#4 最初の一球
2015年12月2日誤植を変更(ストーリーには変更ないです。すいません)
「良いんですか?あんなあっさり」
マウンド上の鷹崎を見守る主将を後ろから追いかけながら蓮見は追いかけていく。
「良いんじゃないの?本人も投げたいって言ってるんだしさ」
主将らしくない主将は軽いノリで笑っている。一応彼は先輩なので遠慮したいが共に部を支えているマネージャーの蓮見としては一発殴ってやりたい気がしないでもない。
「でも体験入部の期間はまだ始まってないですし」
「監督来る前に止めさせるから大丈夫だろう。ていうか今日は来ないか……」
主将としてあまりにも飄々としているこの男を説得するは諦めざるを得ない。そもそも鷹崎は自分が連れてきたのだ。とは言っても練習に参加させようとは思っていなかった。軽く顔見せをさせるだけのつもりだったのだ。
そして騒ぎの当人の男はマウンドに上がって楽しそうにキャッチボールをしている。相手はキャッチャーミットを付けた空井だ。
(いったいどれくらいのボールを投げるんだろうな)
キャッチボールの軽い返球をミットで受けつつ、空井は考える。
肩が十分に温まったのか鷹崎が軽く頷いたので空井は数歩下がりベースの後ろに座り、いつものように構える。いよいよ投球練習の始まりだ。マウンドから18.44m向こう側に空井の構えるミットがある。
(投球練習とは言え俺の高校野球のデビューだからな。気合い入れて行かねーと)
ふぅ、と軽く一息吐いて大きく振りかぶる。
左足を大きく上げる動作、いつもの流れるようなティクバック、その全てが歯車のように重なり合うその時、指先に全神経を集中させ一気に持てる力を爆発させ、直球を矢のように放つ。
矢のような直球は大きな唸りを上げまるで生き物のように空井に向かって猛進していく。
バシッ!
捕手の空井のミットが響き、そして訪れる静寂。先程まで活気に溢れていたグラウンドは急に張りつめたような空気に包まれる。
「…………」
誰も言葉を発しない。聞こえるのは鷹崎京矢の軽い息遣いだけだ。それ以外は全て時が止まったかのような静寂に包まれている。
そして静寂から解き放たれたかのように上がったのは絶叫だった。
「うぉぉぉぉ!!!!何だ今の滅茶苦茶速かったぞ!!」
「150km/h近く出てるんじゃねーの!?」
「ていうかノビスゲェェェ!!」
捕球こそ出来たものの空井はやけに痛そうにミットを付けていた左手を上下に振っている。
(いってー、スピードもそうだけどなんて重い球だよ……)
空井は捕球した瞬間にミットを弾き飛ばされそうになった。ミットを強く握ることで何とか飛ばされずには済んだがマウンド上の男が投げるその直球の威力は圧倒されてしまった。
(部室で言ってたけどまさかこいつが……)
マウンドの鷹崎が返球を促したのでミットの中に納まったボールを彼の胸元に投げ返した。
「おい、鷹崎!さっき聞き忘れたけどお前の出身中学って……」
「え?黒須中ですけど……」
キョトンとした顔で鷹崎は答える。
「じゃあ九州ベスト4まで行った時のエースって……」
「あ、それ俺です」
またもキョトンとした顔で鷹崎は手を挙げて主張した。
「そうか……お前か……」
ざわつく部員たちを見て鷹崎は何となく察した。
(ああ、やっぱ俺のこと知ってたんだ)
彼には実績というものは付いてくるがそれに対して長岡翼ほどの執着心は持ち合わせていない。というのもそのベスト4という成績は過去のもので高校野球では全く役には立たないし、そもそも九州大会を勝ち上がれたのは自分一人の力では無くチーム全員のお陰だと思っている。だからそんな成績で讃えられても鷹崎としては少々困惑せざるを得ない。
「ああ、なんかどうも。褒めてもらって」
頭を掻きながら鷹崎は困った様に対応する。今日はもう投げられればそれで満足だったのにまさか自分の過去まで穿り返されるとは考えても見なかった。
とは言ってもこの対応はある意味当然ではあった。望月のような私立であれば毎年のように優秀な人材が集まることで必然的にそのような騒ぎは中和されていくのだが蒼天のような公立校にはそもそも中学で好成績を残したような選手はそこまで多く集まることは少ない。古豪と呼ばれる蒼天ですらそうなのだろう。
「えっと……続き投げて良いですかね」
鷹崎は戸惑いながら尋ねると主将は「ああ」と頷いた。
「どのくらい投げられるのか気になる。適当に散らして良いから10球ぐらい投げてみて良いよ」
はい、と頷いて鷹崎は正面に向き直った。空井が少し嫌そうな顔をしているが主将の命令とあれば仕方ない、といった具合にミットを構えている。
