このままでは野盗の命が危うい
馬を使って早めにギルドに到着したのだけど、デッドロックさんとディーラさんの接触により、ツキコさんがキレそうになっていた。
僕は止めようとするのだけど、無理だったらしい。
そんなツキコさんを止めようと、僕はファラさんにお金を渡して止めさせようとした。
だけどそれは新な混乱を生んでしまう。
休みを使いこのギルドに偵察に来ていたアーリアさんが、参戦してしまったのだ。
混乱は混乱を生み、受付のディーラさんまでも戦いに躍り出た。
その混乱も、デッドロックさんの一言で収束してしまう。
アーリアさんは明日仕事だからととっとと帰ってしまい、まだ泊まる所さえ決めてない事に気付いた僕達は、結局ギルドの中に泊まることになった。
僕は長椅子の上で寝転がり、他の人達も自分が眠り易そうな場所で寝っ転がっている。
デッドロックさんなんかはディーラさんが居た受付カウンターの上で寝ていた。
もし落ちたら凄く痛そうだ。
まあでも、今から宿は取れないから、外で野宿するよりマシだろう。
グッスリとは言い難いが、きちんとした睡眠をとり、天気の良い朝が来た。
ギルドが開いた頃には準備も万端整って、あとは受付が開くのを待つばかりだ。
だんだんギルドの中に冒険者達が増え始めている。
ディーラさんの姿が見えると受付が開き、僕達は直ぐに話しかけようとしたのだけど、既に集まっていた冒険者達に先を越されてしまった。
このギルドでディーラさんは相当人気があるようで、次々と人が並んでゆく。
僕達は出遅れてしまったらしい。
どうやら昨日の騒ぎに懲りずに来ている冒険者達も多いようだ。
まあそんな簡単にやめるのなら冒険者なんか続けて行けないだろう。
しかし、この列に並んでいては何時仕事が始められるか分からない。
他の人に話しかけた方がいいだろう。
ちなみにだが、僕達はギルド職員ではあるけど、他の町のギルドの中には勝手に入ることはできない。
変なことをしてしまったら迷惑がかかってしまうからだ。
「ちょっとのんびりしすぎたか? ディーラに話しかけるタイミングを逃しちまったぜ」
「まあ仕方ないですよ。諦めて別の場所に並びましょう」
「あっちは開いているわよ」
ギルド受付の中でも、一か所だけ異様に空いている場所がある。
受付には男が立ち、たまに一人二人来る相手に対応していた。
「あそこか? 俺としたら話すのは女の方が良いんだけどな。仕事の為だ、泣く泣く行ってやるか。行くぞツキコ……うん?」
「…………」
デッドロックさんはツキコさんの居場所を探すが、僕達の近くには居ない。
僕達の数歩後に立ち、デッドロックさんから少し距離をとっていた。
昨日振られたことがショックだったのだろう。
「デッドロックさん、どうせディーラさんには相手にされてないんだから付き合ってあげればいいじゃありませんか」
「あのな、他人の恋愛に口を出すんじゃねぇよ。今俺が付き合ってやってもお情けぐらいにしかならねぇだろう。そんなんじゃツキコだって喜ばねぇぜ。それに俺とディーラは愛し合うことになってんだよ」
「どうでも良い妄想はそのぐらいにして、早く行くわよ」
「まてや嬢ちゃん、妄想じゃねぇよ。その内本当になるんだぜ?」
ファラさんとデッドロックさんは、開いている受付に向かって行く。
「行きましょうツキコさん、今は仕事ですよ。それに、ツキコさんは綺麗なので、えり好みしなければ直ぐ恋人も見つかるでしょうし」
「……まさか、アーリアだけでなくて私まで愛人にしようというのかクー・ライズ・ライト。私はお前のような、お前のような……うぅぅ」
何か勘違いさせてしまっているのかもしれない。
アーリアさんのような事になっても困るし、ハッキリ断るとしよう。
「いや、勘違いしないでください! 僕としては充分間に合っていますから。ツキコさんは是非他の人にどうぞ!」
今まで落ち込んでいたツキコさんの目が、ギンと僕へと向けられる。
「乙女の気持ちを踏みにじるなああああああ!」
「ぐっはぁぁぁ!」
一瞬後、怒りのもとに解き放たれたツキコさんの拳で、僕は空中に舞い上がっていた。
ツキコさんはかなりスッキリしたのか、肩をいからせながら受付へと向かって行く。
「な、何故……」
僕は何とか立ち直り、三人の居る受付に向かったのだけど、どうやらもう説明が始まっているようだ。
ディーラさんの件もあるし、先に男の名前も確認しておこう。
え~っと、デルメオ・ザック・デルタという名前らしい。
とにかく、その人の声に耳を傾けるとしよう。
「あ~、そっすねぇ~、このミトラの町から~、東の方に~、野盗の拠点があるらしいっすよぉ? あ~、人数は~……たぶん五人ぐらいじゃないっすかねぇ? 連れている魔物はぁ~、何かトカゲっぽいやつ? みたいっす?」
受付の男は、すっごい信用出来なさそうな喋り方をしている。
何故この受付だけが人気がない理由が分かった気がする。
ちなみに、僕だけではなくファラさん達も感じ取ったらしい。
「あのさ、それ本当なのよね? 資料があるのなら見せてくれる?」
ファラさんがデルメオに対して資料を見せろと言っていた。
「まあいっすけどね~、じゃあこれで~す」
デルメオがファラさんに資料を手渡し、皆がそれを覗いている。
僕も横からそれを見て、内容を確認した。
名前 :でっけー犬? 馬?
