えっ、それ外れるんですか?!
南にあったミラーナの町で僕達三人は宿をとった。
三人共別の部屋をとり、暇なので直ぐに眠りについたのだけど、就寝中に何者かの気配を感じた。
誰だろうかと寝返りを打つと、そこには夜戦ったアギアの姿があった。
僕は驚きアギアの顎に頭をぶつけ、その為に両方共に気絶してしまう。
しかし先に起きたのは僕で、とりあえずアギアを縛って寝ている二人を呼びに行くのだけど、ファラさんの部屋の前で事件が起こってしまう。
「ブハァッ!」
ファラさんからバッシャンと水をぶっかけられ、目覚めたのは浴室の中だった。
隣にいるアギアさんは、ロープではなく鎖で縛られている。
この宿にでも有ったのだろうか?
僕は身を起こそうとするのだけど、何故か体が縛りあげられている。
別に何一つ悪い事はしていないと思うのだけど。
「さて、やっと起きたわねクー、あんた一体何してるのか分かってるのかしら? さっきまで戦ってた賞金首と一体を何しようとしてたのかしら?! まさか私を舐めてるの?!」
ファラさんは怒り心頭という感じだろうか。
「もうクーちゃんったら、お姉さんに言ってくれればよかったのに。お姉さん、頑張っちゃうんだぞ」
アーリアさんはもう服を着ている。
ファラさんに怒られたのかもしれない。
一応庇ってくれているとは思うけど、今はちょっと焚き火に油をまいているようなものだ。
更にファラさんの機嫌が悪くなっている。
「あんたもちょっと黙ってなさい! 今はこいつの罰を与えなきゃいけないのよ!」
「お姉さんは別に構わないんだけど。捕まえられたんだし結果オーライじゃない?」
「何言ってんの。こいつは人類の敵になろうとしてたのよ! あと一歩で殺される対象になっていたんだからね! ちゃんと反省させなきゃどうするのよ!」
「あら、クーちゃんったら愛されてるのかしら?」
「ちっがうわよ! これは仲間として心配しているだけで、こんな奴に愛情なんてないからね!」
ファラさんに照れの表情は見られない。
ちょっとだけ残念だけど、僕達の付き合いはまだ一年も経っていない。
相棒として言ってくれているのだろう。
「はぁ、何だか怒るのも馬鹿らしくなって来たわ。こんなバカのことより、こっちの奴をどうするかよ。ギルドに引き渡すのは確定だけど、この町のギルドより、どうせなら私達のギルドに連れて帰りたいわよね。ねぇあんたはどう思う?」
頭をグリグリと踏みつけられ、ファラさんに質問されている。
結構痛いのだけど、一応言いたいことは言った方がいいのだろう。
「ぼ、僕としては、自分に好意を向けてくれる人に死んでほしくはないなーって。そ、それと、痛いので頭を踏まないでください」
「黙りなさい!」
「うげ」
更に強く頭を踏まれてしまった。
理不尽ではあるけど、敵を庇ってしまっては仕方ないだろう。
でも、この町のギルドでは僕の話は聞いて貰えないから、流れ的には少しだけ可能性がありそうだ。
働いているローザリアの町のギルドなら、上司スラーさんにも話しを聞いて貰える……かもしれない。
もし話して駄目なら、その時はキッパリ諦めるしかないだろう。
あまり庇い立てすると僕の身も危ういし。
「お姉さんはどっちでもいいのよ。どうせ町には帰るのだから」
アーリアお姉さんは……本当にどっちでもいいのだろう。
「ぼ、僕もローザリアのギルドに行くのには賛成です!」
アーリアさんが何方でもいいと言うのなら、これでローザリアへ向かえるはず。
「あんたの意見なんか聞いていないのよ!」
僕はまたも踏みつけられた。
「うぐ、さっきと言ってることが違う……」
ファラさんは意見を聞いてはくれない。
どれだけ怒ってるのだろうか。
「もういいわよ、何時までも怒っていられないし、もう許してあげるわ。その代わり、次やったら慈悲はないから」
許してくれるとは言ってるけど。
「は、はい、ごめんなさい!」
あの、言葉と足の動きが違うんじゃないですか?
