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田中さんは変な人

 例えば、目の前に卵が一つ置いてあると仮定しよう。その卵は漂白剤に曝されたかのように真っ白で、太陽の光をしています。


 例えば、そこに頭のおかしい人がいるとして、果たしてその人は本当に頭がおかしいのだろうか。貴方が彼を頭のおかしい人間だと思うのならば、そこには明確な根拠があるはずだ。それは何だ?

 一体どこがどうおかしいのだろうか。それが何故おかしいのだろうか。そして誰かが貴方に言う。


「貴方は頭がおかしい」


「……? どうしてですか?」


「それは君が“自分は頭のおかしい人間だ”という認識を持ち合わせていないからだよ」


「なるほど、そうですか。ところでお名前をお伺いしても?」


「そういう所だよ」


 全く頭のおかしい人間はこれだから困る。僕はただコロンブスの卵の非正当性を指摘しただけだというのに。ブータンはいつまで経ってもブータンだよね。


「なるほど、分かりました」


「ならいい」


 あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ、か、か、か、


「それでは、私について来てはくれませんか。是非お礼がしたいのです」


 ののの?何を宣い曰わくぱーりぃしているのだね此のしわくちゃの脳。炊飯器に放り込んでやろうか。


「私は貴方に恩を手渡したのですよ。何故何故にそんな私に更に追い打ちをかけようとするのですか。傷口にカッターナイフをねじ込んでぐちょちょ、ですよ」


「すみません、私愚直な性格でして」


「それならそうと名刺を手渡しなさい。“私はこういう思考をしているものですが”とね。社会人としての礼儀を手に入れているのかね君は」


「すみません私上流階級の者でして。ゴミ共の上に立つ者としての教育をこの身に刻印されてきたのです」


「さっきからすみませんすみませんとあゃまればなんでもゆるされると???」


 うるさいなあレスポンスが速いんだよもっとゆっくり会話してくれあぁ神様。自転車泥棒が目の前を通り過ぎた。私は何もできない。情報量が少なすぎるというのも考えものだ。人生をまともに歩めない。


人を殺したからってなんだってんだ、畜生。


「そういえば、貴方の登録番号はどんなでしたっけ」


「田中です。はい」


 ああ、そうそう、そんなかんじの。田中ね、田中。なんか田中っぽいな、田中。


 たすけて、世界が僕の手から零れおちる。ダンボールを欲しがっていたんだけど意外と気づかれないものだな。


 休めるなあ。


 嬉しいなあ。


 疲れが、取れるんだろうなあ。


 じゃん、じゃっぱ、しーでぃどでぃど。


 本当に貴方が望むのならば捨ててあげてもいい。


 すると、突如空から騎士が降ってきた。女だ。女は家事でもしてればいい。ちなこれ常識ね。滋賀に雨がフル。君たちとは生きている世界が違うのだよ。っつーの。


女騎士はなんでもないようにスタッと地面に降り立った。トンッだったかもしれない。あの、物理法則って知ってます?俺は知らない。


「姫様、ご無事ですか!?」


「見りゃ分かんだろ」


 何故わざわざ目の前にある事実を復唱するのか。それが人間って生きものだからさ。みんなそうやって生きている。俺みたいにね。


「む、なんだ貴様は」


 女騎士はこちらを振り返って言った。いいね、話が通じそうな顔をしている。それに怒りっぽくない。憤怒は大罪なり。


「旅人だ。そこらへんに転がってるのは大体俺が殺した奴だ」


「ふむ。ということは、貴方が姫様を救ってくれたということか」


「まあ、そうだね。というか田中さん、姫様だったの?」


「そうですわよ」


 なるほど、てっきりネカマだと思っていたが、姫様か。嫌だな。


「正確には侯爵令嬢だ」


「令嬢の意味知ってる?」


 姫様じゃなかったのか。それならいいや。あれ、ちがう、姫様なのか? というか姫ってなんだ姫って。姫姫しいな。


 あぁーあ、空から宇宙船とか降ってこないかなあ。見事な秋晴れだ。いや、夏晴れ?春晴れかもしれない。


「今の季節って分かるかい?」


「季節……何だそれは」


「日本語通じないんですか?」


 なるほど、季節の概念がないのかもしれない。可哀想な奴らだ。どうせ彼女らの頭の中はスッカスカさ。バカなんだよ、バカ。


「つかぬ事を伺うが、旅人どの。貴方は何処から来たのでしょうか」


 あぁー、そういうことね。敬語はなしと。まあいいよ。ぼくは貴方の仕える人を守ってあげたわけだけど。別に殺してもいいんだけど。そのへん分かってる上でのことだったら、別にいいよ。


 あー、そうだな。そういうことなら、ちょっと


 僕はラーメンを出してあげた。


「食べていいよ」


 声が反響してぐわんぐわんして左耳の中にまだ残滓が残っているけど、それは向こうも同じだ。僕たちは一緒に濃厚魚介豚骨ラーメンを食べた。野外で食べるラーメンは美味しいものだ。風が涼しい……。


「ちょっと血の匂いが気になりますね」


 田中さんが言った。風に運ばれて来たのだろう。そのうち全てが風に運ばれて、この果てしない大地のどこかへ散らばってゆくのだ。そうしたらもう匂いなんて気にならない。そんなものは存在しないのだから。


 女騎士さんは黙々とラーメンを啜っていた。そういえば箸使えるんだな、二人共。


 ばらははははは。おかしいおかしい。アリストテレかしい。


 放課後の存在しない教室よ。薄闇に紛れて命が消える。光が差している。薄い光が柔らかく流れる。


 おもしろおかしい日々を。薄っぺらな幸せを。我々の知らない世界を、私は知っている。


 この世界は美しい。この私は美しい。だれがなんと言おうとも、私がどんな思考をしようとも、結局、どうしようもないほどに、私の人生は美しいのだ。


 私の生き様を見よ。醜い命を見よ。その醜き美しさに震えろ。私だけがわかっている。ならば、私が示そう。罪深き人たちよ。あなたがたは赦された。

癒しが必要だ

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