レベル:わっかんね。
HP :え~、9万ぐらい?
MP :0じゃね。
力 :500ぐらい?
速 :たぶん速いんじゃね。
大 :あ~、40以下? ぐらい?
危険度:1じゃね。
技 :踏まれたら痛いんじゃね~の?
考察 :聞いた話によると~、馬っぽいけど顔が犬っぽいって話。
まあ飼われてるらしいし、凶暴じゃないんじゃね?
え~っと、野盗に襲われた冒険者が言うには~、野盗は四人見たっぽい。
出現場所はミトラから東の廃村かもしれない。
「……こ、これは酷い」
僕が資料を見て最初に思ったのはそんな感想だった。
分からないなら零でもいいのに、適当に書いたとしか思えない数値が並べられている。
この資料の感じから、この受付のデルメオという男が担当していたのだろう。
そうじゃなきゃ別の人物が居ることになる。
まさかそんな人物がこのギルドに大量に居ると考えたくはない。
しかもさっき言ってた野盗の人数とも違うし、やっぱり零から調べ上げるしかないようだ。
「なんというか、酷いわね」
ファラさんも資料を見て呆れている。
「まあ馬っぽいってのは分かったんじゃねぇか? 魔物の危険度は低そうだぞ」
「野盗は殺す……フフッ……殺す!」
「いやいや殺しちゃダメですよツキコさん! 駄目ですからね! 僕達はあくまでも調査するだけですから」
ツキコさんからは強烈なやる気を感じる。
もっと気持ちをスッキリする為に暴れるつもりなのだろう。
「まあこん~んな感じなんで~、後は皆さんにまっかせま~す! じゃあハ~リキッテどうぞ~!」
そういって男は出口に手を向けている。
『…………』
顎の痛みが有るためか、何だか目の前の男を殴りたくなってきた。
いや気のせいだ、たぶん。
「……ふう、理性が残っている間に外にでましょう。このままじゃまた大変な事になっちゃうわ」
「若い奴等はそうかもな。まあ俺ぐらいになると多少は我慢できるぜ」
「……フゥ、フゥ、フゥゥゥゥ!」
ツキコさんからは荒い呼吸が聞こえてくる。
最早得物を狙う野生動物の目になっていた。
昨日も暴れてしまったし、今日また暴れる訳にはいかない。
「なんかツキコさんが危なそうなので急いで出ましょう」
「そうね、じゃあ行きましょう」
今回は我慢しようとギルドから脱出した。
外に出ると一応資料を見ながら、この町の冒険者だったデッドロックさんに確認をとる。
「デッドロックさん、この町の冒険者なら知っていますよね? 廃村って所は本当に東にあるんですよね? 僕の記憶ではそっちには無い気がするんですけど?」
「いや、まあ有ることは有るんだが、東と言うより北東と言った方が良さそうな場所だぜ? 真っ直ぐ東に行ったら別の町に着いちまうからな。正確にはこの間行ったドラゴンの洞窟から少し東だ」
「はぁ、そこから違ってたら話にならないわね。デッドロックさんが居てくれて良かったわ」
「ハッハァッ、ファラの嬢ちゃんも俺に惚れちゃあダメだぜ。また争いになっちまうからな」
ファラさんは少し考えるも。
「……ないわね」
と答えが出たらしい。
「ファアアアアア! 野盗はどこだ! 野盗はどこだ! 野盗はどこだあああああ!」
しかしそんな話に興奮したツキコさんが暴れている。
「ツキコさん落ち着いてください。一回深呼吸しましょう。さあ吸って~、吐いて~……」
「……フゥ、フゥ、フゥ……」
僕はツキコさんを落ち着かせる。
こんな感じのやり取りが続きながら、僕達は廃村への道を進み始めた。
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アーリア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミア (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
ディーラ・ストライウス (ミトラの町のギルド員女)
デルメオ・ザック・デルタ(ミトラの町のギルド員男)
ツキコさんが狂暴化しています。




