第11話
「精霊界?どうかしたのか?」
「いや、その、偶然知り合った女性が精霊族で…」
「しりあいぃぃ??」
思わず眼を背ける。見なくても、イリヤの口の端がにんまり上がったのがわかった。
「知り合いねえ……まっ、いいや。精霊界はついこの間でかい戦争が終わったとこだ。あいつら何千年も争いを繰り返してるから、今回もいつまでもつかわかんねえけどな」
「戦争が起きていたのは知っていたが、終結したのか。どこかの種族が精霊王を名乗ったんだな」
イリヤは声を落とす。彼はいろいろと情報通でもあった。
「ああ。青だったかな、二大勢力の一方の王族が全員殺されたらしい」
「王族全員か。酷いな……。彼らは精霊王の名を得るため、何千年も種族間の争いを続けると習ったな。我ら妖界の種族とは違い、同じ精霊同士なのに」
リエルは王族だったと打ち明けてくれたが、今回の戦争に巻き込まれたのだろうか?たったひとりで人間界に来たようだったし、あの態度…。彼女に何があったのか気になった。
「種族が違えば風習も違うだろうし、妖界だってかつては酷い争いを経験してる。人間界だってそうだ。俺たちの生きてる世界は、どこも血塗られてるんだよ」
イリヤは社交的だし商売柄、様々な世界と取引もありその分いろいろ経験してきている。たまにこうして冷めた眼で人生を見ることがあった。俺にはあまり、ピンとこないが。
「戦争は終わったが、あっちはまだまだ混乱してて商売もしにくいから、あと数年はバタバタするだろな」
「そうか…。ありがとう。参考になった」
イリヤは面白そうな目でこちらをみていたが、やがてふ、と小さく笑うと
「ま、オトモダチができそうなら、こっちでもやりがいがあるってもんだな。俺も、心配しすぎだったみてえだし」
ま、元気でやれよと俺の肩を乱暴にたたき、兄は窓から身を乗り出した。
「じゃあな、可愛い弟。俺も、店に顔出して帰るわ」
「……。ありがとう、兄さん」
素直なお前も気持ちわりーな!と笑いながら、イリヤは夕闇の中へと消えていった。




