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最近めっきり萌香からの連絡が少なくなった。俺からばかり連絡する一方で、その連絡への応答もはかばかしくない。
今までは必ず週に一度は会い、頻繁にメールや電話で連絡を取っていたが、会う約束を取り付けることすら難しくなっていた。何かおかしい。
久しぶりに会えた時、萌香の表情の暗さが妙に気になって仕方なかったが、あまりそれについて触れてもかえって頑なになってしまうのではないかと怖かった。俺は徐々に憶病になっていった。
仕事の忙しさを言い訳に連絡も間遠になっていく。
そんな後ろめたさを抱えたまま仕事をしていれば当然ミスも増え、上司から叱責されることも多くなり落ち込みがちになっていたある日、そのメールはきた。
「ごめんなさい、さようなら」
萌香からだった。
その短い文面を何回読み返しても理解出来ない。なんの間違いだ、これは。
仕事を抜け出し萌香に電話をするが何回コールしても繋がらない。メールをしても返事はこない。
やがて電話しても電源が入っていないというあのアナウンスが流れるだけになってしまった。
ここまで頑なに拒絶されるような理由がわからなかった。その日は結局仕事が手に付かずあきれた上司から残業せずに帰って休むよう言われてしまった。情けない限りだ。
その足で萌香のマンションへ向かったが、すでに引き払われた後だった。なんて悪いデジャブなんだ。
「そうだ、岡村さん」
萌香の親友を思い出し電話をする。
「もしもし」
「あ、岡村さんですか。俺、真田です」
「あー、どうも。どうされました?」
「萌香と全然連絡が取れないんですが、岡村さん何かご存じじゃないですか」
「...」
「岡村さん、何かご存じなら教えてください。お願いします」
「あの子、会社辞めたんですよ」
「え」
「私も退職した後に知って。電話してみたんですけど電源落としてるみたいで」
「そうだったんですね...今どこにいるかとか、ご存じないですか?マンションはすでに引き払ってあるんです」
「そうなんですか?...ごめんなさい、それも知らなかったです」
「そういえば萌香の実家って札幌市内ですよね?場所はご存じですか?」
「ごめんなさい、実家はわからないです」
「そうでしたか。わかりました。何かわかったらご連絡お願いできますか?俺のほうも何かわかったら連絡しますんで」
「わかりました。よろしくお願いします」
そうか。親友にすら相談せずいったいどこに行ったというのだろう。実家にいる可能性は考えられるが、彼女の実家は札幌市内ということがわかるだけでそれ以上の情報がない以上さすがに探すのは困難だ。
萌香を探したい。しかし気持ちが逸るばかりでなんの手だてもない。いつ電話してみても電源は入っていない。
諦めるしかないのか。
しかしどれだけ焦っていても仕事は通常通りこなさなければならない。年末に向けて繁忙期に入っていた会社での業務に忙殺され、逃避するように俺は萌香のことを考えないようになっていった。
萌香との連絡が取れなくなってから約一ヶ月。仕事中、岡村から電話の不在着信があった。
残業を終え帰宅後岡村に電話をする。5回ほどコールした時点で電話が繋がった。
「あ、真田さん?」
「はい。岡村さん、お電話いただいていたみたいなんですけど、今大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。真田さん、萌、実家にいます。電話がきたんですけど、元気そうでした」
そうか。安堵に深い息が漏れる。
「真田さん」
岡村の声が急に真剣味を帯びる。
「はい」
思わず背筋が伸びる。
「いつだったか萌の誕生日をお祝いした日があったでしょう」
「はい」
「あの日、えーと。ちょっと言いにくいな」
「なんでしょう」
「はっきり言いますね。いい雰囲気になったのに拒絶されたって」
そんなふうに思っていたのか。ショックに声が出なくなる。
「萌、真田さんのこと本当に好きなんですよ」
絞り出すような低い声で岡村が続ける。
「好き過ぎて辛くなっちゃってたんですね。言ってました。怖いって。自分なんかが真田さんと一緒にいられるってことが、幸せでいられるってことが、怖かったって。私、なんて言ってあげたらいいかわからなくて」
さらに岡村は低い声で言う。
「会社の前で真田さん、男の人と鉢合わせしたでしょ」
「はい」
「あれ、去年萌香のこと振り回した男なんですよ。彼女いたくせに別れそうになって辛かったからって萌を利用して。そのくせ、結局その彼女に振られたからってまた戻ってきたんですよ。私許せなくて。なのにあんな男のせいで萌は自分は真田さんにふさわしくないなんて」
もう何を言ったらいいのかわからなかった。
「真田さん、聞いてます?」
「あ、はい。すみません、なんて言ったらいいかわからなくて」
「そりゃそうですよね...あの...今でもあの子、間違いなく真田さんのこと好きなんです。勝手なお願いかもしれないんですけど、待ってあげてくれませんか。今は時間が必要なんだと思うんです」
「...わかりました」
「ありがとうございます。萌にはちゃんと真田さんに連絡するよう言っておきますから」
「大丈夫です。萌香の気持ちが変わっていないのなら、俺は待てますから」
電話の向こうでくすくすと笑う声が聞こえる。
「...リア充爆発しろ!」
思わず吹き出した。
「いつか萌香が俺のところに帰ってきてくれたらいくらでも」
笑って返す。
「じゃ、そういうことで」
岡村が言って電話は切れた。
萌香が無事なことを知って俺は思わずその場にへたり込む。
そうか。あの時ちゃんと説明してやればよかった。そんな後悔も今更どうにもできない。
俺に出来るのはただ待つことだけ。もどかしいがどうしようもない。
やがて訪れたクリスマスは仕事に没頭することでなんとか乗り切った。
いつになるのかわからないが、きっと萌香は戻ってくる。信じることしか今の俺にはないのだから。
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