hana
-hana-
あの花を見た君と人生最後の夢を見る
作者 うゆのばし
また来てしまった。この舞台。
この横浜みなとみらいホール。
俺の思い…音…全ての人に…
届け・届け・届け…
届け。
俺を舞台に呼び戻してくれた人。
神さま…
もし…願いが叶うなら。
もう一度…
もう一度あいつと一緒に…
ピアノを弾きたい。
届け…
「あの日、僕は人生最後の夢を見た…」
第一章 いつも通りの日常
「おーい蓮。飯食うべ
なんだ…また伊吹の事見てたのか」
「バーローんなんじゃねーよ翔。早よ飯いくべ。」
いつもの昼休み。いつものだる絡み。
俺の高校生活は何も変わらない。そう思っていた…あの頃は…まだ。
「ほれ焦っとるやん」
「だ か ら んなんじゃねーて」
「伊吹さん可愛いもんな〜」
「うるさいわ。飯行くぞ。」
「へいへい…!」
おれの名前は橘 蓮。
どちらかと言えば陰気な性格で物静か…だと思っている。
うるさいのは…少し苦手だ。
趣味は料理を作る事。
嫌いな奴はだる絡みしてくる幼馴染。
そんでこのうっさいのが鬼灯 翔。
小学校からの腐れ縁で親友っつか幼馴染ってやつ。
みんなは翔とかオニとか呼んでる。
ちなみに、さっき話しで出てきたのは伊吹 梓。
俺の好きな人だ…。
翔にはなぜかバレているけど。
昼休み。
友達が少ない俺は、大体幼馴染の翔と食べる。
別に友達がいないわけではない。
少ないのだ。人間関係は広く・浅く。
これが一番だ。
翔は例外だ。
小さい頃から隣にいたので兄弟のようなものだ。
「おまえさ、いつになったら告るの?」
「ゲホゲホ」
咳込む俺をニマニマと眺めてる翔。
「は?なんでそんな話になる…」
「だってさ…おまえが片思い初めてもう二年だろ?」
そうだ。
俺が梓の事を好きになったのは…中学2年の時。
夏祭り…だったかな。
「うっ…うっさいな!余計なお世話じゃ。
そんな事より翔は好きな人とかいないんか?」
「俺は…まぁ…いないわ。」
「絶対うっそー。この青春時代に好きな人の一人くらいいるはずだ。」
「俺は…いないんじゃなくて 作らないんだよ」
「出た、実は俺モテますよ〜的なやつだろ。ないない」
「あるわ。ボケェ」
そんなくだらない話をしてると後方から誰かやってきた。
「なーーーんの話してるん?」
そいつは、後ろからやってくると、人の弁当箱から卵焼きを手に取り、ヒョィっと食べてしまった。
「あっ…!おれの最後の卵焼き。この…コスモス」
「誰がコスモスじゃ〜」
容赦ない少し低めの女の子の声が響き渡る。
今、勝手に卵焼きを食べたこの女は「秋 桜」
こいつもまぁ幼馴染ってやつだ。
親父がロシア人で母親が日本人のハーフってやつだ。
学校では可愛いとか言われてるみたいだけど…
全く恋愛感情に発展したことはない。
あだ名はコスモス。
なぜなら秋桜と書いてコスモスと読むからだ。
本人はこのあだ名は嫌いみたいで、呼ぶ人はほとんどいない。
普段はこの三人でバカやって遊んでる高校一年生。
そしてここは北海道当別町。
周りには何にもない田舎だ!
橘 蓮
たちばな れん
秋 桜
あき さくら
鬼灯 翔
ほおづき かける
蓮「帰るか…」
おれは大抵一人で帰る。
なぜなら桜も翔も部活があるからだ。
桜は陸上 翔はテニスをやっている。
ん?なぜおれは入ってないって?
そんなの決まっている。
めんどくさいからだ。
その点、帰宅部はいい。
自分の好きな時に好きな事を出来て、好きな時間に帰ることができる。
田舎は遠い…チャリがないとやっていけない… 。
チャリを飛ばして15分。
目星になる物はたった一つのコンビニだけ…
家に帰ってからやる事も決まっている!
