ファラさんとの出会い
食料が尽きそうで、僕はファラさんに食事をお願いに行っていた。
しかし嫌だと言われて扉を閉められてしまう。
昔はもう少し優しかったんじゃないかと思い返し、出会った時を振り返る。
あれは確か三年前、父さんと始めて冒険者の職業を得た僕は、魔物と戦ってレベルを上げたのだ。
レベル七となった日、僕と父さんはスラーさんから依頼を受けた。
僕達はローザリアから馬車で移動し、ラザリアンクの王都に着くと、馬を借りて更に西へ移動して行く。
移動中に出て来る魔物は馬で飛び越え踏み潰し、目的であった村へ到着した。
もちろん僕は、父さんの背にしがみ付いてただけである。
馬には乗れないし。
ここはルーフィスと呼ばれる村だ。
スラーさんが言っていた狂暴な魔物が出る村。
魔物は夜にしか出ないと聞かされたけど、昼間でも村人達は外には出ていない。
「ふむぅ、来たはいいがどうしようか? 魔物は夜まで出ないらしいし、外で永久に待ちたくはない。俺はちょっと飲み屋でも探したいなぁ。……クー、お前ちょっと金やるからそこの店で待っててくれ」
「ん?」
「あそこが依頼を出したランズさんのお宅だそうだ。レストランみたいだし丁度良いだろう」
僕は父さんが指さした先に振り向くと、そこには小さなレストランが建っている。
少し古い建物だけど、長く続いているなら料理も期待していいだろう。
そのレストランの扉からは、僕と同じぐらいの女の子がこちらを覗いていた。
長い金髪を後に縛った女の子で、青い目をギンと上げて、僕達に睨みをきかせている。
知らない僕達に随分警戒しているみたいだ。
僕一人であそこに行くのは少し勇気がいる。
「父さん、あそこでもお酒が出るんじゃないの?」
父さんにそれとなく頼んだのだけど。
「クー、良く聞け、子供連れで飲む酒より一人で飲む酒の方が楽しいんだ。まあお前はあの子と仲良くしてやれ。もしかしたらいい感じになるかもしれないぞ?」
「う~ん、そうかな~? あんまりそういう風にはみえないけど。でも分かったよ。夜までには帰って来てよね」
「俺がお前のことを忘れる訳がないだろう。安心しろ、ちょっと飲んだらすぐに戻って来てやるからな。ヌワッハッハー!」
因みに、そのセリフを聞いて帰って来たのが一ヶ月後とか、そんなことも稀にあったりする。
でも今の僕は気にしてはいなかった。
「じゃあ行ってみようかな」
僕のレベルも七となり、大人にも負けないぐらいの強さを手に入れているからだ。
もし魔物が出て来たとしても、自分一人でも余裕だと思っていた。
「んじゃ、また後でなクー」
「いってらっしゃい」
僕は父さんと別れてレストランの前に移動すると、先ほどまでこちらを見ていた女の子が居なくなっていた。
もう僕に興味を失ったのだろうと、構わず前の扉を開く。
僕が来たことを知らせるように、扉に付けられた鈴がカランと鳴った。
「こんにちは、何か食べさせてください」
声を出したけど、誰の返事も帰って来ない。
店の中にはテーブルと椅子がある。
あとカウンター席も。
当たり前なのだけど、それ以外は見つからなかった。
客や店主も見つからず、さっき見た女の子の姿も確認できない。
出れる様な扉もないし、この中に居るのは間違いないのだけど?
「え~っと、誰も居ないんですか?」
さっきより大きな声をあげると、ガタっとカウンターの裏から音がしている。
あそこに隠れているのだろう。
僕はその場所を覗き込み確認するのだけど。
「てええええい!」
先ほどの長い金髪の女の子が、僕の頬を思いっきり引っぱたいた。
「痛い!」
そして僕から距離をとって、握り拳を構えている。
可愛い子だし、友達になれたらいいと思うのだけど、これじゃあちょっとダメかもしれない。
「何で僕を叩くの!?」
「あんたが魔物でしょ! 私には分かっているのよ!」
なぜか僕を魔物だと思っているようだ。
どこをどう見れば魔物に見えるのだろうか?
この村に出る魔物は確か……。
あれ、そういえばどんな魔物が出て来るのか聞いていない。
父さんなら知っているだろうか?