それからもゲシゲシと踏みつけられ、ファラさんの足が止まったのは暫く経ってからだった。
「ふう、ちょっと落ち着いたわ。あとは……こっちよね。じゃあ、起きなさい!」
ファラさんはアギアさんの頬をパチンと叩いた。
アギアさんはビクっと目を覚まし自分が動けないと認識したらしい。
でも何故だろう、僕より優しい対応だと思うのは気のせいでしょうか?
「ギャララララ! オマエ、テキ! ワタシ、ヨメ、マモル!」
嫁とは僕のことだろうか?
なんだか囚われのお姫様にでもなった気分だ。
「あなたは人を襲ったのよ。クーを護るだなんて馬鹿な事を言わないでちょうだい。これから別の町に送られて罰を受ける事になるわ。覚悟するのね」
「ワタシ、オマエ、キライ! ヨメ、マモル!」
「嫌われるのはあなたの方よ。クーだって人なんだから、人を襲うあなたのことは嫌いだわ」
ファラさんは僕を踏みつけながら睨んでいる。
「いや僕は別に……き、キライです」
助け船を出そうかとも思ったけど、ファラさんに睨まれて、思わずそう言ってしまった。
「ウゥゥ……」
アギアさんは悩んでいる。
これで反省してくれれば説得も楽なのだけど。
一応許しは貰えたし、お二人にはもう一つ頼み事がある。
「お二人共、一つだけお願いがあるんですけど……」
「へ~、こんな状況で頼みごととは、中々良い度胸じゃない。少し反省の色が足りないのかしら」
「お姉さんはもう許してあげても良いと思うの。クーちゃんも反省しているから。ね?」
「あっそ、いいわよさっき許すって言ったんだから。じゃあ言ってみなさい」
「あ、はい。彼女ちょっと臭いがキツイので、出来れば二人で洗ってあげてくれません? ほら、運ぶのにも大変でしょう」
「ワタシ、クサイ、ナイ! ヨメ、ヒドイ!」
自分の臭いって中々気付かないんですよ。
「はぁ……こいつそんなに臭く……クサッ?!」
怒りで我を忘れていたから気付かなかったのか?
ファラさんはアギアさんの臭いを嗅いで、ようやく理解してくれたらしい。
その臭いを真面に嗅いで鼻を押さえている。
本当に臭かったのだろう。
「仕方ないわね。私達で洗ってあげるから、クーはここから出てなさい」
「お姉さんは別に構わないんだけど」
「そもそも縛られて動けないんですが……」
「ああもう、じゃあ叩き出してあげるわよ!」
僕はファラさんに投げ捨てられ、お風呂場の外へ放り出された。
中ではアギアさんが体を洗われている。
「ギャアアアアアアア!」
まあ何かしら悲鳴が聞こえたりするけど、浴槽に入ることは出来ない。
覗き対策なのかしらないが、僕はまだ縛られたままである。
「今までのお返しをしてあげるから覚悟するのね」
「お姉さんが綺麗にしてあげるわよ♪」
浴槽の入り口で転がったまま、反撃の機会を得た二人の楽し気な声を聞きながら、三人が出て来るのを待ち続けた。
でも女性の風呂というのは長いらしく、もう随分時間が流れている。
時が来てロープを解いて貰った時には僕は疲れ果てていた。
しかし風呂から出て来たアギアさんを見たら、洗わせて良かったと実感している。
相変わらず腕は拘束されているけど、肌の透明感や髪の艶が輝いている。
たぶんもう臭いもないだろう。
「アギアさん随分綺麗になりましたね。見違えました」
「?」
僕はアギアさんに呼びかけるけど、なんとなく反応が悪い。
言葉は分かっているはずなのだけど。
「クー、こいつが罪人だって忘れてるんじゃないわよね?」
「忘れてません忘れてません忘れてません!」
先ほどより冷静なファラさんの声に、少しの安心感を覚えた。
たぶん怒りの峠を越えたのだろう。
「クーちゃんったら、その子じゃなくてお姉さんになら見とれても良いいのよ?」
「お姉さん、僕は見とれてないです。じゃあもう町に帰りましょう。スラーさんにも報告しないといけないですから」
