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エルフはJK

 ここは東京都八王子市の外れ、こじゃれたアパート「しじむら荘」。


 ──から、俺は車で移動するところだ。


 ちなみにうちに駐車場はない。アパートの敷地内で、俺の車だけひっそり置いている。

 目の前の空き地さえ、借りるなり買うなりできりゃいいんだが──と、言ってる場合じゃなかった。


「客を待たせるわけにはいかないからな」


 ポンコツにキーを差し込み、エンジンをかけて出発する。


「たく、クソババァめ……」


 しじむら荘の物件情報は、インターネットには載せていない。

 今時? と思われるかもしれないが……最初の頃、全国展開している不動産サイトに任せていたときは酷かった。人は来るには来るが、態度は悪いし入居にも結びつかない。多忙になっても金は入らず、逆に金を取られる……ということでやめてしまった。

 ガウだけだな、インターネットで入居が決まったのは。


 ともかく、今は駅近くの小さな不動産屋の婆ちゃんにしか仲介を頼んでいない。

 つまり、婆ちゃんから電話があったら、客が来たってことだ。俺は今朝だってワンコールで出た。


 ◇ ◇ ◇


「客か!?」

『そうがっつきなさんな、しじむらさん』


 俺の名前はしじむらじゃないが、今はどうでもいい。


『まあ客だがね、もう少し労りや感謝の気持ちを持って出たらどうだい。余裕がなくてみっともないよ』

「してるしてる、感謝してるって」

『まったく、大変なんだよ? お前さんのいう条件は』


 はぁー、と大きなため息が聞こえてくる。


『美人の若い娘だけを紹介してくれだなんて』


「ちょっとマテ」


 大いに待て。


「何だよその条件は! そんなこと言ってないし──っていうかそれじゃ俺がハーレム作ろうとしてる変態みたいじゃねーか!」

『あたしゃ、お前さんの気持ちを汲んでやっただけだよ』

「小さじ一杯も汲めてねえよ!?」


 確かに学生や若い人を応援したいから優先してくれとは言った。

 だが別に女性専用というわけじゃないし、年齢制限もないし、顔面審査をすることだってない。


 というかそもそも、そんな選り好みをしていたら金が入ってこないわけで──


『じゃあ、やめるかい? 若くて美人な娘さんなんだが』

「ぜひお願いします」


 いや美人だからとかじゃなく、単純に久しぶりの客だからでだな。


「ちょうどひと部屋リフォームが終わったところだし、いつでも見にきてもらっていいぜ」

『それなんだがね、内覧、お前さんが送迎しておくれ』


 は?


『あたしゃ別の客の対応があって、車を出せないんだ』

「いやいや、そこはそっちの仕事──」

『じゃあ断るかね』

「今から行く」


 電話口からひとの悪い笑い声がする。


『事務所は開けとくよ。客にも事情は説明しといてやるから、急いで来な』


 通話が切れ──俺は歯ぎしりをした。


「あんの──クソババァ……!」


 ◇ ◇ ◇


「いやあ、どうもお待たせしました」


 営業スマイルを作って小さな事務所に駆け込む。

 奥を向いて座っているのは、二人組の女だった。


 ──っていうか、制服だな。学校の。なんだ、JKか。

 学生っていうのは大学生からのことを言ったつもりだったんだが──まあいいか、客は客だ。


「お婆さんから聞いてるかな? 俺がしじむら荘の大家だ」


 向かいの席に座りながら言うと、二人はぺこりと頭を下げた。


「よろしくお願いします」


 そして顔をあげて──俺は──


「またエルフかよ!?」


 思わず叫んでいた。

 客の二人は──どこからどう見てもエルフだった。特に耳が。


「はい?」

「あ、いや──」


 俺は──目をそらして咳払いする。


 客はエルフだった。まあこれはもうしかたない、なんかそういう星の巡りなんだろう。

 問題はこの二人が──ギャルだってことだ。


 夏服をさらに限界まで短くしたスカート、第二ボタンまで開けたシャツ。

 片方は金髪に黒い肌──ダークエルフってやつなのかただの肌を焼いているエルフなのかはわからんが、とにかくそのうえ、じゃらじゃらと装飾品を耳や首や腕から下げている。

 ビッチだな、間違いない。学生時代、こういうやつからよくからかわれた。正直言って苦手だ。


 もう片方は、前髪ぱっつんの日本人形のような艶々した黒髪。めちゃくちゃぴっちりとストレートに顎先までで整えてある。

 これだけだとお嬢様のように聞こえるだろう。だが服装はビッチと同じだ。装飾品はないが──つまり、こいつは清楚系ビッチというやつだ。男を油断させて搾取する卑怯なやつだ。ソースは二組の山田。そして俺は山田が嫌いだ。


 というより──怖い。

 逃げ帰りたい。

 この二人と一緒にいるだけで警察に通報されそうだ。


「あのォ、いいですか?」


 肌が黒い方が言う──よくない。俺を見逃してくれ。


「ティーちゃん、違うよ」


 肌が白い方が割って入った。そして、俺を睨み付けてくる。


 ──や、やられる……!?


