その相談はちょっと困る
お金が無い僕は、まず食糧を確保しようと野草を取ることを思いつく。
デッドロックさんに頼みに行ったが、草の事は知らないと言われてガックリする。
しかし相棒を紹介してくれると言われ、ミカグラ・ツキコさんを紹介してもらった。
彼女も手伝ってくれるようで、三人で南の森へ向かって行く。
歩けばそれなりに遠い南の森だけど、デッドロックさんはそこまでの移動に荷馬車を借りてくれたのだ。
僕にとってはありがたく、帰りの移動も凄く楽になるだろう。
とうぜん取った物をドーンと積み込むことが出来るし。
ついでに運転もしてくれるという大盤振る舞いだ。
「よかったんですか、馬車なんか使わせてもらって」
一応僕は聞いてみるのだが。
「いいってことよ。お前には世話になったからな。向うの町じゃ、家の借りても付いて万々歳ってやつよ。もう家賃も送られてきているからな。ハッハァ」
借家が上手くいって随分儲かっているらしい。
僕はギルド職員でないミアさんの家賃を払って、デッドロックさんは金を払わず無料で住めている。
すごく不公平だと思う。
「僕にも分け前をください。数か月分でいいんで」
「悪いがそれは聞いてやれねぇな。まあデカイ得物を取ってやるからそいつを冷凍でもしてもらうんだな。それで随分もつだろ」
「デッドロックさん、僕の為に大きい得物を取ってくださいね」
「坊主は遠慮ってもんを知った方がいいんじゃないか? まあ別に構わねぇけどな」
しかしこんな会話も馬車の前方だけで行われていた。
もう一人のツキコさんはというと、荷台の隅っこで座り込んで、ボーっと空を見つめている。
なんだか寂しそうだし、話しかけた方がいいのだろうか?
「あのツキコさん、僕に付き合ってくれてありがとうございます。今日はよろしくお願いしますね」
「……あ、うん。大丈夫だよ。……でもあとで聞きたい事が有るから、二人っきりの時にちょっと時間くれる、かな?」
聞きたい事って何だろう?
まあ大したことではないと思う。
僕とツキコさんは、今日初めて話したようなものだし。
「はい、大丈夫ですけど、今じゃ駄目なんでしょうか?」
「ダメ」
「そ、そうですか」
その聞きたいことに対しては相当力強い想いがあるのかも。
そんなに大事なことなのだろうか?
気にしても分からないし、聞いた時に考えればいいだろう。
「おっ、見えて来たぜ」
前方に左右に分割された森が見えて来た。
「おお、僕のご飯ですね!」
あの中の食材達が僕を待っている。
ちゃんと見つけ出して美味しく食べてあげなければ!
「俺が居ない所で馬が襲われたらたまらねぇ。傷付けたら弁償させられちまうからな。俺は何か狩って来るから、お前達が見張っておいてくれ」
森の外に繋げておいても、何時魔物に襲われるのかも分からない。
一緒に行動する方がいいだろう。
「はい、わかりました」
僕は返事をして。
「ツキコも頼むぜ?」
「……あ、うん」
ツキコさんも了解してくれた。
森に入る前に僕が荷台から馬を分離すると、デッドロックさんは一人で森の中へ入って行く。
僕とツキコさんは馬と一緒に森の中に入って、野草の採取を始めた。
野草、山菜、薬草に、果物や動物も豊富である。
昆虫食は苦手だけど、食べられる物は意外とあるだろう。
毒さえなければ腹に入れられるのだ。
「教えてもそう簡単に覚えられないでしょ。同じ種類は同じ場所に固めて置いておいて。あとで私が選別するわ」
確かに葉っぱの形を覚えろと言われても全部同じに見えてくる。
ちゃんと専門家に見てもらった方がよさそうだ。
「はい、お任せしますね」
僕は頷き、手あたり次第に草を千切って行く。
言われた通りに同じ種類の物を同じ場所に集めたのだけど。
「……じゃあ、クー・ライズ・ライト、話をしをしましょう」
五分もしない内にツキコさんとの話し合いが始まった。
さっき時間をくれと言っていたものだろう。
「あのツキコさん、お話しってなんでしょうか」
「……そう、ね。ロックにアーリアを紹介したのはあなた? なんでそんなことをしたの? あなた彼女の噂を知っていたんでしょ?」
