父さんとお父さん
馬を飛ばしてルーフィスの村に到着した僕と父さん。
夜までは時間が有ると、父さんは酒を飲みに行ってしまう。
僕は近くのレストランに移動するが、その中には女の子が一人だけ留守番していた。
しかし何故か僕を魔物と勘違いし、女の子が襲い掛かって来る。
僕は必死に説得して服を脱ぐが、女の子が馬乗りになり、一発殴られていた。
そんな時、女の子の父親が帰って来ていた。
これで状況が変わるかと考えたけど、裸同然の僕の上に娘が乗ってるのが我慢できなかったらしい。
その父親が娘を退けて、僕に襲い掛かろうとしていた。
しかし何とか脱出した僕は、服だけを持って店の外へ逃げ出した。
レストランから追い出されて三時間ぐらい経った頃。
僕のお父さんが全然戻って来ないのはどうでもいいけど、こっちのお父さんはそろそろ落ち着いて僕のことを聞いたんじゃないだろうか。
そう思ったから、レストランの扉を鈴が鳴らないようにゆっくり開けてみた。
「お父さん、何度も何度も煩いんだけど。そろそろ黙らないと私も怒るわよ」
「そんな訳にはいかない! ファラはまだ子供なんだ。男にまたがるなんてそんな事は許されない! そういうことはあと三十年ぐらい経ってからやるべきだ!」
「なに言ってんの、そんなに時間が経ったら貰ってくれる相手が居なくなるじゃないの。お父さんと居たら一生結婚できなくなるし、もう家を出ようかしら」
「お父さんそんなことは許しませんよ! 死んだお母さんの為にもちゃんと成人して二十年ぐらい経つまでは絶対許しません!」
「ああ、ウザいわ……」
ファラさんは本当に嫌そうな顔をしている。
戻って来ないお父さんを心配していたのに、今ではもうその様子もない。
ファラさんは説教を気に長し、顔をそらすように僕の方を向いてしまう。
僕はファラさんと目が合ってしまい、レストランの扉をそっと閉めた。
慌てずにその場から距離をとって行くのだけど。
「ちょっと待ちなさい」
追って走って来たファラさんに肩を掴まれてしまった。
あの父親から逃げて来たのかもしれない。
「……えと、なんですか。さっきも言いましたけど僕は魔物じゃないんで、変なことはしないでください」
「分かってるわ。魔物にしたらあなた弱すぎるし、途中でうすうす気づいてたから」
「だったら殴らないでください。止めを刺そうとしないでください!」
「ふう、何時までも終わったことを言わないでちょうだい。誰だって間違いはあるでしょう」
「いやいや、ついさっきですよね? 分かっててやったんですよね?」
「そんなことより、ちょっと頼みを聞いてくれないかしら? ちょっと耳を貸してよ」
ファラさんは僕の耳を強引に掴んだ。
「あの、痛いんですけど」
「早くしてよ、お父さんが追って来るじゃない」
ファラさんは僕に顔を近づけている。
何かお父さんに聞かれたくない話でもあるのかもしれない。
「ファラ、待ちなさい! ハッ、やっぱりその男と何か関係が?! そこの奴、ファラに近づくな!」
ファラさんのお父さんが、怒ってこちらに向かって来る。
でも僕は耳を引っ張られ、この場で動けずに居た。
ファラさんが僕の頭を強引に下げると、おもむろに……。
『ドキューン!』という感じのキスが唇に捧げられた。
「ファラアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
突然のキスに硬直してしまった僕と、そして強烈に叫び始めるファラさんのお父さん。
何故いきなり僕にキスなんて……。
まさかさっきのやり取りで僕に気が?!
……どう考えてもあり得ない。
「ふぅ……さっきのお詫び。それとちょっと手伝ってもらうから」
よく分からないけど、僕は何かを手伝わされるらしい。
それではお詫びになっていないのでは?
