ついに出会ってしまった二人に一人
ファラさんに説明して準備をした僕達は、北のミトラの町へ向かおうとしている。
デッドロックさんは急ぎたいからと馬を借りることを提案した。
それを了承した僕達は、馬に乗って歩みを進める。
そんな行進の最中に、大量のゴブリンが現れた。
僕達はそれに挑み、全滅させたのだった。
傷も完全に癒されてミトラの町に到着した僕達は、まずはギルドに向かっている。
それはデッドロックさんの希望なのだけど、ツキコさんはニコやかな笑顔になっていた。
見る限り殺気も感じないのに体の震えが止まらない。
殺意の笑顔というのだろうか……。
感覚のするどい道行く人は、ツキコさんの姿を見返している。
デッドロックさんもファラさんも気づかないはずはないんだけど、まさかツキコさんは殺気の位置指定でもできるのだろうか?
ドキドキしながらギルドに到着すると、扉越しでも大きく騒がしい声が聞こえて来る。
だが扉を開いた瞬間、中に居た全員が無言となりこちらに振り向いた。
ハッキリ言って異常な光景であるが、デッドロックさんはその中を普通に歩き、受付に居た一人の女性の下へ向かって行く。
「いよう帰って来たぜディーラ、久しぶりだからキスでも欲しいところだぜ。今からデートでもどうだい?」
その時、すでに限界近かったツキコさんから、感じられなかった殺気が強烈に解き放たれた。
無情な程の殺意に、ガタ……ガタガタガタと椅子が引かれる音がした。
ギルドの中に居た冒険者達が、全員怯えながら戦闘体勢を取らされている。
しかし誰も動けない。
「あらデッドロック、お久しぶりですね。今日は向うのギルドからのご依頼の件でしょうか?」
「つれないことを言うなよディーラ、お前と話す為に馬まで使って来たんだぜ。愛の語り合いでもしようじゃねぇか」
そんな中で平然と話しを続けるディーラさんは、案外大物なのかも。
元冒険者とかそんな感じなのだろうか?
だがそれは、ツキコさんにとっては面白くなかったらしい。
力いっぱい拳をぶつけると、バキッとギルドの扉が破壊された。
ふぅふぅと息を吐き、血眼というか充血した目で鋭い武器を半分ほど引き抜いている。
本気でやる気かもしれない。
「不味いですよツキコさん、こんな所で暴れたら間違いなくお尋ね者ですよ! 落ち着いてください!」
このままでは不味いと、僕は全力で刃を押し戻す。
だがそれでも拮抗しかしないのは、前衛と後衛の力の差なのだろうか。
他の力が働いている気がしないでもない。
「……なにしている、クー・ライズ・ライト。私の邪魔をするのか?」
ツキコさんがこちら見ると、顔を逸らしたくなるほどの圧力がやって来る。
それでも屈する訳にはいかない。
「ぐおおおおお、ちょっとファラさん、ファラさん! 手を貸してください!」
「これ以上抵抗するのなら、お前も敵として断罪してやろうか?!」
ツキコさんは全力で抵抗して来ている。
解き放たれるのも時間の問題だ。
そんな状態を見ているというのに、ファラさんは落ち着いている。
「それは依頼よね? クー、私にお金を払うの?」
「ええっ?! お金を払わなきゃ駄目なんですか?!」
「おおおおおお、放せええ!」
ツキコさんの武器はもう抜けそうになっている。
「当たり前じゃないの。タダでそんな危険なこと出来るはずないでしょ。お金を払いたくなければそのままでいいんじゃないの?」
「いや……あの、見た目以上にキツイんですよこれ!」
「放せええええええええ!」
僕はまだギリギリの所で踏ん張り続けている。
「ツキコさんが魔物落ちしたら、今感じた数値をつけたらボーナスが貰えるわよ」
「……いやいやいや駄目でしょそれ!」
「あんた一瞬考えたわね? で、どうなのよ。五万払うの?」
「ご、五万……は、払い……ま……す!」
もうプルプルして力が入らなくなってきていた。
