同郷の騎士
異世界召喚から幾日か経ったある日だった。狼を喰ったあとから身体能力が少し上がった様な気がする。それと五感が良くなった。気配みたいなものも感じ取れる様になって来ていた。
俺は、崖の近くの洞窟に住む様になっていた。洞窟の近くには、木々が生い茂っており木の実を食べて暮らしていた。木の実の中には水分の多いものもありなんとか食いつないでいたある日の事である。丸くなって寝ていた俺だったが、ガチャガチャという金属の擦れる音と人間の臭いで目を覚ました。
寝床(木の葉を敷き詰めただけのもの。)から起きると近くの木の陰から様子を伺う。鎧を着た兵士達だった。
数は1、2…3人。全員西洋風の鎧着ていた。会話に聞き耳を立ててみる事にした。
「……ここで休憩とする。」
「フゥ疲れた。」
「あ、俺水探してきます。」
一人走り去る音。
「にしても、隊長ここに異世界人が紛れているって本当ですかね?」
「本当だと私は思うよ。……何せ私も同じ境遇だからね。」
「あっ、隊長はそうでしたね。確か、チキュウってとこから来たんでしたっけ?」
「そうだ。」
俺は、ずっと聞いていようと思ったが、我慢できず飛び出した。
「俺は敵じゃない。」と降参というように両手をあげながら。
「なっ、獣人種?」
「こいつ、人狼種ですね。」
同時に手を剣にかける二人。声からして隊長は中性ぽい顔をしたイケメン。部下の方は強面のほうだろう。
「おい、あんた地球人なんだろ?」
隊長の方に話しかける。
「む?日本語か、それは?おい、もう一人を呼んでこい。わたしはこいつと話がある。」
「はっ。」
水を探しに行った兵士の方へと向かって走る兵士。
その背中を見送ると隊長は、それで?という顔をして俺をみる。
「俺の名は氷野涼太郎だ。あんたは?」
俺は顎をしゃくる。
「私か?私の名は、ただのビレラモントだ。本名は、七峰夏菜という。ビレラか夏菜で頼む」
「ああ、よろしく夏菜。って女だったのか?」
騎士みたいだったのでてっきり男かとなんて地雷はさすがに踏まない。もうすでに踏んでる気もしなくもないが。
「むぅ。悪いのか?」
唇を尖らせる夏菜。中世的な顔立ちだが、女と言われると可愛い系より綺麗系の顔をしている。
「いや、別に悪くはない。」
内心、ドキッとするがポーカーフェイスを貫けているはずだ。……多分。
「あんたは、どうやって……」
質問しようとした俺を夏菜は手で制すと
「それより、君のその姿はなんだ?」
「へっ?」
間抜けな声が出てしまう。
「へっ?じゃないわよ。その牙よ。明らかに人のものではないわ。」
「牙?」
歯を触ってみる。確かにギザギザしている。まさかと思いついたことをそのまま口にする。
「動物喰って体が変質することは?」
「滅多に聞かないけどあるみたいよ。」
「じゃ、俺はその類だな。」
あっさりと言ってのけた俺に夏菜は、驚きの表情を浮かべた。
「は?あんた、何喰ったらそんな歯になるのよ?まあ、見れば分かるか。《コール:ステータス》」
薄緑になった板を見ながら夏菜は呟いた。
「半獣扱いよ。人狼だわ。それともう一つ……」
「ギャァァァァア!」
怒声が聞こえてきた。明らかに人では無い。
「大変だわ。あっちは、部下たちが…」
「助けにいくぞ。」
「えっ、なんであなたが?」
目を見開き驚く夏菜。
「あんたとは、話し足りない。聞かせてもらいたい、この世界のこと。」
笑顔で口を開ける俺。
「えっ…ええ、わかったわ。じゃよろしく頼みますよ、人狼さん。」
一瞬引かれた様な気がしたが気のせいだろう。……多分
「おう。」
俺たちは水辺まで走り出した。
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次回は、一週間以内に投稿できる様に頑張りたいです。