値は本当に適当につけられている。
最近では二つのダイスで決めちゃうのが決まりだ。
経験値とは、冒険者の人達のレベルを決めるのに必要なものなのだが、同じぐらいのレベルの魔物の情報から決めちゃうのが一般的である。
ちなみにこの数値の決め方は、大体が主観でしかない。
基本のこの情報を各地に送り、この魔物に出会った者達の情報が集まる。
で、使う技が増えたりして修正されたりしていくのだ。
稀に地域で使わない技とかもあるので注意が必要だけれど。
「ふう、終わりましたよ」
色々な数値をやっとのことで資料に書き込んだ僕は、それをリュックにしまいこんだ。
「じゃあボーナス確定したってことで、北の町に移動しましょうか」
ファラさんは剣を鞘に納め、移動の指示をしている。
「そうですね。じゃあ出発しましょうか」
ボーナス確定の僕達は、うきうき気分で北の町へと進むのだった。
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ゲームやファンタジーの世界において、魔物の数値は誰が決めているのか。