五万は痛いが、ここで暴れられてはギルドの信用が落ち、僕達の仕事自体が無くなってしまうかもしれない。
そう思った僕は、渋々ながらそれを受け入れた。
「じゃあ契約成立ね。悪いんだけどツキコさん、ちょっと寝てもらうわよ!」
ファラさんが剣をツキコさんに向けている。
「ファラァァァ、お金の為に私に剣を向けるの?! それなら……一切容赦はしないよ!」
「ぐは」
僕は吹き飛ばされてしまったけれど、ファラさんがツキコさんの前に立ちはだかる。
ちゃんと依頼したんですから頑張ってください。
「丁度良い訓練になるわ!」
ファラさんがツキコさんに向かって行く。
「訓練で済ますものですか!」
ツキコさんも攻撃に応戦し、全力でぶつかり合っている。
しかしその最中。
「でな、戦力調査の仕事ってのも中々面白いものなんだぜ。ディーラもこっちに来て一緒に働いてみないか? 安心してくれ、住む場所は確保してある。俺と一緒なら何の問題もないんだぜ?」
「お断りします。私はここが性に合っていますので」
デッドロックさんとディーラさんは、普通に話しを続けていた。
「そんな連れないこと言うなよ。俺とお前の仲だろう。前みたいに一緒に暴れようじゃねぇの」
「何度も言っていますが、私はもう戦うことはしませんので。他の人を誘ってください」
「俺はお前じゃなきゃ駄目なんだよ。俺のこの愛を分かってくれ」
ディーラさんとしては全く気がなさそうな雰囲気だ。
だが、またも混乱を起こすように、新な人物が現れる。
それはギルドの奥の奥で酒を飲んでいた一人の女性だった。
「とおおおおおおおおおう!」
見たことのある装備に聞いたことのある声。
それに知っているその顔は、アーリアさんその人だ。
一体なぜここに?
「今日休みだったから敵情視察に来たのだけど、いいタイミングだったわ! デッドロックの恋人はここに居るわよ。このお姉さんこそが真の恋人なのよ!」
出来れば助けが欲しかったが、さらに混乱を巻き起こすようにアーリアさんが名乗りをあげた。
「あら、良かったですねデッドロック、恋人が来たみたいですよ」
「ちっが~う! アイツは恋人じゃねぇ。昨日ちゃんと断ったんだからな。俺の恋人はお前だけだって言ってるだろうディーラ!」
デッドロックさんはとっくの昔に振られていたらしい。
「ふっ、お姉さんがそんなに簡単に諦める訳がないでしょう。そのぐらい恋の駆け引きの内だわ」
それでもしつこく食い下がり声をかけている。
アーリアさんも諦めていない。
「クッ、何故ここにアーリアが?! ファラの相手をしている暇はない。煙幕を食らえ!」
こっちも諦めきれないツキコさんが黒い玉を地面にぶつけると、大量の煙がギルドの中に充満して行く。
その煙に紛れ、ファラさんに対峙していたツキコさんの姿が掻き消えた。
周りの関係ない冒険者達は巻き込まれて大惨事。
それでもファラさん自分が行くべき場所を定めている。
「ツキコさん、煙を使ったってどこに行くかは分かり切っているわよ!」
ファラさんはディーラさんの居る場所へ走って行く。
まあ考えればそこしかないのだけど。
「気が付いた所でもう遅い! これで……とった!」
ツキコさんがディーラさんに向けて刃を解き放つが。
「ツキコの動きは予測済みよ!」
アーリアさんのグローブをつけた手が、ツキコさんの放つ刃を受け止めた。
「何故止めるのアーリア、そいつをやれば一人減るのに!?」
「お姉さんは愛人の一人や二人は許容するの。時間制限つきだけど」
「ツキコさん、私を忘れると痛い目に遭うわよ!」
そこへファラさんも参戦し。
「全く、これではギルドの運営が出来ないじゃないですか。仕方ないですね。お仕置きしてあげましょうか」
更にディーラさんも剣を抜き、受付カウンターから跳び出した。
「邪魔をするなファラ!」
「もう報酬も決まってるのよね! お金の為に倒してあげる!」
