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かわいいあの子は何所の人?

 結界を作り待ち続けていると、馬車の影から目的の魔物が現れた。

 速度や力も資料よりも強く成長し、影や闇に隠れる力に苦戦を強いられる。

 それでも何とか敵の特徴を調べ上げ、アギアを逃げ帰らせることに成功した。

 そして僕達は、時間が遅いからと南の町に向かったのだ。

 森の街道を南に抜け、道の先にあるのがミラーナの町だ。

 僕も何度か来た事があるけど、町の中心部に作られた大きな菜の花畑は絶景である。

 まあそれも昼に見たならの話で、夜中の今時分に見るものではない。


 その町中にある宿、菜の花亭に部屋を取り、僕達は一夜を過ごす事になった。

 一人一部屋という少し贅沢な泊まり方だが、ボーナス確定した僕達は余裕で泊まれたりする。

 僕としてもスラーさんに借りた分がまだあるし、ホクホクの未来に向かって前進中なのだ。


 そんな僕達は宿で食事を取り、順番に風呂で体を洗ったりして眠る準備を整える。

 風呂場で女の人に出くわすようなそんなシュチュエーションもなく、花瓶とベッドしかない部屋の中で寛いだ。

 何もする事がなく、ベッドに横になって目を閉じたのだが。


「…………」


 ガチャッと扉が開く音が聞こえて来る。

 どうも僕が眠っている間に、何者かが部屋の中に侵入したらしい。

 鍵は掛けていたはずだけど……外された?


 僕は目を閉じたまま考える。

 どう考えても鍵を開けてファラさんが入って来ることはない。

 あの人が用事があるなら、大声と共に扉を叩くはずだ。


 だとしたら、まさかお姉さんが踏み入って来たのでは?

 あのお姉さんならやりかねない可能性がドーンとあるのだけど。

 いや、もしかしたら泥棒かもしれないし、宿の人なのかもしれない。

 何か特殊な事情でこの部屋に入って来たのかも?


 考えったって分かりはしない。

 ……やっぱり気持ち悪いし、振り向いて目を開けてみよう。


 僕は寝返りを打ち、意を決して目を開けてみるのだが。

 何故か黒い物が目の前に見えていた。

 そして、寝返りを打った頭の後ろに、ドスンと何かが突き刺さった。


 何が起こっているのかと首を天井に向けると、そこにはフードを被ったあのアギアの姿があったのだ。

 顔は暗闇に隠れ、白い光が二つ輝いている。

 そんなものがいきなり現れたらどうなるか。


「んぎゃああ!」


 普通に絶叫してベッドの上から跳び起きた。

 それが幸いしたのだろう。

 僕の頭がアギアの顎に直撃し、アギアはその場に倒れてしまったのだ。

 しかしその衝撃で僕もまた意識を失い、起きた時には日が登って朝が来てしまったらしい。


「……ハッ!? ……死んで、ない。……ふう」


 パチッと目を覚ました時、僕は自分の命があることを確認した。

 そして隣には、倒れたままのアギアの姿があるはずなのだが……。

 あの一連の流れでフードがめくれてしまっている。


「これは一体なんの冗談なんだろう?」


 その中身が何故か銀髪の美少女で、意外と僕の好みだったのだ。

 一応死んではいないようだが。


「で、どうしよう。……寝起きで頭が回らない」


 というか、夜中叫んだというのに、誰も助けに来てくれないとはどういうことだろう?

 僕は夜中に奇声をあげるようなキャラだとでも思われているのか?


