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第2話 ミレニアその1

ダグラス砦を放棄したマルス達はひとまず遊撃騎士団の本部のあるミレニアまで後退していた。


守るべき砦を放棄した国境警備隊が今後どうなるのかわからないがとにかく隊長の指示で、マルス達は負傷者を病院に運んだり、宿舎を探したりと走り回っていた。


「おう、マルス宿舎は見つかったのか」


副隊長のカネリがマルスを見つけて声を掛けてくる。


「はい、指示通りに副隊長の名前を出したら一発でした。この先のリューズ商会で泊めていただけるそうです」


「そうか、やっと野宿から解放だな」


「正直困ってたんですよあちこち回ってさんざん断られてたんで…

リューズ商会って副隊長の知り合いかなんかですか?」


実際返り血だらけの敗残兵の傭兵なんかどこも泊めたがらないのでマルスは、げんなりしていたのだ。


「まぁ、知り合いというか、知らぬ振り合いっていうか、見てみぬ振り合いっていうか…


とにかく俺様の神謀遠慮、先見の明って奴よ、どうだ恐れ入ったか」


カネリが、腕をくんでこれ見よがしにふんぞり返っている。


「ふ〜ん、先見の明ね〜、へ〜、ほ〜」


意味を理解してマルスは口をへのじにして、ニヤニヤしながらカネリを見る。


国境警備隊の職務上、マルス達は密貿易の取り締まりなどもしていたのだが、何故か見つけても見ていない事になることが時々あったのだ。


「なんだよ、その目は!お前最近なんだかかわいげがなくなってきてるぞ!」


「いえいえ、今晩ベッドで寝れるのは神様カネリ様のおかげです。ははぁ〜」


「おう、わかればよろしい。今から酒場につきあっておなごの前で更に敬うように」


「ただ酒が飲めるなんて、ありがたき幸せ身に余る光栄でございます。ははぁ〜」


「うっ…」


バカなやりとりをしながら二人は笑いながら酒場に向かって歩きだす。


肩肘張らない飄々とした態度のカネリに最初は戸惑ったマルスだが、年齢がカネリ26歳、マルス19歳で話も合うことから今ではすっかり気楽な関係になっている。


「プハァ〜。やっぱり生き延びて飲む酒は最高だな!

なぁ、マルス」


「いや〜本当にうまいです。訳がわからないで、何とか生き延びられたけど今考えたら運が良かったなと思いますよ」


二人はミレニアの酒場でとにもかくにも、無事に生き延びた祝杯をあげていた。


「確かにな〜

…俺達が生き延びたのは隊長のおかげよ、あの引き際の判断の良さはやっぱりスゲーよな。

あれが徹底抗戦で砦にこもってたりしたら。今頃は良くて捕虜、悪けりゃ全滅よ」


カネリがそう言うと、マルスも頷く。すると、カネリに頭を軽く叩かれた、


「すいません嘘です。何で隊長があんなにあっさり退却したんだろうって思ってました」


マルスは、頭を掻きながら正直に答えた。


「あの敵の若い指揮官、セリオスって名乗ってましたが何者なんでしょうね」


マルスが真剣な顔でカネリに問いかける。


「俺様の極秘メモによるとだな…」


カネリが懐から黒い手帳を取り出してくる、マルスが覗き込むと何やらびっしりと人名毎に書き込んである。


「あのセリオスってのはランカスター家の六男だが他の兄達とは異母弟になっているらしい。母親はラルクスの中堅領主メイロード家出身でセリオスはメイロード家、飛躍の期待の星というところかな。

ただ当然ながら他の兄達と比べてあからさまに立場も扱いも悪い。

彼が指揮する部隊も実際メイロード家が用意しているらしいし、まぁ家督には関係ない立場なんだろうな…

戦歴は国境付近での小競り合いや、小規模な盗賊の討伐位で目立つような活躍は聞こえてきていない…今のところの情報はそのくらいかな、だけどあのカリスマ性は凄かったな。

今後要注意と書いておこう…」


「スゲー!何その手帳?そんな物作ってるんですか」


マルスは本気で驚いていた、カネリがそんなにマメな人だったとは…人は見かけによらない。


「あったりまえよ俺達傭兵は誰につくか、敵はどんなやつかしらなけりゃ生き残れないからな」


たしかにそのとおりだ、マルスはこの部隊でなければどうなっていたのだろうと思うとちょっと怖くなる。


「でも、自分達はこれからどうなるんでしょうね?」


「うーん、砦の防衛って契約は終了だろうし新しく再契約になるのかお払い箱か…隊長次第だしどうなるんだかわかんねーな」


マルス達のような傭兵はその都度任務内容を契約で請け負うのだが、王国と直接契約するのはウェリルのような隊長だけだ。

マルス達は各自が隊長との契約になるのである。


(今の日本でいうところの下請け会社のようなイメージだ)


原則王国貴族の子弟からなる騎士や騎士団所属の常備兵である正規兵とは違って、

国に対する忠誠心などで縛られないがそのぶん危険を嗅ぎ分ける嗅覚と自分の腕が生き延びるために大切になる。


マルスは生まれた街で働き口がなくて偶然見かけた役所の傭兵募集の貼り紙からウェリルの部隊にきたのだが、

この半年で良い隊長や仲間に恵まれなければ生き残れない傭兵職を何となく理解してきていた。


「おう、お前らやっぱりここにいたか」


その声に二人が振り返ると、酒場にウェリルが入ってくる。


「隊長、報告は無事に終わったのですか?」


「まぁとりあえず、次の仕事内容は未定だが待機ってところだな」

「了解しました。ところで、詳しい状況はわかりましたか?

隊長の読み通りラルクスの本体が上流から上陸したってのは聞きましたけど…」


ダグラス砦からの伝令を受けた遊撃騎士団は即座に出動、途中上流地域の複数の砦からの伝令を受けて敵20000以上の大部隊による侵攻を確認。今頃は迎撃戦になっていると思われる。


帝国駐屯軍はラムザールの反乱鎮圧に手間取っているらしい、かなり装備の良い反乱軍がゲリラ戦を仕掛けてきていて振り回されているとの報告が来ている。

この状況から反乱軍にラルクスの関与があるのはほぼ間違いないところだろう。


王都からの親衛騎士団がこちらに到着次第今後の作戦について会議をするらしいので、それまではウェリル達は待機という事らしい。

「20000ですか…騎士団だけでは厳しいでしょうね」


メリスン王国騎士団は遊撃騎士団6000、親衛騎士団4000、2つ合わせても10000程の戦力しかない。

「帝国駐屯軍はあてにならないしな」


本来は属領防衛は帝国駐屯軍の重要な任務の筈だが平和が続いた現在、

派遣されてくる部隊は戦闘経験のない帝国貴族の部隊なのだ。

奴等は反乱鎮圧の名目であちこちで好き放題して私腹を肥やして任期が終われば帰っていく、ただの害悪だ。

まともに戦えるか疑問だが数だけは多い。


マルス達が深刻な顔で話をしていると、砦の他の隊員たちも酒場に続々とやってくる。


「お!無事な奴等は大体あつまったか。

店に入りきれないやつは外だが仕方ない、とりあえずみんなお疲れさん!生き延びた事を神に感謝して祝杯だ、

野郎ども、飲みやがれ!!」


「おぅ!!」


ウェリルが仕切ると、みんな嬉しそうに酒を飲みだす。そしてあけがたまで傭兵達の酒宴は続いた…

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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