「あ、ちょっと待ってもらって良いか?俺が打席に立つ」
そう言うと主将はいそいそと金属バットをベンチから持ち出し、右打席で構えた。
「打ったりしませんよね?」
苦笑しながらミットを叩く空井に「ああ、打たない」と主将は断言する。
「どんな球筋なのか気になっただけだ」
「なら良いんですけどね」
二球目、空井の構えた内角に直球が決まった。それ主将は感嘆の溜息を漏らした。
「打席に立つといっそう速く見えるな」
マウンドから放たれた直球は球速以上のノビを見せて空井のミットに吸い込まれた。
「これでボールまで重いですからね」
苦笑いしながら空井はマウンドの男にボールを投げ返す。
「たった二球で手が痛いですよ」
「とか言いながらしっかりキャッチしてるあたりが流石だな」
「勘弁してくださいよ。普段捕っている良いとこ130弱のボールからいきなり140オーバーの直球ですよ。俺の左手は悲鳴を上げていますからね」
はは、と主将は笑いながら構え直した。
三球目、今度は外に直球が決まった。
(構えたところに投げる制球力はまぁまぁか。でも必殺の140オーバーがあるんなら中学では十分過ぎるほど通用するな。でも高校レベルとなると……)
空井はそう考えつつマウンドに投げ返す。
「鷹崎!ちょっと変化球投げてみてくれ。キャッチャーはノーサインで捕ってくれるらしいぞ」
いきなりなんて無茶振りだ、と思ったが主将である霧生の無茶振りは今に始まったことではない。
(ったく勘弁してくれよな)
内心でぼやきつつミットを構える。それを確認して鷹崎は投球モーションに入った。左足を高く上げるその動作はあのメジャーリーガーのマネだろうか、そんなことを考えながらボールの行方に集中する。
投げられたのはスライダーだった。霧生の手元で右斜め下にクィッと曲がった。
バシッ!
ノーサインだったが空井は難なく捕球した。
(変化球はまぁまぁと言った所か……決め球になるかどうかはさておき空振りは取れそうだな)
空井からの返球を受け取りつつ、鷹崎は右肩を何度か回す。
(初見であっさり捕られたな)
ふと中学時代の恋女房だった烏丸を思い出す。彼は中一の夏から鷹崎とバッテリーを組むことになったが組んで直後に鷹崎が変化球の練習を始め、恋女房が随分捕球に苦労していたのだ。
(懐かしいなーあいつ俺のまっすぐ初見で捕ったくせにさして変化しなくても変化球は大の苦手だったもんな)
今となってはそんなことは無いし同世代では県下有数の捕手に数えられる烏丸だが変化球が苦手だったというのは過去の意外な欠点だったのだ。
(ずいぶん苦労して捕れるようになったけどそれを初見で仕留めるところが高校との違いってことなんだろうな)
かつての恋女房を思い出しながら鷹崎は次の一球を空井に投げ込んだ。
「よぉし、こんなもんだろ」
10球ばかり投げたところで主将が終了を指示した。少々投げ足りない気もするが初日から飛ばして投げるのも良くないだろう。大人しく指示に従い素直にマウンドを降りていく。
(ふぅ、楽しかったな)
鷹崎は満足げな表情で一塁側の部員が集まっている輪の中に入って行く。
「鷹崎君お疲れ。中学までは軟式やっていたみたいだけど硬球を投げるのは今日が初めてか?」
霧生の問いに「いえ」と鷹崎は首を振った。
「中学で最後の大会が終わってからたまにですけど投げてました。高校に入る前から投げ過ぎたら肩肘に良くないと思ってキャッチボールとか軽く投げ込みぐらいでしたけど」
なるほど……、と空井が頷く。
「その割には大したボールだったね」
どうも、と鷹崎が頭を下げた。
「ああ、俺は三年の真海。一応このチームでエースをやらせてもらっている右のサイドスローだよ」
真海はニコリと笑った。爽やかそうな男だ。身長は鷹崎より少し低いが引き締まっている。
「霧生、まだ正式な入部にはならないけど一応何人かの部員は紹介しておいたらどうだ?」
その提案に呆気に取られたように「そう言えばそうだな」と主将である霧生が返した。恐らくそんなことは考えていなかったか忘れていたのだろう。
「じゃあまず俺から行かせてもらうか。俺の名前は霧生和紀。野球部のキャプテンをやっている。よろしくな」
霧生が伸ばした大きな手を鷹崎はグッと握った。
「よろしくお願いします」
太陽が夕焼けに代わり沈む頃に野球部の練習はようやく終わった。もう既に他の部の部員たちは下校を始めておりグラウンド横の道を談笑しながら歩いて去っていく。