 いや、考えるのは後にしよう。

 今はこのアギアを縛り上げるのが先決だ。


「確かロープが有ったはず……あった!」


 僕はリュックからロープを取り出し、アギアの腕を縛りあげた。

 手が剣になっているから少し不安だけど、心情的には無いよりも随分良い。

 それよりも、この銀髪のアギアさんのことだ。


 髪は銀色で少し特殊ではあるが、顔は人種ものである。

 しかしこの腕の皮膚は人のものではない。

 亜人と呼ばれる種族が頭を過る。

 亜人とは人と異なる人に近い種族なのだが、犯罪を繰り返せば個々として魔物に落とされることがあると聞く。


 でもこれはエルフや人狼、キャットスレイブと呼ばれる亜人の類でもない。

 精霊族でもないし、神族であるはずもない。

 この少女はその種族のどれとも違う。

 この皮膚感とおどろおどろしい外見は、たぶん……。


「魔族?!」


 魔族。

 人では操れない特殊な魔法を駆使し、身体能力は普通の人間を軽く凌駕する。

 知能も高くて人語を話す者も居るらしい。


 人が悪魔と契約した姿とも突然変異で生まれるとも言われ、実際の生態は分かっていない。

 体の特徴としては個々に違う為、一つにまとめるのは無理なのだが、基本的に人に敵対する者と言われている。


 ナンバーズとして魔物に登録されているが、このまま殺すなんて事は僕には出来ない。

 そもそもそんな仕事ではないし、人のような顔を見て殺せるほど達観していない。


「で、結局どうすれば?」


 アギアから目を離すのは少し不安だけど、まず二人を呼びに……。

 いやでも縛られたままで影にでも入られたら厄介だし。


「…………」


 幸い部屋は隣だし、引きずって呼びに行こうかな。

 僕はアギアの足をガシッと掴み、まずアーリアさんの部屋に向かって行った。


 そしてアーリアさんの部屋の前。

 あまり大きな声を出すと、大人しくしているアギアも目を覚ますかもしれない。

 アーリアさんが起きているかもしれないと期待し、軽く扉を叩き声を掛けてみた。


「お姉さん起きていますか。ちょっと緊急の要件があるんですけど」


 扉に耳を傾けるのだけど、お姉さんからの返事はない。

 まだ朝早いし、普通に寝ているのだろうか?

 いや、まさかアギアは僕の部屋に来る前に、寝ているお姉さんに襲い掛かって?!


 慌ててドアノブを捻ると、鍵がかかっていないようでスッと開いた。

 辺りには凄惨に物が転がり、お姉さんは真っ裸にされてうつ伏せで地面に転がっている。


「お、お姉……さん?」


 僕は直ぐに駆け寄り抱きあげようとするのだけど、どうも怪我をしている風ではなさそうだ。

 もしかしたらベッドから転がり落ちただけだったり?

 どうもその可能性が高いようだ。

 流石に裸で寝ている人を起こすのはどうかと思った僕は、今回は見なかった事にしてそっと扉を閉めた。

 気を取り直し、きっと普通に寝ているであろう隣のファラさんの部屋に移動する。


「ファラさん起きてますか? 緊急事態なんで出来れば起きてください。というか起きてください」


 先ほどより少し大きめな声で扉を叩き、扉のノブを捻ってみるのだけど、鍵は普通にかかっているようだ。


「ファラさん聞いてください。僕の部屋に……」


「朝から煩い! もしどうでもいい事で私を起こしたのなら後悔させてやるわよ!」


 扉越しにファラさんの怒鳴り声が聞こえて来る。

 早い時間に起こされて機嫌がよくないらしい。


「いや大変なんですよ。僕の部屋にアギアが来て美少女になっちゃったんです。いやそうじゃなくて、襲われたけど偶然倒せて今縛り上げてるんです! いやいや美少女なのは本当なんですけど!」


 僕は起こったことを正直に打ち明けた。


「そうか、寝ぼけてるのね。そんな事で私を叩き起こして、あんたちょっと後悔させてやるわよ!」


 何一つ信じて貰えない。

 一体なぜ?!

 アギアが目覚めたら不味いし、もう少し声を掛けてみよう。


「僕は寝ぼけてないんですよ。本当なんです! 外に出てくれれば分かるので、早く出て来てください!」


「……いいわよ、行ってやるわよ。あんたを叩きのめす武器を持ってね! 少し用意するからそこで待ってなさい!」


 駄目だ、やはり何も信じてくれていない。

 しかしファラさんが外に出て来てくれれば、一目で状況が分かるだろう。

 僕はファラさんが出て来るのを待とうとアギアの状態を見るのだけど、振り向いた時には剣が顔の横を通り、ファラさんの部屋の扉に突き刺さっていた。


「ぎゃあああああああああああああ!」


 ロープが何時の間にか外れている!?

