おかえりなさい僕のボーナス
デッドロックさんと、その相棒のツキコさんに付き合ってもらい、僕達は南にある森に食料を探しに来ていた。
森に到着するとデッドロックさんが狩りに向かい、僕とツキコさんは野草の採取を行っている。
そんな中で、僕はツキコさんから相談を受けた。
ツキコさんはデッドロックさんに恋しているらしく、僕に手を貸せと迫って来た。
危険を感じた僕はそれを了承し、また野草の採取を続けている。
結構集まった頃に、デッドロックさんが得物と敵を引き連れ戻って来ていた。
引き連れたオークを退治し、得物を肉にして焼くのだった。
「坊主、もうこれで充分だろう?」
「はいデッドロックさん、僕はお腹いっぱいで満足しました!」
久しぶりのタンパク質を食べて満足した僕は、お腹をポンポン叩いた。
あとはここにある草の選別をして持ち帰るだけだ。
「そいつはよかった。じゃあ集めた草の選別を済ませるとしようぜ。ツキコ、頼む」
「……う、うん、任せて」
野草はツキコさんにより選別され、食べられる物と食べられない物に分けられていく。
中には山菜に薬草に山ぶどうなんて物まであったりする。
僕は取っていないのだけど、ツキコさんが集めてくれたのだろう。
思ったよりも量も多くなり、ミアさんと二人で食っても一週間はもつはずだ。
僕達は馬で食料を運び、森の外に置いてある荷台に積み替える。
それから馬を荷台に繋ぎ、のんびりと町へ帰って行った。
これで当面の食糧は問題無いだろう。
出て来る魔物を倒しながら町に戻ると、僕の自宅の前にやって来た。
寮とは少し離れている場所である。
「デッドロックさん、ツキコさん、今日はありがとうございました!」
「おう、こっちも美味い物が食えたんだ、まあいいってことよ」
デッドロックさんとツキコさんも、自分の分は確保していた。
荷車にはまだ多くの食糧が積んである。
「……助け合いは大事。助け合いは、ね?」
「はい、そーですねー」
ツキコさんが意味深な言葉を発する。
今後も助けろという意味なのだろうか?
でもこれ以上関わるのは不味い。
僕は愛想笑いして別れの挨拶をすると自宅へ入って行く。
「肉は今日使う分を切って、残りは塩漬けしないとな」
食料が手に入ってとても嬉しいのだが、ツキコさんの問題やらアーリアさんの問題やら、更には金が無い事も問題だ。
「ミアさんにあげる物が、これとこれとこれと」
しかしその一つ、金の問題は明日解決するかもしれない。
ミアさん、つまり賞金首アギアの能力を調べた事により、ボーナスが支給される日なのだ。
「よし出来た! 早速ミアさんの部屋に運んであげて安心させてあげないと」
急いでミアさんの部屋に荷物を運んだのだけど、ドアを開けるとファラさんの声が聞こえる。
「ミア、あんたもう少し綺麗に食いなさいよ。片付けるの大変でしょ!」
「コレ、ウマイ。ファラ、スキ! コドモ、クレ!」
「あんた舐めてるの、私が作れる訳がないでしょう!」
部屋のテーブルには、上手そうな肉や野菜類、パンなどが並んでいる。
どうやらファラさんと楽しく食事をしていたらしい。
案外気が合うのかも知れない。
「こんにちはファラさん、僕にも食事を食べさせてください!」
「はぁ、何で私があんたに料理を食わせないといけないのよ。というかあんた何してたの。その荷物は何?」
「森に食料を取りに行ってたんです! 今、金欠なので!」
「食料ぉ? ならそこ置いといて、じゃあ帰って良いから」
「待ってください。一切れ、一切れだけでいいので! 僕に栄養をください! ファラさんの手料理が食いたいんです!」
「クー、ハラヘリ、メシヤル!」
ミアさんは優しく僕を助けてくれた。
魔物扱いしたり戦ったりしたのに何ていい人なんだろう。
「……はぁ、仕方ないわね。じゃあ一切れだけよ。それでもう帰れ」
ミアさんの説得で、ファラさんの気持ちが動いたらしい。
「はい、わかりました!」
僕は元気よく返事をすると。
「じゃあ待ってなさい、持ってきてあげるから」
ファラさんは部屋の中から皿を持って来てくれた。
しかしその皿の上には、本当に肉の一切れしか乗っていない。
僕はそれを手で掴み口に運び入れると、皿のタレまでペロペロとなめ尽くした。
やはりちゃんと調理して味付けされている物は、ただ焼いただけのものとは明らかに違う。
「美味いですファラさん! もう一切れください!」
「嫌よ」
ファラさんに軽く断られて、部屋のドアをバタンと閉められてしまった。
待っていても開く気配はない。
残念だが帰るとしよう。
「ああ、もうちょっと食べたかった」
自宅の道を歩いていた僕の後ろから、何者かの足音が聞こえて来る。
「クー、マテ! コレ、クエ!」
僕が振り向くと、ミアさんから声が掛けられた。
ミアさんの手には、二つの握り飯が見える。
二つとも同じ物だけど、形が随分と違うようだ。
わざわざ作ってくれたのだろう。
「ありがとうミアさん!」
僕はミアさんから、二つの握り飯を受け取った。
しかしわざわざ作ってくれるなら、部屋の中に入れてくれてもよかっただろうに。
「クー、マタナ!」
ミアさんは僕に握り飯を手渡すと直ぐに去って行く。
また二人で食事でもするのだろう。
僕は握り飯を食べながら自宅に帰り、明日の為に早めに眠りについた。
そして朝。
「ふぅ~、今日がボーナスの日だ!」
スッキリと目覚めた僕は、どうやら相当早く起きてしまったらしい。
しかし興奮しているようで、二度寝が出来る状態ではない。
僕は顔を洗ったり仕事の準備をしながら、出社の時間を待っていた。
「ゆっくりやったのに、もう終わってしまった」
それがすべて終わっても、まだ時間には少し早いようだ。
でもどうにも待ちきれないし、ギルドに行って待つことにしよう。
何たってお金が増えるという一大イベントがあるのだから。
「ふっふっふ、今日でこの生活から脱出できるかもしれない! さあ元気に出社しよう!」
僕は上機嫌でギルドへ向かい、部署の扉を開く。
「お早うございます!」
やっぱりまだ早いらしく、スラーさんしか来ていなかった。
何時も一番に来ているけど、一体何時から居るんだろうか?
