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第9話

 小脇に抱えた茶色い紙袋は、歩くたびにかさかさと軽い音を立てる。既に街灯が灯り始めていて、まだ夕陽の名残が眩しいくらいだというのに、この街は夜の準備を始めている。薄いマントの合わせ目に寒風が入りこんできて、身を縮めるようにして精霊族の娘の店を後にした。


「明日は違う味のパンを焼きましょう」


亜麻色の髪をした娘は、泣きはらして目尻を真っ赤にしながらも生真面目に店のレシピノートをひとつひとつ指差しながら確認していた。昨日より少しだけ、彼女の青く美しい瞳に親しみが籠もったように思えた。


昨日、ドアの前で出会った彼女はまったくの無表情だったが、なぜか冷たい雰囲気の女性には見えなかった。迷子になって途方に暮れている、という表現がリエルにはぴったりだ。


感情の起伏がない性質かとも思ったが、今日のあの泣きかたを見ると本来の彼女は、とても表情豊かなのかもしれない。リエルの生まれ故郷での記憶は幸せなものばかりではなかったらしい。それを思うと胸が痛んだ。


 街灯が照らす賑やかな酒場や賭場を通り過ぎ、狭い小道へと入る。薄暗い道の向こうに、寝床にしている安宿の貧弱な看板が見えてきた。身体を清め休めるためだけに利用しているとはいえ、粗雑で清潔感とは程遠い部屋を思うと自然とため息が漏れる。


だが、この宿で偶然見つけた仕事募集の張り紙があの店での出会いを招いてくれたのだと思うと、感謝の念さえ湧いてくる。おそらく前の店主が募集したものなのだろう。だが、約束通り二日間。明日も彼女に会えると思うと、冷たい風も心地よく感じられた。



宿の階段をみしみしといわせながら二階へ上がる。宿主がケチなのかとうに灯りは消され、廊下も真っ暗だ。

多少夜目は効くので暗闇のなかあてがわれている部屋へ向かう。軋んだドアを開けると、なぜか窓が全開になっていた。逆光に照らされて、黒い影がひとつ。


「よう、カイリ。こっちはどうだ?稼げそうか?」


窓枠に腰掛けていた人物は、夕闇を背景に二本の角を煌めかせた。


✳︎あと二話、カイリの視点です。よろしくお願いします。

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