「ちゃんと、名乗らないと」


 ──え?


 ◇ ◇ ◇


「アタシがティヌー。こっちはエキル。二学期からこっちの学校に通うんでェ、ルームシェアできるとこを探してるんです」


 金髪黒肌の方──ティヌーが律儀に名乗り、黒髪白肌の方──エキルがうなずいて肯定した。


「あ、ああ、よろしく──」


 俺が戸惑っていると、エキルがじっとこちらを見ながら言った。


「不動産屋さんに、しじむら荘さんならいいんじゃないかと勧められて、それで内覧をお願いしたんです。ご迷惑でなければ、ですが……」

「──なるほど」


 ──そうだ。

 よく考えたら、俺は大家なのだ。

 俺が許さないとアパートには住めないのだ。


 気が楽になってきた。問題があったら追い出せばいいしな、うん。


「わかった、ルームシェアはオーケーだ。内覧もこれから連れて行く。だがその前に一応、いくつか重要な話があるので聞いてくれ」


 女子高生二人はうなずく。


「まず、うちはペットは小動物まで可としている。定義はいろいろあるが、部屋の外に出す必要がないヤツな。それから、ファミリー可、子供可」

「ペットを飼う予定はないし、子供なんてェいないけど?」

「あとから子供の声がうるさいって苦情を入れられても困るからな。まあとにかく、昼夜問わず不可抗力の騒音は我慢して住んでくれってことだ」


 まあ、まだ子供はいないんだが。

 ……カラニアが子供みたいなもんではあるな。あいつドタバタうるさいし。


「共同生活なら当然だよね」

「そうだね」


 そう割り切れるやつがなかなかいないのが、世知辛いところだ。


「それから駐車場がない。家の前の空き地は別の人のモノだから使えない」

「車、まだ免許取れないよ」

「親とか友達が来るときに使わないよう言っといてくれ」


 住民よりやっかいだからな、関係者ってやつは。


「……文句はないみたいだな。じゃあ、質問は?」

「はい、はい!」


 ティヌーが手を挙げて身を乗り出してくる。

 そうすると制服の胸元から谷間が──ち、違う、とにかく、俺は椅子を引いた。


「この家賃で、バストイレ別、洗濯機置き場が中ってマジですか?」

「……ああ、そうだ」


 俺はうなずいた。


「昔は風呂はバランス釜、トイレは共同、洗濯機置き場は外だったんだけどな。今時、そんな条件で若いやつが来るわけないだろ? だからリフォームしたんだよ」


 こだわり、というか、自分自身がそんなところに住みたくない、というのもあったが。


「すごいなー、よく気が回ったな」

「自分で作業したからな。気づいたところはどんどん直していったまでさ」

「え、自分で!? すごい、マジすごいよ!」

「そ、そうか? ま、こだわりってやつかな」

「ほぉ~!」


 ティヌーはキラキラと目を(たぶんそういうコンタクトレンズだと思うが)輝かせ、エキルも頬を染めてコクコクとうなずく。


 ──なんだ。


 この子たち、いい子だな。ビッチじゃないわ。疑って悪かった、女子高生よ。


「よし、じゃあ内覧行くか。車表に止めてあるから、乗ってくれ」

「わかりました。あ、これ、お婆さんから預かった事務所の鍵です」

「おう、サンキュー」


 事務所の戸締りをして、女子高生を載せたワンボックスをアパートに向かって走らせる。到着し、車を止めて、内覧。リフォーム出来たばかりの部屋にご案内。


「いいとこそうでよかったァ」

「はっはっは、まだ見てもないのに、気が早いぞ」

「いや、もうココしかないんじゃないかって思ってきたよ、ね、エーちゃん」

「そうですね、設備も立派なようですし」

「はっはっは──」


 夏の、暑い日ではあるが──

 エアコンがついてないのは、訊かれていないから黙っていよう。


 ……気づかれないといいな。

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