「えっ、まあ確かに僕が紹介しましたけど、デッドロックさんは断るみたいですよ。何だかミトラの町のギルドのお姉さんが好きだって言ってましたし」
「……その話、私に詳しく聞かせなさい」
ツキコさんは僕の顔に爪を立てるようにして両手で掴んできた。
なんだか、目が怖い。
「あの、ツキコさん、もしかしてデッドロックさんのことを?」
僕はツキコさんに尋ねてみた。
しかし。
「言わないで!」
ツキコさんは言葉に反応して、腰の武器を抜いてしまったのだ。
「うひぃ!」
その武器は頭の上を通り過ぎ、斬られた髪の毛がパラパラと落ちて行く。
武器の切れ味も相当ヤバイ。
まるでカミソリのようだ。
照れでこんなことをされたら命が幾つあっても足りないだろう。
「クー・ライズ・ライト、そのことはどうでもいい事なので忘れて。いい?」
「はい、誓って言いません! 二度と言いません!」
まあ、相棒を組んでそのまま好きになる人も居ると聞く。
ツキコさんもその一人なのだろう。
「……それで、その女の特徴と名前は? 私に教えてくれるよね」
ツキコさんの手に持つ刃は、相変わらず僕へ向けられたままである。
まさかやる気なのだろうか?
「あの、ツキコさん。暗殺は不味いと思いますよ? 一度落ち着いた方がいいんじゃないでしょうか」
「私はすごく落ち着いているよ。今日の青空のように!」
ツキコさんの武器が、ビュンビュンと鼻先を掠めて行く。
「おおおお落ち着いて、武器を振り回さないでください!」
「ふぅ、ふぅ……ごめんなさい、ちょっと取り乱したみたい。私ったらダメね。彼のことになると感情が抑えきれないの」
間違いなく駄目です。
駄目駄目です。
「ツキコさん、相手はデッドロックさんに気がありません。デッドロックさんが一方的に好きになっているだけです。相手を潰したってデッドロックさんの怒りを買うだけですし、それより気を引く行動をとった方が百倍有益だと思いますよ!」
「そ、そう、かな?」
「そうですよ! 僕も手伝いますから、変な事はやめましょう!」
「そっか……じゃあこれから手を貸して、クー・ライズ・ライト」
「はい!」
と元気に返事したのはいいものの、これは凄く大変な話を引き受けてしまったのかもしれない。
まさかこんな話に巻き込まれるとは……。
しかし手伝わないという手はない。
ここで断ってしまえば、選別する野草の見分け方が甘くなる可能性がある。
致死毒はなくとも、腹痛や頭痛を起こす物を紛れ込まされたらたまらない。
なんとかこの場だけでも穏便に終わらせたい。
食料の為に!
「ツキコさん、まずは食料を集めましょう。僕お腹が減ってしかたないんです」
「……そう、分かった。でももし逃げたら……」
ツキコさんの手が僕の頬に当てられる。
そのまま下に移動して、首元でシュッと横へ払われた。
確実にやる気だ。
「そ、そんな事する訳ないじゃないですか。はははー!」
僕は愛想笑いをしながら食材探しに奔走しだした。
適当に手でちぎって山積みにして、相当の量が集まっている。
まあどれだけ食えるものが有るかわからないが、一部だけでも四日分ぐらいはあるだろう。
あとはデッドロックさんの持って来る肉があれば。
「いよう待たせたな。得物は持って来てやったぜ!」
期待して待ち続けた僕達の下に、デッドロックさんは猪を担いで戻って来ていた。
遠くから走りこっちに向かっているのだけど、どうやら得物だけを連れて来たようじゃないらしい。
走っている後ろからは、棍棒を持ったオークの一匹が追い駆けて来ている。
これが新種だったら嬉しかったのに、どこにでもいる普通のオークだった。
まあ……あれも得物だと思えば……。
いや、流石にないな。
それはもっと腹が減ってから考えることだ。
とにかく僕は鉄の棒を取り出し……。
って、オークが何かしらの力を持っているとは思えないんだけど。
結界を使っても意味がないじゃないか。
物理ならこの鉄棒で……やっぱりやめておこう。
二人の邪魔になりそうだ。
「敵!」
僕が対応する前にツキコさんが走り出していた。
あの反り返った武器を横に構え、オークの横をすり抜けた。
その場に置き去りにされたオークには、どこにも傷一つ残されていない。
まさか攻撃を失敗したのか?
