馬車イベント発生中!
細い道を歩くことどれだけの時間が経ったというのか分からないが大きな道へ合流した。
乾いた大地を乾いた風が吹き抜ける。萎びた茶色の草原の、独特の芳香が鼻腔をくすぐる。上を見上げると、異世界の高い空を真っ白の雲がゆったりと流れていた。癒される。ここからだと見ていて飽きないくらいの程よい速さに見えるが、実際にはあり得ない速さの暴風が遥か上では吹き荒れているのだろう。ジェット気流っていうやつ?
でも実際行ってみたら大したことなさそうな気もするよね。行ったことないんだから勝手なことは言えないよね。特にここは異世界だもんね。たぶんだけどね。
そんなことをつらつらつらつら考えーつつ歩いていると、目の前に数台の馬車が見えた。馬車を引くのは勿論、お馬さんである。多分サラブレッド(適当)
馬車は山賊を彷彿とさせる身なりの汚い漢共に囲まれていた。どうやら馬をやられて動けずにいるらしい。動物虐待はよくないですよ。
馬車の周囲には護衛なのか全身鎧の騎士達が剣を抜いて戦闘態勢に入っていた。数人やられているところを見ると、もうコロシアイは始まっているらしい。
周りに人は居ない。意外と大きな道だし整備もそれなりだが川沿いにある訳でもなく中継地点も見当たらないってことは普段使う人の居ない道なのだろう。何という税金の無駄遣い。いや、過去の名残とかそういうものだろうか。まぁとにかくこの場に居合わせたのは僕ただ一人らしい。
僕は一人、地味にこの世界に来て初めて出会うヒトガタの生命体に感動していた。
「灼熱宮に灯るとこしえの篝火よ、その鄒弱@縺�鬘�を以て幾星霜の驢懊>逕溷多を照らさん。」
「ぽむぽむ布丁の大かじきまかじき!!!」
ボロボロの服に禿げた頭頂部がチャームポイントな一人の山賊風の男が、そんな呪文を唱えてえらく高そうな黒い杖を馬車へと向ける。
するとその直後、馬車を中心に巨大な火柱が立ち昇ったかと思うと炎はまたたく間に膨れ上がり、火柱を中心とした半径1キロメートル程の地は一瞬にして火の海へと姿を変えた。
「チッ、青の封樹石か」
魔法?を放った男が苛立たしげに呟く。馬車は半透明の巨大な球体に包まれ、その内側は炎の影響を一切受けていなかった。
だがそれは山賊側も同じことだ。ハゲの詠唱と同時にその隣の長髪の男もボソボソと何か呟いていたから、恐らくそいつの張った結界魔法か何かだろう。なんとなくわかる。なんでだ?おかしいななな。
パリン、となんとも欲情をそそる音と共に両者の結界?が割れ、崩れ去っていく。
すると今度は汚れた甲冑(赤っぽい変な色をしている。ファンタジー金属?)を着込んだ山賊側の男が歩み出る。遠目からでも頭一つ抜けて見える巨躯の持ち主だ。そして、その男に息を合わせるようにして5、6人の男が剣や槍を抜いて馬車へと構えた。1、2、3、4、5……5人だな。先頭の甲冑男を合わせて6人。賊の人数は大体その倍だから12人ってとこか。
甲冑の男は背中の鞘から大剣を抜き放つと、馬車へと駆けてゆく。それに続いて後続の男たちも走り出した。
先頭の甲冑男と馬車の護衛についていた騎士らしき男が衝突する。一合目、騎士は甲冑男の重い一撃に仰け反ってバランスを崩し、続く甲冑男の剣で両の手首をまとめて落とされた。その隙に他の騎士達が両横から甲冑に迫るが、甲冑男は右手側の騎士を乱暴に切り払うとそのまま馬車に向かって進む。もう一人の騎士は後ろに続いていた賊の槍に腹を貫かれて地に伏せた。
甲冑男は後ろを振り返ることもせず騎士たちに向かって突撃していく。騎士たちはその気迫に一瞬たじろぎ、僕はその甲冑男の首を手に持った剣でストンと落とした。
背の高い甲冑男だったが、首の位置は大体僕の胸の辺りだったので比較的楽に切れた気がする。異世界に来て背も伸びたのかな?まぁ人外だしね。
ちなみに今僕が手にしている剣は後ろの方で別の山賊さんから拝借したものだ。首トンしようと思ったらうっかり頚椎を折ってしまったので、持ち主がいなくなって寂しいであろう長剣を頂いてきたという訳だ。
あと、更に後方で何かブツブツ呟いていた魔法使い?魔術師?的な人たちにはまた魔法を使われてもアレ(アレ)なので永遠にお眠りしてもらった。具体的には腹パンして身体をパンッした。俺の右ストレートは世界を獲れるかもしれない。そうやって色々コロしていって、最後に甲冑男を殺ったので賊は全員倒したことになるのかな。
「な、何者だ!?」
護衛の騎士たちが俺に向けて剣を構える、僕はそいつらを剣の一振りで上半身と下半身に分断……なんてことはしない。僕は、自分で言うのも何だが、結構優しい人間だと思ウ。無益な殺生は決してしないのだ。
「僕はたまたまそこを通り掛かっただけの旅人です。どどどどうぞよしなに。」
そう言って両手を揚げて怪しい者ではないことをアピールする。僕の後ろでは倒した賊たちが各々色んなポーズで血溜まりに沈んでいる筈だ。それぞれ個性があってこれがまた面白いのだが、取り敢えず僕が良い人なのは分かってもらえるだろう。
騎士達は僕に攻撃の意思がないのを確認すると、ひとまず剣を降ろしてくれた。警戒はしているようだけど、敵の敵は味方ってね。中には戦闘が終わってホッとしている者もいるようだ。
「お、お待ち下さいお嬢様!!」
ん? なんだ?
うるさい五月蠅い煩いなぁ、と騒がしい周波数を発する諸音の根源に目を向けると、一際豪華な一台の馬車から一人の少女が降りて来るところだった。
そのパツキンの少女は騎士の静止の言葉を一蹴して僕に一礼し、言葉を紡いだ。
「この度はわたくし達を救っていただきありがとうございます。わたくしの名はミリーシェ・田中・シュプレイン。この場を代表して感謝の意を述べさせていただきたく思います。どうぞよしなに。」
……うげぇ。
おめでとうございます