「あんたのやることはお見通しよ。どうせスラーさんに助けを乞う積もりなんでしょうけど、そう簡単に覆らないからね。そんなにギルドは甘くない」
やっぱりファラさんにはバレていた。
流石相棒といった所だ。
「僕もギルドの人間です。お願いだけしたら後は上の人にお任せしますよ」
「ふ~ん、それならいいんだけどね。もし駆け落ちなんてしようものなら、地の果てまで追い掛けて退治してやるわよ」
その時は本当にやられそうなだぁ。
「だからしませんって! じゃあ僕達の町へ帰りましょう。ほらアギアさんも」
「?」
アギアさんは不思議がっている。
「ワタシ、アギア、チガウ。ワタシ、ミア。ナマエ、ミア」
「ああそうか、名前はこっちでつけたから本名じゃないんですね。じゃあミアさん」
「ギギ!」
たぶん返事なんだろう。
ミアさんは頷いている。
「こいつの名前なんてどうでもいいわよ。それより簡単には帰れないかもしれないから注意なさい。賞金首が奪われるなんて冒険者の間じゃよく聞く話だわ。帰り道に人に襲われたって不思議じゃないんだからね」
元冒険者のファラさんは、僕を脅すように言ってきた。
「うわ、こわ!」
つまりは向うの町に着くまで……ギルド内部に入ってしまうまでは安心できないってことだろう。
案外大変なのかもしれない。
森の街道は塞がれているし、僕達が馬車で通り抜けるのは無理だろう。
ああそうか、それはこの町のギルドに報告したほうが?
いやいや、まずはミアさんを送ってからローザリアのギルドに報告しよう。
どこから存在がバレるか分からないし。
というかこの宿の騒動でバレていてもおかしくない気がする。
「心配しなくてもクーちゃんのことはお姉さんが護ってあげるわよ」
「あ、はい、よろしくお願いしますお姉さん」
ということでミアさんには目立たない恰好をしてもらおうと思ったのだけど、綺麗な服を着せても、逆にボロボロの服を着せても青く黒っぽい腕が目立っている。
そもそもずっと抜き身の剣の形だし、皮膚も随分違う物だ。
腕を出すのはできなさそうだ。
「銀髪や金の瞳も目を引きますけど、なんというか、どうやっても腕が目立ちますね」
「面倒だから折った方が早いかもね」
「ギャワワワワワワ!」
「ただの冗談よ」
ファラさんのあまり冗談に聞こえない声に、ミアさんは恐ろしさを感じているようだ。
「オマエ、コワイ。ワタシ、ウデ、ヌグ! クサリ、トケ!」
「えっ、外れるんですかそれ?!」
完全に一体化している様に見えるんだけど、それ自分の腕じゃないんですか?
「はっ、嘘じゃないでしょうね? 逃げようとしても無駄だからね」
「ウソ、チガウ。ワタシ、ウソ、ナイ!」
「あの、ファラさん、鎖を外してあげてくれませんか?」
「……分かったわよ」
二人の手で鎖が外され、ミアさんは自分の腕の皮を歯で噛んでいる。
それをはがす様にグッと引っ張ると、ミリミリと音を立てて皮がはがれていく。
中からは、青暗い色ではあるが人の手が現れ、剥がされた剣はカランと落ちた。
完全に同じ色と形だけど、魔族って脱皮でもするのだろうか?
謎の生態だ。
「うっ、あんた、腕が臭いわよ。その剣も臭いんじゃないの? もう一度お風呂場で洗いましょうか」
ファラさんが鼻を押さえ、ミアさんの手をガシッと掴む。
「!」
「そうよね。女の子が臭いのはいけないわ。洗いに行きましょうか」
もう片方の手はアーリアさんに掴まれた。
「?! ギャワワワワワワワワ!」
そのままミアさんはお風呂場へ逆戻りさせられてしまった。
ミアさんを洗い終わるまでに、僕はこの剣でも洗っておこう。
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アーリア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
ミア (絶望のアギア・賞金首・ナンバー9)