「よーし、じゃあさっさと道具かたせよ!手の空いているやつはトンボ掛けとけ!」
霧生の的確な指示の元で片づけが始まっていく。
「ああ、ユキちゃん。さっきの鷹崎は?」
手にしたノートと睨めっこしながら歩いていた蓮見は振り返り「もう帰りましたよ」と答えた。
「ちょうどさっき全体でノック始めた頃ぐらいに。「今日は来て良かったです」ってお礼言って帰って来ましたよ?」
ノックを打つことに集中していたので全然気付かなかった。というか帰るなら一言ぐらい声をかけてくれれば良かったものを。いや、練習の邪魔をしたくなかったのだろう。
「ユキちゃん、あいつ野球部に入ると思うか?」
えっ?と蓮見は首を傾げる。
「入らないと思います?」
「うーん、入ってくれるとは思うんだけどな。ただな……」
「ただ、なんですか?」
「ああ、ただあんだけの才能持った奴がなんでうちみたいな中堅校に来たんだろうとちょっと疑問に思ってな?」
普通あれだけの実力があるならもっと別の実力校に行っても不思議ではない、霧生はそう考えていたのだ。
「言われてみればそうですね?でも案外家が近かったりとかだったりして♪」
クルっと振り返り蓮見は自信ありげに答えてみせる。
「随分軽いノリだな……」
そんなマンガのライバルキャラみたいなノリかよ、とツッコミを入れたくなるが話が拗れそうなので喉元で留めておく。
「そもそもそんな心配しなくてもちゃんと入りますって!余計なことばっか考えなくて大丈夫ですって♪脳筋のくせに」
ん?と霧生が首を傾げる。
「今ユキちゃんさり気なく酷い暴言吐かなかった?」
いいえ、と小悪魔っぽく笑って雪凪は部室へとスキップしていった。
「今日、誰か来てたのか?」
「はぁ!?」
気の抜けた彼の一言に制服に着替えていた紗森が発した声は見事に裏返った。
「お前今日何見てたんだよ!?来てただろ!?新入生の投手が一人!投げてただろマウンドで!」
怒涛の勢いで今日起こったことを話すが当の相手はポカーンと間抜けた様に紗森を見つめている。
「……悪い見てなかった」
それだけ言うと彼はロッカーに掛けていた上着を取り出す。
えぇ……、と紗森は溜息を吐く。練習を一時中断してまで鷹崎に投球練習をさせたというのにそれに見ていなかったとはこいつは一体何をしていたんだだろうか?と呆れるしかない。
「あんた今日の練習何やってたのよ……」
「練習だが?」
ああ、そう……もう紗森は何も言えない。
「しょうがないよ紗森。だってこいつフリーバッティングの時からずっといつもの場所で素振りしてたからさ」
真海のフォローで「ああ、道理で」と紗森は納得する。
「もはや日常の光景ってことで気付くのも忘れてたっすわ。主将もこいつがいないものと思ってノック打ってるっすからね」
いやーそれはどうだろ?と真海は首を傾げる。
「霧生の場合いないものじゃなくて本当に気付いてなかっただけな気もするけどな」
「そうですかね?」
紗森がおどけた様に笑った。
「ところで紗森、今日誰が来てたんだ?」
紗森は呆れざるを得ない。
「えぇ……さっき言ったじゃん。新入生の凄い投手が来たって」
「凄い投手?」
着替えていた彼の手が止まり、紗森を凝視する。
「どんな投手だったんだ?」
「どんな投手ってもなあ。まっすぐが速かったな。多分140は普通に超えてるはずだな」
「それで一年となると速いな」
彼は着替えるのを再開し、ロッカーからシャツを取り出した。
「まあそれでもお前なら打てるんじゃねーの?珠峰」
えっ?とシャツから頭を通しながら珠峰は紗森に目を向けた。
「さあ、どうだろうな」
珠峰と呼ばれた男は淡々と答えつつ口元を緩み制服に袖を通した。
あ、どうもお久しぶりです。一か月ぶりです作者です。
一か月間更新出来ずにホントすみませんでしたぁぁぁあああ!!!(土下座)
まあ、何をしてたかって言われたら色々大学の勉強とかだったんですけどね。もう少し早く更新できるはずだったのにこんな遅くなってしまいまっこと申し訳ない次第この上ないです。この小説初めてもう3~4か月経つのに全く話進んでなくてやべえ、と危機感を覚え始めたんでちょっとペースは上げようかなと思います。せめて月3回更新はしたいですね(出来るとは言っていない)
さて、反省とかそれぐらいにして今回更新の話しましょう。鷹崎が投げる、速い、凄い、以上。これ以上言いようがないです。正直書いた本人も「地味ぃ」としか思ってないんで。やっぱ野球なら打者と真剣勝負してこそ投手の直球の威力ってのは伝わりますね。そういう意味では今回のはちょっとミスったかなと反省してます。次回からは本格的に入部、色んな奴が出ては死に(嘘)ますのでお楽しみに。