「僕は魔物じゃないよ。ほら、どう見ても人間でしょ?」
僕は手を広げて無害なのをアピールしたのだけど。
「信用できないわね。まずその武器を置きなさいよ」
女の子は警戒を解かずに僕に命令して来た。
もしかしたら、リュックからはみ出ている鉄棒が怖いのかもしれない。
背負ったリュックを店のテーブルに置いて、もう一度話しかけてみた。
「これでいいかな? ほら、もう何も持ってないよ」
「そう、でもまだ信用できないわね。信用して欲しいのなら着ている服を全部脱ぎなさい! 一応パンツだけはゆるしてあげるわ!」
「えええ?!」
「早くしなさいよ!」
「わ、わかったよ……」
父さんにはここで待てと言われているし、僕は渋々ながら服を脱いだ。
女の子の前で少し恥ずかしいけど、他に誰も居ないから良しとしよう。
「ほら、もうなんにも持ってないし怖くないよ。ねっ、大丈夫でしょ?」
僕はパンツ一丁となって、女の子に話しかけたのだけど。
「……変態!」
「君が脱がせたんだよねぇ?!」
「まあ良いわ。あなたは私の家に何しに来たの?!」
女の子は拳を構えたままだけど、少しは気を許してくれたのだろう。
「えっと、君のお父さんから依頼されたんだ。僕の父さんと一緒に助けに来たんだよ」
「やっぱり嘘つき! あんたみたいな子供が出来る訳ないでしょ!」
子供の僕を信用してくれないようだ。
シュッシュとパンチを撃ちだし威嚇している。
でも本当の事なのだから仕方ない。
「え、本当だよ。僕本当にギルドから依頼を受けたんだから」
「本当なら私のお父さんも一緒にいるはずよ。お父さんはどこ!」
「ごめん、わかんないや。僕のお父さんなら知ってるかもしれないけど……」
「そっか……やっぱり敵なのね! たあああああああ!」
「うわあああああああ!」
僕は女の子にこぶしで襲い掛かられた。
パンツ一丁になってしまった僕なら勝てると思ったのだろう。
しかし僕もレベルが上がって強くなっているのだ。
今なら大人にだって負けないのである。
だから僕は軽く押さえつけて話しを聞かせようとするのだけど。
「うぎゃ」
軽く足を引っかけられ、僕の方が引き倒されてしまった。
サッと女の子が僕の上に馬乗りになり、握った拳を振り上げている。
「魔物め、止めを刺してあげるわ!」
「ちょっと落ち着いて、そんな攻撃僕には効かな……ふぐあ!」
女の子に一発殴られたその時、僕は気付いてしまった。
測量士としてレベルを上げたのに、なぜか全然強くなってないことを。
大人に勝てるとか思い上がっていた僕は、現実を知ってしまったのだ。
「あれ……僕強くなってないんじゃないの!? 調子に乗ってごめんなさああああい!」
「問答無用よ!」
しかし二発目の攻撃が来る前に、レストランの扉がカランと鳴った。
僕が振り向くと、そこには口髭をたくわえた、四十代ぐらいの細身男が見えた。
「ファラ、ただいま帰ったよ」
「あ、お父さん?」
もしかしたら僕の父さんが、と思ったけど違ったらしい。
でもどうやらこの子の父親らしいし、この人がフェイ・ステラ・ラビスなのだろう。
これで僕も助かるかもしれない。
しかし。
「……おい貴様、うちのファラちゃんに一体何をしてくれている……」
扉の前にたたずむファラさんの父親から、まるで暗殺者のような殺気が見える。
一体なぜだと考えをめぐらせると、自分がパンツ一丁で女の子に乗られているのだと思い出した。
確かに父親が見たなら勘違いしてもおかしくないけど、僕にとっては全然嬉しくはない。
「ちょっと待ってくださいお父さん、僕は別になにも……」
「誰がお父さんじゃあああああああああ! そこを退いてファラちゃあああああん! そいつ殺すからああああああああ!」
フェイさんは血涙を流しながら、女の子を引きはがしにかかった。
「落ち着いてお父さん、私は魔物を倒そうとしてただけで……」
「ファラちゃん、こいつをぶっ殺してからちゃんとお話をしようね?」
「あの、ちょっと、僕の話を聞いてください」
「問答無用! 死ねええええええええええええ!」
このままファラという女の子が退かされれば、必然的に僕へと襲い掛かって来るのだろう。
「い、今しかない!」
しかし僕は、女の子が退かされている間に何とか脱出し、畳んでいた服だけを持って店から逃げだした。
「ファラちゃんは渡さんぞおおおおおおおおおおお!」
店の中からは、そんなフェイの声が聞こえて来る。
なんとか逃げ出せたのはいいけど、リュックを置いて来てしまった。
あの中には財布とか色々入っているのだけど……。
あの二人が話し合って、もう少し落ち着きを取り戻してから行くしかないだろう。
クー・ライズ・ライト (僕)
ランズ・ライズライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
ディーラ・ストライウス (ミトラの町のギルド員女)
デルメオ・ザック・デルタ(ミトラの町のギルド員男)