「お早うございますライズ・ライト君。君が出社一人目なので、君に決めようと思います」
「えっ、何がですか?」
そのスラーさんは僕に頼み事をしたいらしい。
魔物を相手にしているギルドにおいてはよくあることである。
「じつはですね、北の町の近くに野盗の集団が出たらしいのです。それを調べて来てくれませんか?」
「野盗って僕達が扱う案件なんですか? 魔物落ちしたとか?」
「いいえ、その野盗自体は普通の人間らしいです。しかし連れている魔物がどうやら見たこともないタイプらしく、戦力調査を頼むということです。まあ手紙に書かれている物なので、まずは北の町で確認ですかね」
スラーさんは、手に持った手紙をヒラヒラさせている。
「……え~っとスラーさん、そうなると僕のボーナスはどうなるのでしょう?」
「ふむ、欲しいと言うなら今渡してあげてもいいのですが、相手は野盗です。大金を持ち歩くのはお勧めできませんよ? 戻って来てからの方がいいのでは?」
「いえ、あの……食費がないので、少しでも……欲しいんですけど……い、一万、一万だけ先にください!」
「ライズ・ライト君、お金のやり取りは後々面倒事に発展してしまうので、今受け取るか受け取らないかを決めてください。少しだけというのは駄目です」
「だ、ダメなんですか? ……じゃあ、今もらいます。もしかしたら必要になるかもしれないので」
「そうですか、では少し待っていてくださいね。君のボーナスを持ってきますから」
「ふぁい!」
「ライズ・ライト君、返事ははいにしときなさい」
「はい!」
スラーさんはギルドの奥にある金庫室に向かい、ボーナスを取って来てくれた。
因みに一般職員である僕はその部屋には入ることが出来ない。
入った時点で首確定だ。
「ではライズ・ライト君、この場で確認してみてください。五万デリー入っているはずです」
僕は言われた通りに確認すると、ちゃんとお金は入っている。
この仕事の分もボーナスが貰えると思うし、これでお金の問題も解決したも同然だ。
「はい、確認しました。五万デリーですね。じゃあ僕とファラさんで北の町にむかえばいいのですね?」
「いえ、もう一組同行させようと思っています。ブラッドバイド君があの町の出身なのでね。地形も把握しているでしょう」
ブラッドバイドとはデッドロックさんのことだ。
「えっ……?」
来てくれるなら、地の利や安全性についても増すだろう。
しかし、もう一人大変な存在が付いて来てしまうことになる。
ギルド受付のディーラさんと会わせては不味いんじゃないだろうか?
「スラーさん、じつは……」
僕はツキコさんのことを相談しようとスラーさんに話しかけるのだが。
「いよう二人共、今日も元気に仕事に励もうじゃねぇか。で、今日の依頼はなんだいスラーさん」
「……おはよう」
そんな話題の二人が同時に出社して来てしまったのだ。
「おはようございますブラッドバイド君、ミカグラ君。丁度良い所に来てくれました。今日の仕事はライズ・ライト君と一緒に、北の町に向かうことです。詳細はライズライト君が知っていますので、道中に聞いてください」
「ほう、ミトラの町で依頼か。そいつは丁度良い。ディーラの顔も見たくなったしな。じゃあ坊主、仲良く行くとするか。ハッハッハ!」
「デッドロックさん、不味いですって!」
僕は止めようとしたのだけど、ツキコさんが僕の服を掴んでいる。
「クー・ライズ・ライト、まさか邪魔をする気?」
逆の手は武器の鞘を掴んでチャキっと刃を引き上げた。
刃は少しだけ見えるぐらいの位置で止まっているけど、僕の行動と共に引き上げられるのだろう。
「いえ、服に埃がついていただけです」
僕はツキコさんの説得を諦めて、ファラさんが出社してくるのを待つのだった。
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アーリア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミア (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)