ガッチリと剣を受け止めるファラさん。
あとで減額してください。
「ギルドを混乱させないでください! 全員倒しますよ!」
そこにディーラさんが動く。
素早く鋭い熟練冒険者の動きだ。
「恋敵はお姉さんの手でストップよ」
「だったらお前からだ!」
でもアーリアさんがそれを止めて、その背後からツキコさんの刃が輝く。
「その隙貰った!」
しかしツキコさんの後ろからはファラさんが攻撃を行い。
「もう全員黙らせます!」
ディーラさんは全員纏めて切り払う。
デッドロックさんの周りで四人がガシガシと武器で打ちあい、意外と戦闘は拮抗しているようだが……。
他はもうグッチャグチャだ。
「おい、なんだこりゃ? どうなっている?」
そんな状況にデッドロックさんが今更気付いたらしい。
遅すぎじゃないですか?
「もう一人に決めたらどうなんですかデッドロックさん。皆困ってるじゃないですか。僕のボーナスの五万も払ってください!」
「はぁ? まさか全員俺に惚れてんのか? はぁ、もてる男ってのは辛いもんだ。だが俺はディーラ一人だって言ってるだろ。他の奴等は諦めてくれ。それと坊主、その五万って何だ?」
「ツキコさんを止める為にファラさんに支払うお金です。デッドロックさんの所為なので払ってください。というか払って貰わないと僕が死にます。ください。絶対ください!」
僕はここぞとばかりに、デッドロックさんにお金を請求した。
「ツキコ? そうか、ツキコも俺に惚れちまったのか。そいつは悪いことをしちまったな。相棒としちゃあ優秀で好きだぜ。だがよ、それは恋愛の愛じゃねぇんだぜ。悪いが諦めてくれ」
その言葉が発された瞬間、ツキコさんの力が抜け落ち、膝を突く。
「グフゥ、まだ告白もしていないのに……」
ツキコさんを止めようとしていたファラさんも止まり、防御専門アーリアさんは動かない。
攻撃がなくなったのでディーラさんも剣を収めている。
これでギルドの騒ぎは収まるのだけど、もうこの場には僕達しか残っていない。
周りを見れば、逃げ惑った冒険者がテーブルを倒したり椅子を倒したり、床にはコップや料理が転がっている。
まだ煙はモクモクと残り続け、やっぱりグチャグチャと言っていい状態だ。
「さて、理由は大体理解していますけど、ギルドを混乱させてタダですまないことは分かっていますよね?」
その惨状を見て、ギルド受付のディーラさんは、もの凄く怒っていた。
僕とデッドロックさんも睨まれて、ターゲットにされてしまったらしい。
「いや、俺は別に関係ないんじゃあないのかディーラ?」
「デッドロックさんこそ元凶でしょう。でも僕は関係ないですよ、止めようとしただけですし!」
「言い訳がましいですね。他の三人は黙っているというのに。全員罰としてギルド内の清掃を命じます! 割れたコップや払われていない料理の分も全部貴方達が弁償してくださいね!」
『……はい』
最早運営が困難になったギルドで僕達は清掃を始めたのだけど、全部終えるのには相当時間が掛かってしまう。
もう真夜中になっている。
結局今日の活動は中止された。
しかし何故だろう、この頃仕事をするたびにお金が減って行く。
まさか呪われたりしていないだろうか?
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アーリア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミア (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
ディーラ・ストライウス (ミトラの町のギルド員)
相関図
デッドロック・ブラッドバイド
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ディーラ ツキコ アーリア〇→ クー




