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いつも僕は不思議な夢を見る。
ぷかぷか、ぷかぷか。
ふわふわ、ふわふわ。
温もりはあるけどとっても冷たい。
なんかへんてこりんな夢。
身を任せてゆっとり、うっとり眠る。
大草原にいるような、海にいるような、山にいるような、全てが入り交じった感覚。
そこで僕は旅をする。
モンスターに会ったり、お化けに追いかけられたり。
花畑だったり綺麗な町に行ったり。
いつも違う場所を旅するけど、決まって隣に女の子がいる。
その子はいつも上を見上げて涙を流す。
その視線の先には、空に浮かぶ大きな島。
今はもう寂れた浮遊都市、アルゲイン。
まだそこで旅をしたことはない。
というより、出来ない、のかもしれない。
それだけ神秘的な場所なのだろう。
だけど冒険心は止められない。
夢を見る度に試行錯誤を繰り返して島への道を切り開いていく。
時にモンスターに高く積み上げたレンガを壊されたり、襲ってきたりと色々邪魔が入ったがそれでも冒険心が薄れることは無かった。
隣の女の子は島が近づくにつれて大粒の涙を光らせる。
女の子が泣く理由も知りたかった。
そして、何日も不思議な夢を見たある日、ついにその時がきた。
島へ一歩踏み出す。
しかし、そこはただ森だけが広がっている世界だった。
森以外なにもない、殺風景な光景。
想像よりはるかに違っていた。
私が思っていたのとは、全然違っていた。
もう一歩踏み出す。何も起きない。
どんどん進んでいく。何も起きない。
やがて森の中心部に到達すると、青白く光る石を見つけた。
石は綺麗な四角で、上部が丸くくりぬかれている。
どうやらくりぬかれている部分が光っているようだ。
しばらく石を見ていると、不意に少女が口を開いた。
「ついにここまで来たのね」
「え?」
「あなたがここに来たからには、言わなきゃいけない事があるわ。……ここは、決して夢の中じゃないわ」
「え?」
突然の事態に頭がこんがらがる。
「詳しく言うと、ここが現実で、あなたが現実だと思っていたあっちの世界は夢……というかそもそも存在していないわ」
少女は続ける。
「あなたが現実だと思っていたあっちの世界……まぁ夢、としましょうか。夢はこの世界の死者の記憶、体験、経験したことを凝縮させたものでしかないの。つまり、あなたが過ごしていた世界は偽物。夢は夢でしかないわ」
「それって、つまり僕が皆と笑ったり、泣いたりした日々はすべてムダだったってことになるの?」
「まぁムダではないでしょうけど、無意味で無価値ね」
「そんな……」
今まで過ごして、笑ったり、泣いたり、喧嘩したり、遊んだりした世界が偽物……というか存在すらしていない……!?
少女は青白く光る石に手を置いた。
「この石があなたに夢を見させている。この石を壊せば、死者の記憶によって苦しむ事はないわ。でもそかわりに、夢の事を全て忘れる。それでも良いなら壊しなさい」
「すべてって……夢で起きたことすべて?」
「ええ。夢を見ていたこと事態忘れるわ。夢の存在すらも」
確かに辛い事や嫌な事は沢山あった。でも忘れていいモノではない。
「壊したく無いなら、壊さなければいい話よ。好きになさい」
いくら夢でもかけがえのない日々だ。
壊さなくてもいいのなら壊したくは無い。
「本当は話したくなかったんだけどね……。君がここまできちゃったから……。」
急に少女が堅苦しい話し方を止めて、呟いた。
なるほど。真実を教えたく無くて泣いていた訳か…。
「さあ、どうするの?」
僕は……。
「辛い、嫌な思い出も全部ひっくるめて大切なものだから。出来れば、壊したくは無い」
「あぁ、そう。死者の悲しみや苦しみを味わうとしても?」
「うん」
「あらかた予想はしていたけどね」
少女は可憐な花の様に笑った。
「私はイフェイオン。よろしくね、私のご主人様」