でもオークが棍棒を振り上げた時、体に変化が起きた。
ツキコさんが通り抜けたその辺りに、薄っすらと赤い筋が見え始める。
「ブモオオオオオオオオ!」
そのままバックり腹の傷が開き、オークは声をあげる。
更に後方に抜けたツキコさんは、オークの背中をバツに斬りつけた。
この傷でも勝敗は決しているが。
「流石は俺の相棒だ。やるじゃねぇの。じゃあ止めだぜ!」
得物を置いたデッドロックさんが、愛用の鎌をオークの頭上から振り下ろす。
ザシュゥと刃は直線に落ち、股の下から再び現れた。
「プギュウウウウウウウウウウ……」
オークはその一撃で倒れ、動きを止めた。
流石に何時も戦っているだけあって二人共強い。
「ハッハッハッ、ちょっとばかり迷惑かけちまったな。まっ、得物は獲って来てやったんだ許してくれよ」
「許すも何も、魔物なんかよりよっぽど肉の方が大事です! 僕のお腹は限界です。早速肉にして食べましょう!」
「じゃあ手早く捌くとするか」
デッドロックさんがナイフを取り出し解体作業に入ろうとしている。
しかしツキコさんは手伝おうともせず、全く動かない。
デッドロックさんの前で緊張しているのだろうか?
ちょっと声を掛けてみよう。
「あのツキコさん。一緒の作業して好感度を上げるのもありなんじゃないですか?」
「……う、うん。そうしたい」
ツキコさんは足を踏み出そうとして、やっぱり止めたりを繰り返している。
近くに寄りたくても寄れないような感情になっているらしい。
さっきまであんなに狂暴だったというのに、もうちょっと頑張ってほしい。
しかし僕も手を貸すと言ったのだから、多少の手助けはしてあげようか。
「デッドロックさん、ツキコさんが手を貸すって言ってますよ」
「おっ、そうかい。じゃあ手を貸してくれよツキコ。この辺を持っててくれ」
「う、うん」
ツキコさんは勇気を出してデッドロックさんに手を貸している。
このまま上手くいってくれればいいのだけど、そう簡単に上手くいくなら恋愛で悩んだりしないだろう。
それと、出来ればこれだけで許してくださいツキコさん。
僕はこれ以上関わりたくないです。
「時間が経って血が悪くならない内に、サッサと食っちまおうぜ。まあ焼けば食えるだろう」
二人の作業は続いて行き、猪は肉の塊へと変わっている。
もう直ぐ食事の時間だ。
「ひ、火種はどこに?!」
僕はリュックの中を探すのだけど、鉄棒しか持って来なかったのを思い出した。
こんな時に何という失敗だ。
もし食べられ無かったら来た意味が相当減ってしまう。
バッと二人を見つめると。
「……私が持ってる」
僕の心配は杞憂に終わったらしい。
代わりに期待が胸を高鳴らせた。
「……焚き火でも作りましょうか」
ツキコさんは落ち葉を払い、使えそうな枯れ木を使って火を起こす。
無事に火がつき焚き火が完成すると、僕達はその火で肉を焼き始めた。
したたる油を見つめて、僕は涎を垂らして待ち続けるのだった。
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アーリア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミア (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)




