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チートを持たない俺は異世界で……  作者: 朱瓢箪
全ての始まり
15/22

出会い

「うーん、空気が澄んでる!」


冬香は、うーんと伸びをする。

王都から馬車で二時間半揺られて着いたのは、新禁忌の森郊外。

俺たちは、ここに現在謎の光の調査に来ていた。


「このまま、お昼寝したい。」

「置いてくよ?」

「ま、待ってよ〜」


スタスタと歩き出す俺の後ろに小走りで付いて来る冬香。

やっぱり、可愛いな。

そういえば、改めて思うけど俺の周りって可愛い奴多いよな。

夏菜に、秋月に、冬香。それと……誰だっけ?あの、向こうの世界にいる……全然思い出せない。


「ん?どうしたの?」

「えっ、い、いや別に。」


不思議そうな顔をして近づいてくる冬香。

あまりの可愛さにドギマギしてしまう。

その為、早口で答えるしかない。

一年も経つのに情けない。

そんな事を考えていると突然森の中から、


「グワァァァァア」

「止め……て。」


やばい、やばい。俺じゃ確実に勝てない。そりゃ、一年みっちり鍛えられて強くはなったけど、それでも森の獣に勝てるほどではない。


「なんだ、一匹か。つまんないの。」


冬香は、ボソッと呟くと手を天へと向け一言呪文を唱える。


「消えろ、《神々の黄昏ラグナロク》」


その瞬間、空に巨大な魔法陣が出現した。その魔法陣から、大量の光の矢が降ってきた。

その一本一本が、神殺しと恐れられている。

そして、冬香は同時にもう一つの魔法を行使した。


「集束せよ」


たった一言呟いただけでその光の雨は

一本の途轍もなく細くて長い槍へと形状変化し森の獣がいるとおぼしき場所へと突き刺さった。

その物凄い威力に唖然とする俺に、冬香は笑いかけた。


「魔王クラスでも、死んじゃうんだよね。……オーバキルかな?」


とんでもない化け物だ。

しかし、この世界には、チート能力がない。

これは、全員に確認済みだ。

転移した時は、一般人のまま。

一体なら、どうやってこんな大魔法を覚えたり、炎の剣を具現化させたりできるのだろうか。これを聞いた時、揃いも揃って異世界転移組の夏菜、秋月、冬香は


「「「年のなせる技」」」


と言ってたけど……

やはり、年は恐ろしくて聞けない。


「さぁて、さっきの子大丈夫かな?」


恐れ慄く俺の頭の中を知ってか知らずか声のした方へとずんずん進む冬香。

その冬香について行くと、そこには一人の少女がいた。

途轍もなく整った顔に真っ白な髪、儚げな印象を与える双眸。

血だらけな絹のような白い肌。

申し訳程度にふっくらと膨らんだ二つの小山。

その一糸纏わぬ姿をじっくり見てしまうほどの魅力があった。

ん……一糸纏わぬ?


「涼太郎、目を塞げ!」

「ぎゃぁぁぁあ、俺の目がぁぁぁ目がぁぁぁ」


思いっきりチョキで目潰しされた。

痛いよ、じ○ん拳くらった人の気持ちが今ならわかる。これは、痛い。


「あのぅ……大丈夫ですか?」


白髪少女が口を開いたらしい。

冬香は、体にヒールをかける。


「大丈夫よ。この馬鹿、打たれ強さだけが取り柄だから、それに貴女だって見ず知らずの男に裸なんて見られたくないでしょ」

「あっ……えっち」

「酷いよぉぉお」


血の涙を物理的にも精神的にも流す俺をさらっとスルーした冬香は、魔法で服を創ると少女に着せたらしい。

布が擦れる音がする。

それが、より想像を掻き立てる。

そして、俺の目をヒールしてくれた。

俺は、そのまま目を開くとそこには、天使のような少女がいた。

真っ白な髪によく似合う真っ白なワンピース。

可愛いさを最早超越している。


「どう……でしょうか?」


上目遣いに俺を見上げる少女。


「あ、う、うん。か、可愛い。めちゃくちゃ可愛い。」

「ありがとう……ございます。」

「…………」


途轍もない殺気が隣から放たれている。なので、俺はフォローも忘れない。


「いや、これは冬香のセンスだろ。

やっぱりセンスがいいな。可愛いよ。

勿論、冬香もね。」


ふっ完璧だろと心の中で髪をかき上げる俺に二人のジト目が。


「……女誑し」

「……女誑し……です」

「えっ……なんで?本当の事じゃん。」


えっ……何を間違えた?分からん。


「まぁ、いいわ。ね、涼太郎どうする?」

「いや、どうするって聞かれても……帰るだろ?一緒に。」

「えっ……そんな……私もいいのですか?」

「当たり前だろ?」

「そうね。」


突然一緒に行くと言われて驚き戸惑う少女。

当然だと言う俺たちにも、戸惑っている。


「あのなぁ、こんなに可愛……痛て

つねるなよ!……まあ、なんだ女の子は置いてかねぇよ。」

「私もよ」


即答した俺たちに涙を浮かべる少女。


「ありがとうございます、ありがとうございます」

「いいって。……あっ、名前。名前教えてよ。」

「それが……記憶がないのです。」

「えぇ⁉︎……なら私がつけるわ。

うーん、夏、秋、冬、涼……なにか関連性をもたせたいな。春は?」

「駄目だ!」


気付くと俺は叫んでいた。

春という名前は納得いかない。

まるで誰か大切な名前のように。

誰だっけ?

驚いたような顔をしていた冬香は、気を取り直したように続けた。


「じ、じゃあ、どうしましょうか。」

「今お仲間にどんな方たちが?」

「えっと、俺氷野涼太郎と倉梯冬香、鳴瀬秋月、それと七峰夏菜の四人だね。」

「うーん……悩みますね。」

「レイカは?」


俺は、ふと口を突いて出てきた名前を口にする。レイカ、誰だったか?

あっ、昔やってたギャルゲーのヒロインの名前かも。


「レイカ……いいですね。」

「そうね。レイカ、なかなかね。

なら漢字は、冷夏かしら。」


思いの外好評である。しかし、冬香よ。冷夏は、ないだろう。冷夏は。

その後、レイカの漢字を考えるのにとんでもない時間を有したのは、別の話。


その頃、夏菜と秋月はというと……


「化け物ね。」

「……激しく同意。」


化け物な異世界人と会い見えていた。


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