 縛りが甘かった!?

 それとも何かで切ったのか!?

 驚いたのもつかの間、直ぐにアギアの次の行動が始まった。

 二本目の剣が扉に刺さり、僕の逃げ道を塞いでしまう。

 大きく体を反らし、先ほどのお返しとばかりにアギアの頭が向かって来る。

 来るべき衝撃に備え、僕はギュッと目をつぶった。

 しかし、何故かその衝撃はやってこず、体に温かい物が触れている。


「オマエ、ハヤイ。ワタシ、ヨメナレ」


 片言のように聞こえる言葉は、あの戦闘中に自分より速くなったから嫁にしたいと言っている。

 相手は魔族だけど銀髪金眼の整えられた顔は魅力的に見えた。

 だが、彼女が森で生活していた為か、どうにも鼻につくような臭いが漂う。


「く、臭い。いやでも美人ではあるし……。いやでも洗えばなんとか? だけど魔族だし?」


 少々混乱している僕は、今後起こるであろう色々な事を考え始めた。

 もし彼女と結ばれたら、あの森の中で原始人的な生活が?

 それに賞金首として追われるかもしれない。

 そんな無駄な考えを過ぎらせ、少ない時間が過ぎて行く。


 そう、時間はないのだ。

 もう直ぐこの扉は開き、部屋の中からファラさんが出て来るのだから。


「ハッ、来た!」


 扉越しに、ノブに手が触れた感覚が伝わって来る。

 もしこの状況を見られたら、寝起きで機嫌の悪そうなファラさんにぶん殴られても不思議じゃない。

 外開きの扉に体重をかけ、アギアを突き離そうとその体を押した。

 しかし。


「う、動かない?!」


 相当強く押しているのだけど、戦士でもない僕には押し返せないらしい。


「ちょっと何してるのよ! そこに居るなら退きなさい。扉が開かないじゃないの!」


 そんな状態で、ファラさんの準備が終わってしまったらしい。


「いや、退きたいのは山々なんですけど、こちらにも事情がありまして、もう少しだけ待っていてください」


 退かせられないのなら、このまま下にズレて抜けてしまおう。

 相手は手が使えないからどうにもならないはずだ。


「あんた何隠してるの?! ああもう、無理やり開けてやるわよ!」


 背中に力を込めているけど、扉が少しずつ開き始めた。

 流石は前衛職、アギアにも負けない恐るべき力だ。

 これは急がなければ。


 僕は足の力を緩めて扉とアギアの間からストンと落ちようとするのだけれど、かたい物が僕の股に当たってそれ以上は下がらせてはくれなかった。

 どうやらアギアが片膝を扉に押し当てているらしい。


「不味い不味い不味い不味い不味い!」


 もう扉は人が通れるほど開き、ファラさんの体が出てこようとしていた。

 だが、試練はまだまだ続くらしい。


「あら、クーちゃんったら、一体何をしているのかしら」


 アーリアさんが裸で通路を歩いていたのだ。


「わああああああああ?! 裸で何をしてるんですかお姉さん?!」


「ちょっとクーちゃんの部屋に遊びに行こうかと思って」


 驚き声をあげると、不意に背中の扉から重さが消えた。

 ファラさんが外に出てきてしまったのだ。

 そして三人の女性に見つめられる状態。


「ヨメ、ナレ!」


「お姉さん困っちゃったわ。クーちゃんに先約が居たなんて」


「私を叩き起こしといて、これは一体なんの冗談なのかしら?」


 少女アギアに押さえ付けられ、全く動けない僕。

 鞘付きの剣を振り上げるファラさんと、裸のままで見守っているアーリアさん。

 もう僕の脳では話を整理しきれない。


「クー、私の部屋の前で、一体何やってるのよッ!」


 怒ったファラさんから鞘付きの剣で殴りつけられ、僕とアギアは意識を失ったのだった。


クー・ライズ・ライト (僕)

ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)

スラー・ミスト・レイン(僕の上司)

デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)

 アーリア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)

絶望のアギア   (賞金首・ナンバー9)

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