さてじゃあそろそろ野球の話しましょう。今さらですけどプレミア12ですね。さー日本のあの負け方はなんじゃろな?まあ、もう済んだ話ですし散々ネット界隈、TBSと名の付く球界ご意見番でもやってたんで語りに落ちるんで作者的に一言
「小久保君!税金は払おう!」
いや、やっぱ小久保といえばこれなのか、と。野球関連のニュースが見たくてたまに見るまとめサイトの「たまべヱ」を文字って「だつぜヱ」は流石に笑いました。あいつら才能の無駄遣い凄いですね……
まあそんなことはどうでも良いんです。9回のあの則本の続投、結果論といえば結果論ですけど個人的には交代してホーム東京ドームで一年間最終回のマウンドを守ってきた澤村に任せても良かったんじゃないでしょうかね?そしたら何だかんだ勝ててた気がしますよ。多分優勝もイケた………………はず。
しかし小久保監督はどうするんでしょうね?多分続投?なんか次は辞退者一杯出そうでちょっと楽しみ……(ニッコリ
さてプレミア12の忌々しい話は止めて巨人の話しましょう。高橋由伸の引退セレモニーで俺は泣いた。弟が見てたらしくてテレビ画面を直接録画するという斬新な手法を使いLINEで送ってくれたのを見ました。やべえ、涙がボロボロですよ。やっぱ由伸はスターですね。引退は非常に残念かつ悔しいですが来年の巨人をどう率いていくのかとか若き青年監督の双肩に非常に期待。でも取り敢えずその左肩についてるダブル村田はゴミ箱へ。
話ついでにも一つ巨人の話、太田泰示来年こそイケるか!?これ何回目だろう?個人的に一番期待したのが去年の秋ごろ、広島戦で優勝ほぼ確定のアーチを放ち、ナゴヤドームで球界のシーラカンスことおくりびと昌山本からホームラン打ったり躍動してた時ですね。日米親善試合で派手に打って牽制でアウトになる様式美を見せたのもこの頃でした。五郎丸フォームとかおかわりフォームとか色々見るたびに打法の変わる不思議な男ですが果たして来年はどうなる!?頼むからピークをオフシーズンに持ってくるのはもう止めてください。
さーてまだ野球の話はありましたかね……無いんでここ最近の話しましょう。ついさっきガンプラを八年ぶりに買いました。中一の時にホークスタウンのトイザらスで買ったHGガンダムエクシア以来ですね。ちなみに今回買ったのはダブルオークアンタ、間のダブルオーガンダムとダブルオーライザーは何処や!?とかいうガンダムファンしか知らない話は止めましょう。ガンダムファンからもダブルオーは評判悪いんですよね……スーパーロボットっぽいって。まあ否定せんけどさ。でも映画版の映像とかは凄いんで是非、カメラワークあんま良くないんでどういうことか分かり辛いですけどね。
さて模型の話から繋げて水木しげる先生の話を……速報見て凄い驚きました。こう言っては不謹慎なんですが「ああ、水木先生も死ぬんだ……」って思いましたね。最早一種の妖怪じみた人というか妖怪そのものだったんで亡くなって本当の妖怪になるのではなかろうか、と。
水木しげる先生について詳しく知ったのは高1の時に朝ドラでやっていたゲゲゲの女房でしたね。ある意味自分の人生を変えた作品でもあります。この作品で水木しげるの不遇だった時期や仕事に対しての取組み、はたまた生きる意志などなど色んなことを知り、吸収しました。なんというか自分の人生で絶対に忘れられない一本、この作品で松下奈緒さんと向井理も知りましたし自分の俳優女優の趣味もここで完成されてたり。だって松下奈緒可愛いもん。
でまあ水木しげると言えば奥さんの布枝さんですね。なんというか凄い人だったんだなと著書を読み返して思います。はあ、改めてみると亡くなったの凄いショック……国民栄誉賞受賞した漫画家これで全滅か……水木しげる先生は死なないものだとずっと思ってましたからね。昔水木しげるが死ぬとゲゲゲの女房完結編とか作られるんだろうか?と考えてましたがはてさてどうなることやら。
武良しげるさんのご冥福をお祈り申し上げます。
はい、切り替えて明るいテンションで行きましょう。放置していたPSO2再開しました。友達とやってますが楽しいです。ちなみに使っているのは女のヒューマンでブレイバー。名前は……内緒ですけど割と作者名に近いですよ?灰色っぽい長髪ポニーで爆乳で蒼のドレス着ているブレイバーがいたら是非一声。
そんなわけで次回予告
鷹「次回、遂に入部!かと思いきやいきなり!?こうご期待!」
烏「いや、なんだよ」
次回の更新未定デース、年内には確実に。