凶暴化するツキコさん
掃除を終えてアーリアさんが帰り、僕達はギルドの中に泊まることになった。
軽く眠って朝、受付の男の人に仕事の話を聞いたのだけど、どうにも信用できない内容だった。
デッドロックさんに確認するがやっぱりちょっとズレていた。
僕達はデッドロックさんを信用し、その場所に向かったのだった。
「つああああああああああああああ! ……はぁ、はぁ」
ツキコさんは、ザンと魔物を切り裂いた。
町を出てからも落ち着きは投げ捨てられ、随分凶暴さが増している。
まあ悪党ではあるのだけど、野盗さん達の命が危ういかもしれない。
「大丈夫ですかツキコさん。まあ水でも飲んでください」
僕はツキコさんに水筒を手渡して飲ませるのだけど。
「馬鹿やろおおおおおおおおおおお!」
また敵を見つけて突っ込んで行く。
これが新種だったら止めないといけないが、まあ相手はただのゴブリンだし心配はないだろう。
「ツキコの奴、随分張り切ってんな。こりゃあ俺もうかうかしてらんねぇかもな」
「いやいや、主にデッドロックさんのせいで暴走してるんじゃないですか。謝ってあげたらどうなんです」
「青春の暴走って奴だろう。たまにはいいんじゃないのか? それより、そろそろ廃村が見えるはずだぜ」
「ああ、見えたわ。あれね?」
「あ、はい、僕も見えました」
ファラさんがその廃村を見つけたようだ。
近づいて行くと、その村からは煙が上がっているように見える。
情報通りなら野盗が住み着いているのだろう。
信用できるか微妙なのだけど。
「んじゃあどうするよ? 俺としては正面突破がお勧めなんだが?」
「しぎゃああああああああ!」
「ツキコも随分やる気みたいだぞ?」
デッドロックさんと獣と化したツキコさんは、正面突破が好みらしい。
しかし僕はそんな流れには乗りたくない。
「嫌です。やるにしても僕の準備を終えてからです」
「そうよね、クーは準備しないと何にも出来ないもんね」
「そういう職業なんですから仕方ないでしょう。文句があるのならこの職業を作ったギルド本部に言ってください」
「別に文句はないわよ。クーは充分役に立ってるからね。じゃあまず村の外に結界を造りに行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
ということで僕達は村にはひっそりと近づき、周囲の状況を探りながら八本の鉄棒を八方向に突き刺した。
「ふう、これで八本。もう充分ですね」
ここからだと遠すぎて結界の力は発動しないけど、村の中心に鉄棒を立てれば結界は動き出す。
そうなれば四つの巨大な結界が出来上がるのだ。
「向うの状況も大体知れたわね」
そして僕達は、廃村から離れた高所で隠れながら村の中を覗いている。
これで準備は整い状況も知れた。
村の中は殆どの家が潰れてしまっているが、三か所だけ家が潰れずに残っている。
「なんかのんびりメシ食ってるな。俺達もメシ食っとくか?」
その家の中の一か所で、四人の男達が外でバーベキューを行っていた。
一応四人居ることは確定だ。
他にも居るのかも知れないが、今の所は見当たらない。
ここからでは話し声は聞こえないけど、四人は楽し気に会話を弾ませ、とても仲が良さそうに見える。
あれが野盗でさえなければ参加でもしたい所だけど、残念ながらそうもいかない。
まあ野盗自体はどうでもいい。
飼っているという魔物の方が本命だ。
と、その前に、僕達の腹を満たすのも悪くないだろう。
「そうですね、先に食事をしておきましょうか。万が一、戦いが長引くかもしれませんからね」
「があああああああああああ!」
「ツキコさん,、お握りをあげますから落ち着いてください。あ、これ水です」
僕はリュックから持って来たお握りと水筒を取り出した。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……んぐ」
ツキコさんはパシッと僕の手からお握りを奪い、モグモグと食べている。
少しだけ落ち着いたようだ。
これで元に戻ってくれるといいんだけど。
「じゃあ私達も食べましょうか」
「はい」
「おうよ」
僕達は腹を満たして少しだけ休憩をとり、準備万端の状態だ。
コッソリと廃村に近づき、ヒッソリと村の中へ進入して行く。
どうも簡単すぎる気がするけれど、組織化もされていない野盗なんてこんなものだろうか?