犬に餌をやり、ご飯を作る…うちは母一人の家だ… 父親は小さい頃に他界した。
それから母は女手一つで育ててくれている。 つまり家には常に一人だ。
大体桜か翔が部活終わりに家に来る…(飯を食べに)
「たっだいまー」
「おっかえりーじゃねーよ、なにしに来たんや!」
「えーご飯食べに来た〜腹減ったわ〜」
今日は翔か…よりによってめんどい方が来た…
「俺ん家はお前の間食にあるわけじゃねー!」
「お前、どーせまた一人だろ。
二人分も大して変わらんって前言ってたやん〜」
「作る方にもなってくれよ…
女ならまだしもに翔だろ…めっちゃ虚しいやん…」
「なら梓ちゃんに作ると思ってやれよ」
「俺は…」
なぜか蓮の頭の中にはエプロン姿の梓がよぎる。
「おぉ…何をご想像してるのかな。まさかHな…」
蓮を見てニヤける翔はズルそうな顔をしている。
「こんっの。ばかやろ」
「辞めろって蓮。冗談だって。じょうだん」
そんなくだらない話をしていると。
また…聞き覚えのある嫌な声が…。
「たっだいま〜蓮〜ご〜飯!」
「さいあく」
最悪の展開だ…
「蓮くんさっき…女の分なら作るって言ってたよね。
それならちょっとばかし多めに作ってくれても…」
「…しゃーねーな橘食堂開店じゃ〜」
「よっしゃ。もう飯いらないって言っちゃってたんだ」
「あん?このバカが」
冷蔵庫の中を見て、今日作る献立を考える。
野菜炒めミックス…もやしは…ある。肉は…今日の帰りに買ってきた特売品がある…と。
「野菜炒めでいーか?」
「なんでもいいからお腹すいたよ。蓮〜お腹すいた〜」
ほんと桜はガキみたいだな〜
「はいはい…今から作りますよ」
それからものの10分ほどで野菜炒めが出来た。
幼い頃から料理をしていた蓮は、それと並行して簡単に味噌汁まで作っていた。
「いっただっきまーす」
流石は運動部といったもので、多めに作った野菜炒めとお米がどんどん無くなっていく。
「てか、あんたらさ、結局昼なに話しての?」
「こっちだって女に話せない話だってあんだよ」
「…それって蓮が梓の事好きってやつ?」
「…なんで知ってんの?」
キッと翔の方を睨む蓮。
首を横に振る翔。
その瞬間桜が笑った。
「何年一緒にいると思ってんのさ。そんなの結構前から知ってるよ」
「まじか…まじかよ〜」
なんで知ってんねん…幼馴染は怖い…と実感する蓮。
?「たっだいま〜」
「オカン!今日早かったな。なにあったん」
いつもは遅く帰ってくるはずの蓮の母親が帰ってきた。
見た目は若く見えるが、中身は40代後半という…
翔と桜は魔女と時々呼ぶくらいに、若く見えるらしい。
「あらあらいらっしゃい!翔に桜」
「おばさん!おじゃましてます」
「おばさん帰って来たし、そろそろおいとましますか」
そう言うと、立ち上がり帰る準備を始める。
翔はもう少し居たいのか、しぶしぶと仕度をしている。
「んじゃまた明日。今日も橘食堂うまかったぞ〜」
「当たり前じゃ。二度と来るな。飯ドロボウ〜」
「じゃぁなー」
「バイバーイ…うわっ」
そういうと、いつものように桜は翔の自転車の後ろに乗り手を振っている。
二人の様子からバランスを崩して笑っているのが見える。
「青春ですねぇ〜」
あいつらお似合いだと思うけどな…。
その言葉を一人心の中に収めた蓮。
そんな事を思い、家に入ると母親が皿を洗っている。
「ちょちょ…いいって俺が洗うから」
「えーいいじゃない…たまには。」
「おかんは仕事してきたんだから、黙って休んでればいいの」
「もー蓮くんのケチ〜。それよりお腹すいたな〜。桜ちゃんたちはおいしそうなの食べてたな…」
「…野菜炒め。具材残ってるけど…食べる?」
「食べまーす」
「ならあっちでテレビでも見ててください」
「はーい」
そう言うと母は子供のようにはしゃぎながらリビングのテレビの方に行く。
「蓮〜明日家にね、母さんの友達の娘さんがね、来ることになってるの…ね〜聞いてる〜??」
「ん〜そうなんだ」
どーせ遊びに来るだけだな…。
少し家の中キレイにしとくか。特に階段を中心に。
「ピアノの部屋。少し片しといてね」
「…あそこは使ってないからキレイだよ…」
ピアノ…俺の人生の全てだったもの。
あそこの部屋にはもう…近づかない。
近づけない。
あそこには悲しい思い出しかない。
?「そんな事ないよ」
「なんだ?なんだ?」
?「そこには…な思い出も…の思い…」
途切れ途切れで聞こえない何者かの声。
「疲れてんだな…早く掃除して寝よう」
「あの子にこれから住むって事言い忘れちゃった…
まぁっいっか!あの子言ったらうるさそうだし」
掃除を終え、自分の部屋に行く。
部屋の扉の前で立ち止まり、一つ横の部屋に入る。
ピアノ部屋だ。約6年間ほぼ誰も触っていない。
少しの埃の匂い。本棚2つ分はあろう楽譜の山。
なにも変わってない。
この部屋だけ時が流れていない。止まっている。
ここは見せないからいいか。
もう寝よう。さっき変な声も聞こえたし。
布団に入りながら、よく考える。
あの声…どこかで…。
明日の朝、翔にでも相談するか。
次の日 学校に転校生がきた!
続く…