表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/37

第23話 休日


「お客さま。こちらの商品はオーダーメイドになりますので、後日、お届けに上がる予定となります」

「え?そうなんですか…。どうしましょう、カイリさん」


街一番の賑やかな通りにある雑貨屋でお店の雰囲気にぴったりな棚を見つけ、そのまま勢い込んで店員さんにこれください、とお願いするとそんなふうに言われてしまった。


「そうなんですね。今日、持って帰れるものとばかり思っていました」

「こちらはお見本となります。サイズもお好きなように指定できますよ。一ヶ月ほど、かかってしまいますが…」

「リエル。待ったらいいのではないか。これが気に入ったのだろう?」

「ええ、そうなんですけど…」


今すぐ欲しいです、とわがままを言いそうになるのを口をへの字にして我慢した。こんな、子供みたいではダメだよね。


「店主、なるべく早くお願いしたい。どうも待ちきれないようなので」

「あっ、はい。かしこまりました。出来上がりしだいお届けにあがります!」


いつもは誰にでも丁寧な接し方なのに、カイリさんが強く出ているなんて珍しい。


「リエルがとても、とてもほしそうにしていたので…」


目が合うとふ、と笑われた。見透かされてるみたいで恥ずかしい。


「それではご自宅の場所をこちらに…。奥さま。お二人の新居のほうでよろしいですね?」

「は?」

「え?」


一瞬意味がわからず面食らう。


「ち、違いますちがいます、あの、お店です。お店に、ええと、あちらの通りのパン屋です、ええと、そこへ、えーとえーと…」


ほんの数秒前と打って変わって一気に真っ赤にのぼせてしまったカイリさんの方を見ないように慌てて訂正して手続きを済ませた。逃げるようにしてお店を後にする。


「……、早く届くといいですね」

「そ、そうだな」

「…お金も払ったから、早くきますよね、きっと」

「その通りだな」

「……」

「……」


石畳みの道を、無言でふたり、歩いていく。午後遅い光がさまざまな店先をのんびりと照らしていた。春の気配はまだ先だけど、少しずつ日差しは柔らかくなってきている。


「……寒くないか?リエル」

「…はい、大丈夫です。カイリさんは?」

「俺は、俺たちはもともと寒さに強いんだ」

「そうだったんですね。あ、カイリさんのマント、そのブローチピンがとてもステキだなっていつも見ていました」


彼の胸もとのピンは、見たことのない動物を象ったもののようだ。嵌め込まれた紫色の宝石が日差しにゆるく瞬く。


「ああ、これは、俺たちの一族の紋章だ。頭領には大勢の息子がいるから、国ではわりと目にする」

「じゃあ、イリヤさんも同じものを?」

「ああそうだ。普段身につけているかどうかは分からないが。これはいざとなると護りにもなるんだが、くそダサいと前から言っていたからな」

「なんだか、イリヤさんて、面白い方ですね」

「そうだな、兄にはいろいろ敵わないと思うことが多いが、自分の意思が強いのは羨ましいな」


あ、と彼が前方に目を凝らした。


「リエル、あそこで市のようなものをやっている。向こうの広場だ。見てみないか?腹が減っただろう」

「ほんとうだ…いつものおやつ兼お昼の時間からだいぶ経っています。どうりで、さっきからお腹がぐうぐうなっていたはずです」

「君はわりと、よく食べるようになった。はじめは驚いたんだ。あまりに少食だから」

「カイリさんと比べたら、誰でも少食だと思いますよ?いちばんうえの兄様だって、そんなに食べなかったですもの」


無言で穏やかに頷く彼に、少し、兄様の話をした。いつもわたしをからかって泣かせて、父様に怒られていた兄様のこと。わたしを森へ置いていくときに、ごつごつとした手で痛いほど抱きしめてくれた。彼を見上げながら話していると悲しい気持ちと、柔らかなきもち、どちらも湧いてくる。


広場に並ぶ市が目の前に見えてきたのに、もうすこし、聞いてほしいとさえ思えてきたのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