プロローグ
「うわぁぁぁあ」
俺は走っていた、ひたすらに。
理由は明白。巨大な狼に追いかけられているから。真っ赤な舌を裂けた口からチロチロとだしながら俺を追いかける狼。
俺の中を駆け巡るのは、たった一つの疑問だった。それは……
『どうしてこうなった?』
である。
つい、数時間前まで学校の通学路を何気なく歩いていたではないか。
何故?何故?何故?
「ちくしょおおおおおおおおお」
悔しさを声に乗せる。誰にも届かないもしても。
「このワン公!お前、なんで俺を追いかけてるんだよ?俺なんかうまくないぞ。ほら、あの山の上の教会には美味しい老人達が…」
「グワァァァァア」
交渉を試みるも失敗。俺は目の前に広がる崖を見てもう諦めた。なら、生きる可能性の高い方を選ぶ。それは……
「こっちだ。このデカイの!」
崖にこのデカ狼と一緒に落ちること。最悪の場合でも、狼を下敷きにすればなんとかなるのではないか。その考えを実行するべく動いた俺だったが、すぐに断念した。無理だ。目の前に迫った崖は、深さ100メートル以上だろう。死ぬしか無いのか?否だ。
俺には……
「生きる目的がぁぁあ、あるんだよぉぉ」
気付いたら叫んでいた。
「グルゥゥァァァア」
狼も叫ぶ。
「勝負だ。デカイの!」
崖を突っ走って上に跳ぶ。どんどん重力で落ちていく体をひねりながら狼は?と上を見ると狼は立っていた。崖の上に。
「この勝負ぅぅう俺の勝ちだぁぁぁぁあ」
こだまする勝利宣言。ヒュュュと音立てながらどんどん落ちていく体。…もうだめだ。意識が朦朧とする。意識を失う前に見たのは、上から落ちてきた巨大な生物がこちらに向かってにやりと笑うかの様に口を半月の様に歪ませた顔だった。