平穏な日々の終わり
ピヨピヨ、小鳥のさえずりが聞こえる。俺の目覚まし代わりだ。
「ん……あとごふぅう⁉︎」
あと五分と呟こうとした時、真上から落ちてきたものが……
「おはよー。さあ、起きた起きた。」
布団の上に覆い被さっていたのは、
異兄妹で同い年の氷野春乃である。つやつやとした黒いロングヘアーに真っ白な雪の様な肌。大きな真っ黒の瞳。母親似の高い鼻に父親似の薄い唇。まさに美少女である。家ではテンションがマックスで、お淑やかな雰囲気の欠片もないがクラスや学校の中では”お淑やかな春乃さん”で通っている。ちなみに、さっきの鳥のさえずりは春乃のモノマネである。モノマネで俺を起こすのが日課らしい。
「う…わかったからどいてくれないか?」
「はぁい。」
俺の腹の上にダイブしたままだった春乃は、素直にどく。
「おっ今日は、素直じゃないか。」
「えっ、だって時間。」
時間?頭にハテナが浮かぶ俺に春乃は、俺の前に目覚ましを持ってくる。時刻は、7時50分。
「ヤベェ。春乃、先に玄関で待ってろ。」
「ラジャー。3分間で準備しな。」
テンションが異常なほど高い春乃は、
タタタッと階段を降りて行った。俺はうーんと伸びると制服をとりダダダッと階段を忙しなく降りた。
「はぁぁあ。焦ったよ、春乃。イタズラが過ぎるだろ。」
さっき春乃が見せたのは、止まった時計で本当は7時30分だったのだ。
「そうですね。お兄様。」
「いや、キャラ変わりすぎだろ。」
さっきとは、全くの別人になっている春乃。その横を歩く俺には、周りからの視線が刺さる。そりゃ、学校一の美少女と同じ屋根の下で暮らしてお兄様なんて呼ばれてたら、俺だって睨むけど俺と春乃はそんな関係ではない。俺は、春乃に恋愛感情は一切もっていない。可愛いとは、思うが……
俺の気持ちも知らず春乃は
「お兄様、お口にジャムが……」
ハンカチを出して俺の口を拭く。やめてぇえと叫びだしそうになる程周囲の視線が痛い。少し通学路を歩く。すると、春乃がついてこない。おかしく思い振り返ると春乃は足が埋まって動けなくなっていた。
ここはアスファルトの道路だぞ。目を疑っているとすぶぶぶと春乃の足がどんどん埋まっていく。
「春乃⁉︎待ってろ今助ける。」
春乃の腕を引っ張り踏ん張ると少しずつ足が抜ける。
「そりゃあぁ。」
気合いと共に思いっきり力を出すとスポンと足が抜けた。しかし、またすぶぶぶと足が沈み始める。そうだ。周りの人に助けを…と周りを見渡すが誰一人としていなかった。
「嘘だろ…」
こうしている間にも春乃は沈んでいく。そうだ。たった一つの打開策。春乃をもう一度引き上げた俺は、春乃を突き飛ばす。
「お兄様⁉︎」
「お前は助けを呼んでこい。大丈夫俺なら」
大丈夫なわけがない。でも、春乃よりも俺の方がまだ耐えらるかもしれないから…だから
「はやく行けぇぇえ。」
初めて春乃に怒鳴った。
「は、はい。ちょっと待っててください。すぐに…」
タッタッタと走っていく春乃。その背中がどんどん遠のくと俺の意識も遠のく。お前だけは、逃げろ……俺は意識を失った。
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