教会にて
「うぅ……やっぱ、このパターンからいくと異世界だな。」
俺は、意識を失った後、ここに立っていた。この神殿の祭壇に。目の前には、頭を下げる人々がその数200人以上。
「おぉ、素晴らしい。」「さすが、ナル様だ。見事召喚なさった。」「おお、なんと良い日だ。」
口々に囁き合う人々。俺は、その人々を一瞥してから口を開く。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
この手の小説、ゲームなら結構持っている俺だからこその言葉だ。返される言葉は『おお、勇者様』とか『偉大なる魔法使い様』とかだと思っていたのだが、その予想は覆されることになる。一人の男が進み出てきた。
「儂は教会の第三司祭のナル ゴードンじゃ。」「さっきの質問に答え…」
俺の言葉を遮るようにナルは言葉を重ねた。
「おお、卑しい獣が鳴きおるわい。しかし、見事じゃな。魔力を消費して召喚したかいがあったわ。」
「はっ、何言ってやがる。」
状況が飲み込めない俺は、口を再度開く。
「……これ騒ぐな獣。どれ《コール:ステータス》」
俺の体から縦30センチ横1メートルほどの薄黄色の板が出現した。この世界のステータスプレートだと考えられる。
「どれどれ。腕力0、脚力0、魔力0。素晴らしい。」
俺は自分の耳を疑った。今、なんて……
「おお、適正だ。」「素晴らしい、素晴らしい」「ナル様万歳。ナル様万歳。」
だが、ナルは納得いかない様子で首を傾げた。
「しかし、儂が呼ぼうとしたのはこんなチンケな獣ではなく魔力を持った獣だったはずだ。」
その言葉にまさかと思い至る。思わず握りしめた拳を未だ納得いかないとブツブツ呟くナルの右頬へ。祭壇から転げ落ちるナル。
「おい、お前なんて言った。春乃を獣だと?俺の事はいいけどな春乃の事は……」
そうだ。こいつらが召喚しようとしたのは、春乃だったんだ。
「こいつを捕らえろ。時間など、どうでもよい。”禁忌の森”で奴に喰わせろ。
この獣を喰えば奴も眠るだろう。さっさとせんか」
怒鳴り散らすナル。
「はっ。」
人々の中から二人が出てくると
俺に目隠しする。
「おい、離せ。」
叫ぶ俺に構わず二人は俺の腕を左右で持ちあげるとそのまま歩き出した。
それからどれくらいの時間が経っただろうか、左右の腕から力が抜ける。
無言で立ち去る二人。俺は目隠しを乱暴にとると、そこは木々がうっそうと生い茂る森だった。
「ここが、禁忌の森か。」
辺りを見渡す。すると、後ろに何かの気配を感じた。そこには、2メートルを超える大きな狼。
「…嘘だろ。」
ここから、この大狼と俺の追いかけっこが始まった。
前回、コメント頂きましてありがとうございました。沢山勉強させていただきました。
これからも、コメント等宜しくお願いいたします。