「まず潰れていない家を見に行ってみましょうか。そこで魔物が見つかれば野盗と戦う必要もないですし」
僕は三人に提案した。
「どうせ冒険者にやられるんだから、今俺達がやっちまってもいいんじゃないのか? その方が被害者も出なくて済むだろ?」
「駄目よ。私達はあくまでも裏方なんだから、美味しいところは冒険者に残せばいいの。もし冒険者に戻りたいなら止めないわよ?」
「まさか、今はこっちの方が楽しいんだぜ。そこそこ安全だし経験も積めるしな。なあツキコ」
「しゃあああああああああ!」
ツキコさんはデッドロックさんを威嚇している。
もう相当嫌われてしまっているらしい。
振ったのだから当然か。
でもそろそろ人間の理性を取り戻して欲しいんだけど。
「そろそろ行きましょう。あんまり騒いでいると見つかっちゃいますから」
「だな」
僕は一つ目の民家へ移動し、あの四人に気付かれないように窓から中を覗いてみる。
「くさあああッ!」
不意に来た異常な臭さに、僕は思わず声を発してしまった。
鼻を押さえて顔を逸らすが、本当に居るのかどうか確認しなければならない。
しかし。
「何だ、誰か居るのか?! クッ、追っ手か……武器だ、武器を持ってこい!」
「へいおやびん!」
「わかりました棟梁!」
「了解ですボス!」
遠くから野盗四人の声が聞こえて来る。
僕がやらかしてしまったらしい。
「おい坊主、奴等に気付かれたぞ!」
デッドロックさんからそう警告が発せられた。
「ごめんなさい」
僕はその場で謝るが。
「謝ってる暇があるなら戦闘準備しなさい。ツキコさん、殺したら駄目だからね」
「は、はい!」
「ううううううう、知ってる……」
ツキコさんが言葉を話した!
元に戻ってくれたらしい。
良かったと喜ぶのは後回しにして、今は戦いの準備に専念しなければ。
「よいしょ」
僕はこの場所に、一本の鉄棒を突き立てた。
この場所だと結界一つが限界だろう。
だからといって造らないわけにはいかないのだ。
僕にとっては有ると無いでは雲泥の差であるのだから。
「僕はちょっと魔物の観察をしますから、野盗の対応はまかせますね」
「ただの野盗に三人も要らないわよ。私一人でも充分ね」
「言うじゃねぇか。俺だってそのぐらいは出来るんだぜ。倒すんなら楽勝よ」
「えものおおおおおおおおおお!」
ちょっとツキコさんが心配だけど、野盗の対応は三人に任せ、僕はもう一度民家の中を覗き込んだ。
でも。
「なっ!」
民家の中から、目的の魔物が僕の方を見つめていた。
出現したのは馬の形状をした犬、なのかこれは?
資料の通り馬の様な体型で、顔はマルチーズという犬種に似ている。
モコモコした体毛は羊のようだ。
これは何となくアルパカという動物に似ているけど、段違いに体格が大きい。
五メートルどころか、八メートルはありそうだ。
どうやってこんなものを入れたのだろうとよく見ると、入り口が改造されていて、大きく上に開く構造になっている。
一応人に飼われているし、危険じゃないかも?
僕はそう考えたのだけど、魔物は頭を窓に向かって力強く振り下ろす。
「どわああああああ?!」
その衝撃で窓と壁は爆散し、魔物の巨体が建物の中から出て来てしまった。
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アーリア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミア (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
ディーラ・ストライウス (ミトラの町のギルド員女)
デルメオ・ザック・デルタ(ミトラの町のギルド員男)