そう考えていると、あり得ない言葉がファラさんの口から飛び出した。
「私、この人の子供を身ごもっているの! だから結婚する為に町を出るわ!」
ファラさんはお腹をポンポン叩いている。
「ハァッ?!」
訳の分からない言葉に驚く僕。
「な、なんだとおおおおおおおおおおおおおおおお……」
ファラさんのお父さんからは、頭に血が上ったのか白目をむいて倒れてしまった。
もうなにか魔物のことなんてスッカリ頭から抜け出ているのかもしれない。
「ねぇあなた、ちょっとお父さんを店の中に運ぶから手伝って」
「えっ、あ、え?」
「早くしてよ」
「は、はい!」
あまりのことに訳が分からなくなっていた僕は、何故か素直にファラさんの言うことを聞いてしまう。
恋なんて無縁だった僕は、キスの一つだけで今までのことなんて全部忘れていたのだ。
そして僕とファラさんは、倒れたお父さんをレストランの中に運び入れた。
「あの、ファラさん、ですよね? 自己紹介してなかったけど、僕クー・ライズ・ライトって言います。えっと、えっと、えっと、えっと……できれば恋人からでお願いします」
「はぁ? 何であんな嘘を信じるのよ。さっきのなんて冗談に決まってるでしょ。私のお腹に子供なんていないし、あれは家を出る為の口実よ!」
「いやまあそうなんですけど。……そうですよね、考えればそうですよね」
今日出会っていきなり子供が生まれるなんてことは無いと子供の僕でも知っていることだ。
「それでクーだっけ? あんたが本当に魔物を倒す為に来たなら冒険者ってことよね? 私それになりたいの、どうやってなったらいいの?」
「えっ、冒険者ですか? ギルドに登録すればなれないことはないですけど、もう少し大人になってからでもいいんじゃないですか?」
「何言ってるの、クーに出来るのなら今の私でも軽く一番になれちゃうわよ。それでこの村の魔物も軽く退治してやるんだからね。で、そのギルドってのは一体どこにあるの?」
「え~っと、たぶん王都か町になら大体あるんじゃないですかね?」
「あっそ、じゃあ行くわよ。私を連れて行きなさい!」
ファラさんは僕の手を引っ張っている。
ギルドまで連れて行かせる気なのだろう。
「いやいや僕が魔物を倒しに来たんですから、ファラさんがやらなくても大丈夫です。僕の父さんも手伝ってくれるし」
僕は足を踏ん張ってファラさんを説得している。
「あんたのお父さんがどのぐらい強いか知らないけど、クー、あんたには無理よ」
「そんなことはないですよ! 僕は魔物とかいっぱい倒しましたし、相当強くなったんですよ!」
「でもどうせお父さんに手伝って貰ったんでしょ?」
「うっ……確かにそうですけど、本当に強いんですよ? じゃあ見ていてください。この僕の雄姿を!」
僕は置いてあったリュックから鉄棒を取り、軽い演舞を披露する。
「たあ! はっ! とりゃあ! ってああ?!」
目の前でクルクルと鉄棒回し、薙ぎ払ってみせたり突きのポーズをしてみた。
僕は良いところを見せようとしたのだけど、その途中、回している鉄棒をファラさんにパシッと奪われた。
「そのぐらい私でも出来るし」
そう言ったファラさんは、僕よりも手慣れた動きで演舞を始めた。
冒険者になりたいと言っていただけあって、努力を積み重ねて来たのだろう
「ほら、私の方が上手いわ。じゃあ連れて行きなさいよ」
でも冒険者にもなっていない女の子に負けるなんて、測量士って一体どんな職強なんだろうか?
父さんなら知ってるかもしれないから後で聞いてみよう。
「だから駄目ですって。ここで父さんを待ってるんですから」
「あっそう、だったら私も待たせてもらうわ。その方が手っ取り早そうだし」
「父さんが良いって言うかは知りませんからね」
「大丈夫よ。その時はクーにされた責任を取ってもらうって言うし」
「やめてくださいお願いします。本当に絶対やめてください」
僕はファラさんに懇願し、説得を終えると、父さんが来るのを待つことになった。
因みに、こっちのお父さんはまだ目が覚めていない。
そんなにショックだったんだろうか?
「じゃあこれでも飲んでなさい」
僕はファラさんからオレンジジュースを受け取った。
「あ、はい、ありがとうございます」
「じゃあ五百デリーね」
「えっ、払わなきゃ駄目なんですか?!」
「ここはレストランだし当然じゃないの」
「そーですねー……」
僕は置いてあったリュックからお金を取り出し、ファラさんに渡した。
そして適当に話しながら待っていると、案外早く父さんがやって来たようだ。
店の外からは父さんの声が聞こえてきている。
「いよう、待たせたなクー! おっ父さん、すんごくご機嫌だぞお! 魔物なんて片腕で倒して見せるぞぉ。ヌワッハッハッー!」
やはり酔っぱらっているらしく、顔が赤くなっていて相当酒臭い。
浴びるほど飲んで来たのだろう。
そんな父さんの前に、ファラさんがお願いをしようと前に出て行く。
「あなたがクーのお父さんね? お願い、私をギルドに連れてって!」
「ほう、こんな立派な彼女をひっかけるとは、やるじゃないかクー! つまりお嬢ちゃんはクーの相棒になりたいんだな? よし良いだろう! 立派な冒険者に仕立ててやるぞ。この俺に任せておけ。ヌワッハッハッー!」
酔っぱらった父さんは、ファラさんの頼みを簡単に引き受けてしまった。
きっと反対しても付いて来る気だろう。
近くで寝ているファラさんのお父さんにどう言い訳をしようか……。
クー・ライズ・ライト (僕)
ランズ・ライズライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
ディーラ・ストライウス (ミトラの町のギルド員女)
デルメオ・ザック・デルタ(ミトラの町のギルド員男)




